TELLLLLLTELLLLLLTELLL・・ピッ

竜児「おう大河か、どうした。うん?うん・・うん・・へぇ川嶋が家に。うん・・うん・・5時半位か、うん・・うん・・早く帰る、OK。ん?・・はいはい。愛してるよ奥さん。はは、じゃあとで」

ピッ

竜児「さてそれじゃ仕事急ぐか」

その夜

大河「ただいまー」
亜美「おじゃましまーす」
竜児「おうお帰り。すぐできるから座って待ってろ。よう、川嶋久しぶり」
亜美「久しぶり・・・って、やだ高須君。ホントに着てくれてるんだ?」
竜児「ああ、折角くれたもんだからな。有効利用させてもらってる」
亜美「あはは。その顔にフリルつきのエプロン。意外に可愛いかも」
竜児「言ってろ」
大河「竜児」
竜児「ああ」

ちゅ

竜児「お帰り大河。お疲れ様」
大河「ただいま。もークタクタ」
亜美「相変わらずラブラブねぇ」
大河「当たり前よばかちー。いいいいといと、愛しの旦那様なんだから」
亜美「・・・照れるんなら言うんじゃねっつの・・・」
大河「りゅーじー。今日電話した時なにやってた?」
竜児「んー・・・まず部屋の掃除をおわして、洗濯モン干して、風呂掃除して、さてこれから換気扇をって時にお前から電話がきたな。そんでホントは残りモンで済ませようと思ってたけど、川嶋がくるからって換気扇を明日にまわして買い物行ってきた」
大河「ふふん。電話して正解ね」
竜児「ああ助かった。危うく飯二人分しか炊かないとこだったよ」
亜美「ふ−ん・・・」
大河「なによばかちー?」
亜美「いや、意外っつーかなんつーか、結構嵌まってんなって思って。高須君の専業主婦」
大河「当たり前よ。なんたっていといといといと・・・」
亜美「それはもういいっつの」



亜美「しっかし今日は疲れたなー・・・」
大河「ほんと・・・意外にハードだよねこれ・・・」
亜美「でも頑張ってんじゃんタイガー。最初はどうなることかと思ったけど」
大河「まーねー・・・」
亜美「最初にあたしに言ってきたときはびっくりしたけどね」
大河『竜児はあたしのために掃除や料理をしてくれるの!だからあたしはお金を稼がないといけないの!そうじゃなきゃ対等でいられないの!だからばかちー!あたしに仕事を紹介して!』
亜美「・・・なーんて。いつまで続くかとか思ってたけど、もう4年か・・・」
大河「その件に関しては、あんたに礼を言うわ。あたしのこの身体じゃ他に仕事なんてなかっただろうし・・・」
亜美「ほんっと。『あの服』があんなに似合う大人ってそうはいないモンねー」
大河「・・・それ竜児に言ったらブッ飛ばすからね」
竜児「誰をだ?」
大河「りゅりゅ竜児!?きききいてた!?」
竜児「?なにを?」
大河「(ほっ)なんでもないわよ。それよりご飯まだ?」
竜児「まー待て慌てるな。それより言い忘れてたんだが、櫛枝もくるぞ」
大河「みのりんが!」
亜美「実乃梨ちゃんが!!」
竜児「ああ。丁度オリンピックの強化合宿が終わって帰ってきたんだと。お前に会いたがってたぞ」
大河「わー嬉しいなー。ずいぶん会ってないもんなー。早く会いたいなー」
亜美「わー嬉しいなー。合宿行っちゃってから会えてないもんなー早く会いたいなー」
竜児「?なんで川嶋までそんな櫛枝に会えるの・・・」

ガラッ!

???「私を呼んだかい!?」
竜児「っ!?」
大河「!?みのりん!!」
実乃梨「ふふふ。そう・・・私は櫛枝実乃梨。通称みのりん。来るべきオリンピックソフトボ−ル日本代表にしてキャプ・・」
亜美「実乃梨ちゃん!!(抱きつき)」
大河・竜児「!?」
実乃梨「おーっと、こいつぁお熱い歓迎だ。なんだいあーみん?あたしが居ない間、体が夜鳴きでもしてたかい?」
亜美「もちろんだよー。寂しくて電話しそうになるの我慢するの大変だったんだからー」
実乃梨「それは嬉しい言葉だぜ、ハニー。俺っちもお前へのLOVEで、練習に身が入らなかったぜ」
亜美「もー口がうまいんだからー」
竜児「・・・あのよ?」
実乃梨「お?おーす、ひっさしぶりー高須君!おやおやなんだいピンクのフリルつきなんか着て、今日は裸エプロンで接待かい?」
竜児「いや、服着てるけど」
実乃梨「おー大河も久しぶり!今モデルの仕事やってるんだって?あーみんから聞いてるぜー」
大河「・・・」
実乃梨「んー?どしたー?」
竜児「いや・・・どしたって言えばお前達だろ・・・」

