ある朝、大河はカーテンの隙間から差し込む光で目を覚ました。目の前には穏やかな寝息をたてる愛しい人の顔がある。そう、ここは高須家のアパート、竜児の部屋のベッドの中。

ふと、いつもと違う感覚に気付き視線をめぐらすと、自分は裸。ついでに竜児も裸だった。その瞬間、まだ起き抜けだった頭が急激に覚醒し、昨夜のことを思い出す。

昨日はいつものように竜児と一緒に学校行って、帰ってきて、美味しいご飯食べて、お風呂入って、テレビでかかってたラブロマンス映画を二人で適当に見てたら、
男女の…そういうシーンになって、お互いちょっと気まずかったけど、それでも結局最後まで見ちゃって。

でもいざ寝る段になると、直前まで見てたテレビを妙に意識したりなんかして、そうなるとほら、わたし達もやっぱり相思相愛な男女なわけで、気がつけば一線を…

「あぅ…」

そこまで思い出して、大河の脳みそはオーバーヒート。ついでにピザのチーズよろしくとろけだした。恥ずかしさのあまり、みるみる顔が上気していくのがわかる。

いろんな話には聞いてたけど、やっぱり初めては…その、なかなか痛かったし、こわかった。もちろん、竜児は大河のことを本当に割れ物でも扱うかのように優しくしてくれたのだけども。
でもそれ以上に、心ではしっかりとつながっていた竜児と肉体的なつながりを持てたことがなにより幸せで、嬉しかった。

「〜〜〜〜〜〜〜」

幸福感と恥ずかしさが入り混じった気持ちに耐え切れず、思わず頬に手を当てて身をよじる。

「…おぅ」

そんな大河の雰囲気に気付いたのか、竜児も目が覚めて、そしてしばし固まった。

そりゃそうだろう。朝起きて目の前に、一人で顔を赤らめながらくねくねと身悶える女がいるところを想像してみるといい。

「へへへ…ぇへ……え?」

自分の世界に浸っていた大河もようやく気がついたらしい。二人の視線が合う。

「………」

「………」

「…お、おはよう大河」

竜児も昨夜のことを思い出しているのだろう。耳まで真っ赤に染めながら、しかし目はしっかりと大河を見つめてそう言った。

「お、お、おは、おはようりゅうじ…」

大河はそこまで言ってこらえきれなくなったのか、竜児に背を向けた。

「大河、ど、どうした?」

「ううん!なんでもないの!」

「なんでもって…、もしかして昨夜のことが…?やっぱり…その、嫌だったのか…?」

お互い初めてのことだったから、竜児は竜児でわからないなりに精一杯気を遣ったのだが、大河は目に涙を溜めていたし、血も少し出ていた。

「ごめんな…俺が途中でやめてれば…」

たちまち竜児は激しい後悔に苛まれそうになる、が。

「違うの!昨日のことは本当に嬉しかったんだよ。竜児もちゃんと優しくしてくれたし。
だけど、今は思い出すと…照れくさくて…あんたの顔がまともに見れないの…。ホントにそれだけだから」

ぽつぽつとつぶやく大河がどうしようもなく愛おしくなって、竜児は彼女の背中を抱きしめた。

「ひゃう!…りゅ、竜児?」

「俺もお前とこんなふうになれて、すごく幸せだ。それに思い返して恥ずかしいのは俺もだぞ」

だからさ、そう優しく声をかける。

「こっち向いてくれ。顔は隠しててもいいから。お前のことはいつだって、正面からしっかり抱きしめたいんだよ」

我ながらとんでもなく恥ずかしいセリフだ。普段なら絶対にこんなこと言えやしない。

しかし、今の言葉で納得してくれたのか、大河は素直にこちらへ向き直ってくれた。そしてそのまま竜児の胸へ飛び込む。

「えへへ…りゅーじぃ…だいすき」

いつになく甘えた声でちっちゃな鼻先を竜児の胸元にすりすり。

「俺もだ、大河。ぜったいにお前のこと、離さねえから」

腕の中の甘えタイガーを優しく抱き、やわらかな髪をそっと撫でてやる。


今日は土曜日。学校は休み。一日中、布団の中でこうやってじゃれ合って過すのもいいかもしれない。



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