すべてはあの時から始まった。
大河が北村の鞄に入れるはずのラブレター、いつもどおりのドジっぷりで俺の鞄に間違って入れたラブレター。大河がドジをしなければ俺と大河がこんな仲になることはなかったかもしれないのだから。

俺のボロ屋に不法に侵入して、木刀を振り回して、倒れて、チャーハンを旨そうに食って。

大河に言われるがまま、されるがままに犬として介抱されて。

だけど、その犬は竜になった。
大河のそばにいるには竜になるしかない。あの時なぜ、あんな言葉が出たのは自分にもわからないのだ。

でも結果的に俺は大河とずっと共に生きる道を選んだ。
その選択に間違いはないはずだ。

大河もそう思ってくれているはずだ。俺は大河が好きなのだから。大河の事は全てわかってるつもりなんだ。櫛枝もこんな気持ちだったのだろうか。大河が遭難した修学旅行の時、櫛枝はそう迷いもなく言っていた。

櫛枝はソフトボール部のある会社に就職して今でも元気にしている。

北村は、狩野先輩を追い掛けるようにアメリカへ、やっぱりあきらめきれなかったらしい。

川嶋は芸能活動にさらに力を入れて今では歌手として人一倍輝いている。

2‐Cのみんなも、もちろん元気にやっている。独身…ああ、先生も相変わらずだ。

何故なら今、みんなはここにいる。鐘の音がなる教会に。
今日は俺と大河の結婚式なんだ。

だけど、今ここにいなければいけない人、竜と並びたつ者。大河がここにいないのだ。


「あの馬鹿…どこに行きやがった!」

大河がいない。いなくなった。

昨日から、いやここ最近あいつは変だった。何を話しても上の空、飯を食っていてもいつもなら二合は食べるのに茶碗一杯でもういらないという。
具合でも悪いのかって尋ねても、別に…と一言。
もっと早く気付くべきだったんだ。もう大河を離さないって誓ったはずなのに。
俺は大河の事を全てわかっていたつもりでいたんだ。慢心だった。
そんなんで大河を幸せに出来るのか!

俺は必死に大河を探した。俺と大河の思い出の場所を走り続けた。俺が大河にプロポーズした場所、キスをした橋。櫛枝がバイトしていたファミレス。大橋高校。

俺のボロ屋。いた、小さめの純白のウェディングドレスを身に纏った大河が。茶の間にちょこんと座っていた。

「大河…なにやってんだよ…」
「竜児…やっぱり来ると思った。」

「はぁ?何言ってんだよ。」

「ねぇ竜児、覚えてる?私が北村くんに告白したあの日のこと。」「ああ。もちろん。」

「竜児言ってくれたよね、俺は竜になる。竜として大河の傍らに居続けるって。」

「おお。」

「そして、竜児は嫁に来いって言ってくれた。今日は竜児と一緒に生きていく儀式なんだよね。」

「ああ…。」
「でも私、竜児に出来る事ないよ?料理だってダメダメだし…私は妻として未熟すぎるよ。」

「…なぁ大河…俺はどうしてお前にプロポーズしたと思う?」

「そ、それは…」

「…好きだから…俺は大河が好きなんだから!家事が出来ないとか関係ない!俺は大河の全てを理解してないといけないんだ!じゃないと大河を好きだなんて言う資格なんかないんだ!」

「竜児…。」

俺は泣きそうになりながらも大河に尋ねた。
「…大河は俺の事、どう思ってる?」
「…決まってるじゃない…。好きよっ!大好きよっ!私はもう…竜児なしじゃ生きていけないの!!だから!だから…怖かった…のよ。」

大河の綺麗な両目から雫石がドレスを濡らした。体を小刻みに震わせながら。

「いつか…愛想尽かして私の目の前からいなくなるかもって…そうやって考えただけで私は生きてる心地がしなかった、だから…私の一番居心地のいい場所にいたら、きっと竜児は来てくれる、私を絶対見つけてくれるって…」

限界だった。俺は大河に泣きながら抱きついた。

「…ばかやろう、そんな事するもんか…返品なんて絶対しないって言ったじゃねぇか…お前だって…もう離さないって言ってくれたじゃねぇかよ…どうしてそんな馬鹿な事考えてんだよ…」

「竜…じ…。」

「そんな事しないから…だから…もう俺の前からいなくなるな!頼むから…いつもどおりの大河でいてくれよ…俺はもう絶対離さないから…たのむよ大河。」

「ごめん、ごめんね竜児…」

泣いた。泣き尽くしていた。俺だって大河が目の前からいなくなるかもって考えたら…さらに涙が溢れた。

「竜児の気持ち嬉しいよ…。本当に私は幸せだよ。でも…ごめんね。」

「大河…じゃあ、俺と…結婚してくれるんだな?」

「当たり前じゃないの!ってそういう意味のごめんじゃないのよ。」

「え?」

大河はスッと立ち上がってテレビの上に置いてあったバスケットの中を俺に見せた。

「竜児、今までの事、全部これで撮ってたのよ。」

バスケットの中には小型のカメラが入っていた。

「は?えっ?」

「ばかちーがね、こういうの結婚披露宴で流したらいいんじゃね?って言ったのよ。因みに教会にテレビカメラがいっぱいいてね、今までの事全部ばかちーの案なの。」

「ちょっ、ちょっと待てっ!意味がわからん!」

「だからぁ、さっき言ってた竜児の台詞とか全部カメラに撮ってたんだってば。その映像を披露宴で流したら感動するからって、ばかちーが。ばかちーの力でねテレビ局呼んで全国ネットのテレビで流すからって。」

「え………マジ?……」

「マジ。ほら、さっさと戻るわよ、着く頃には挙式始まるだろうから。」

サーっと血の毛が引いた。つまり知らなかったのは俺だけって事…大河が好きだ!って恥ずかしい台詞を全国に晒されるって事…

大河の言うとおり教会で挙式をあげた後の披露宴、テレビマンの力によってさっきの一場面を大画面に晒された。

歓声やら、涙ぐむ人もいたりして、川嶋は私は知りませんみたいな顔で笑っていた。

「どう、竜児。記念に残る結婚式になったでしょ?」

「色んな意味でな…」

「竜児、私…竜児と結婚できて嬉しいよ。これからずっと一緒にいてもらうからね。わかった?」

「おお、お前が嫌って言ってもずっと一緒にいる。逃げても無駄だからな。」

俺と大河は見つめあって、ニヤリと笑った。

大河が投げたブーケを独身…いや、先生が取ったのは言うまでもないだろう。


おわり



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