「竜児、痛いよ…いたいよぅ…」

真夜中、高須竜児は隣りでおとなしく寝ていたはずの恋人の声で目が覚めた。

見ればたちまち切り傷を負ってしまいそうなほど鋭い三白眼をゆがめる。

こんな時間に安眠を妨害しやがって。なんだか弱ってる今がチャンスだ!このままトドメをさしてやろうか!?―などと考えているわけではない。純粋に心配しているのだ。

「どうした!?どっか具合でも悪いのか?」

「…おなかが、痛いの…」

そういえば、今日の大河は微妙におかしかった。夕食時、いつもなら3杯はおかわりするはずのご飯を2杯しか食べなかったのだ。竜児は不思議に思いつつも、他は変わった様子がなかったのでそこまで気にはしなかったのだが。

「とにかく痛み止め…いや、医者か!?」

「そこまでは…大丈夫だから、そのかわりお腹さすって…」

目尻に涙を溜めた、辛そうな大河のお願い。

「…わかった。なるべくゆっくりするから、今より痛くなったら言うんだぞ?」

こくり、と大河がうなずく。

まさに腫れ物に触るように竜児は大河のお腹を撫でる。

そうしていると今まで苦しそうだった大河の表情もいくぶん和らぎ、目を閉じたままぽつぽつとしゃべり始めた。

「…実は今日、アノ日でさ…。今までこんなにひどかったことないのに、今日に限ってめちゃくちゃ痛むんだもの…。ホントもういやになっちゃう。寝る前まではなんとか我慢できそうな痛みレベルだったんだけど…」

なんのことなのか、他人から鈍感扱いされる竜児にもさすがにわかった。女性に限って月一でやってくるアノ時期である。しかし、いくら恋人同士になったとはいえ、大河自身からこんなことを口にするのはやはり憚られるのではないか。

「なぁ大河、今度から同じように辛くなったらちゃんと無理せずに言うんだぞ。その、こんなことを他人、しかも男に言うのに気が引けるってのは十分わかる。
だから、お前が言いたくないなら俺は無理強いしない。辛い時は辛いって、それだけでも言ってくれたら今みたいにこうやって手助けができるからさ。な?」

「竜児…」

その優しい言葉が本当に痛みを取り去っていくようだった。心もお腹も、じんわり暖かくなっていくのがわかる。竜児を好きになってよかった―大河は心の底からそう思う。

「ねぇ、こども…ほしくない…?」

痛みが幾分マシになり本格的に眠気が襲ってきたのか、大河はふわふわとした声色だった。

「なっ!唐突になにを言い出すんだお前は…」

「わたしはね、いつか…りゅうじのこども、ほしい…な…」

そう言い終わるとほぼ同時、大河はどうやら眠りに落ちてしまったらしい。

「…ったく、幸せそうなツラしやがって」

見下ろす大河の寝顔はどこまでも安らかだった。


余談だが。
翌日の朝食にて、大河はまるで昨日の分を取り戻すかのようにご飯を4杯も平らげた。


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