目の前には、実乃梨の右腕に腕を絡ませてご満悦の亜美。

竜児「さっきの会話とか・・・お前等そんなに仲良かったっけ?」
実乃梨「殴り合いのケンカしたからね」
竜児「は?」
実乃梨「知らないのかい、高須君?昔から言うじゃないか。『タイマン張ったら、ダチだぜよっ!!』って」
竜児「しらねーよ・・・」
実乃梨「まー簡単に言うとあれだ。今あーみんと同居してんの」
竜児「はぁ!?」
大河「!!」
実乃梨「まあ、いろいろあってそんなわけさ。さ、とりあえずご飯食べよーぜ!おなかぺっこぺっこだぅ〜」
亜美「実乃梨ちゃん。隣にきなよ」
竜児「・・・大河・・・」
大河「・・・うん・・・」
竜児・大河「深く追求するのはやめておこう・・・」



献立・ブリ鍋

実乃梨「おー!こりゃ美味いねー!鰤の質が違う!」
竜児「お、気付いたか?これはスーパー狩野屋でも、一番の天然モノの活け〆を捌いて貰ったんだ。そんじょそこらの奴とはモノが違うぜ〜」
実乃梨「流石だよ高須君!あんたの目利きは、百目の辰に優るとも劣らないよ〜!」
竜児「言ってる意味は良くわからないが、とりあえずありがとう」
大河「・・・ばかちー違いわかる?」
亜美「・・・おいしーってことはわかる」

食後

実乃梨「あー食べた食べたー。最後の雑炊なんて、殺人的においしかったよー」
竜児「アレだけ鰤の脂が出た汁を使わないわけにいかないからな。お前等もうまかったか?」
大河「・・・苦しい・・・」
亜美「・・・殺人的・・・」
竜児「はは。食べ過ぎるくらい美味かったか。調理冥利に尽きるな」

お茶を煎れ、和やかな雰囲気のなか。

実乃梨「そーいや高須君」
竜児「なんだ?」
実乃梨「実際どーなんだい?大河が『あんな格好』してる気分は?」
竜児「あんな格好?」
大河「っ!!み、みのりん!!」
実乃梨「え?」
大河「りゅ、竜児は、その・・・あ、あたしの写真、み、見たこと、無いから・・・」
実乃梨「はぁっ!?」
大河「だ、だから・・・その・・・」
亜美「た・か・す・くーん!」
大河「っ!ばかちー!?」亜美「大河の晴れ姿・・・見たくなーい?」
大河「ナニ言いだしてんだお前っ!?」
竜児「い、いや、正直いえば見たいけど・・・大河が嫌がるなら・・・」
亜美「あんなのポーズに決まってんじゃん〜。本当はー見せたくて仕方ないんだよー」
大河「ばかちーあんた・・・!?みのりん!?それ!!」

大河の視線の先、実乃梨が取り出したのは一冊のファッション誌。

実乃梨「じゃん!さっきそこのコンビニでGETしてきました!これには大河の最新作が載ってるんだよね〜?」
大河「みみみみのりん!!・・・あたしたち、親友・・・だよね?」
実乃梨「もちろんだぜ大河!!」
大河「・・・みのりん(ほっ)」
実乃梨「だから大河の気持ちを汲み取って、高須君に全てを明かすぜ!!」
大河「へ?・・・えええぇぇぇぇぇえ!?」



大河「ややややめてよー!!」
実乃梨「ちちち、ダメだぜ大河。夫婦の間では隠し事なし。それがうまくいく秘訣なんだぜ?」
竜児「・・・なんで結婚してないお前が諭してんだ?」
亜美「え?実乃梨ちゃんは結婚ならもう精神的に亜美ちゃんと・・・」
竜児「そこは聞いてないからスルーだ」
実乃梨「とにかく!愛妻の仕事がわからないなど言語道断!さあ高須君!刮目して見よ!!」

バンッ!!とテーブルに叩きつけられる雑誌。開かれたページには・・・

竜児「お・・・おおお!!」
大河「あ・・・あわわ・・・」

ツインテールに縛った髪。黒を基調にしたフリルつきドレス。スカートは膝上5cm。白のガーターが、負けないくらい白い足を包んでる。首に巻かれるリボンのついた黒いチョーカーが、ひときわ心をくすぐる。


竜児「こ・・・これって・・・その、いわゆる・・・」
亜美「そ。ゴスロリってやつ」

写真の中で大河は、下から睨み付けるような、恥ずかしさに眉を寄せてるような表情で写っていた。

亜美「評判いいんだよタイガー。普通ゴスは若い子がやるんだけど、それだと艶が足りないんだって。その点タイガーは・・・あれ?」
竜児「・・・」
亜美「どうしたの高須君?固まっちゃってるよー?」
大河「だだだだから見せたくなかったのよ・・・。こんなん撮ってるってわかったら絶対呆れられるからって・・・それなのにそれなのに・・・」
実乃梨「さてさて、奥様はあんな風に言ってますが、本当のトコどーかね旦那様?」
竜児「・・・かわいい・・・」
実乃梨「おー!」
大河「!!」
亜美「でしょでしょ!」
竜児「うん、スゲー可愛い・・・。こんなの着せたいって思ってたんだよ・・・こんなの着て一緒にどっか出掛けられたらって・・・。どうせ怒られるから言えないけど・・・」
亜美「・・・いや、普段着せるのはどーかと思うよ?」
竜児「可愛い・・・」
実乃梨「はーい、可愛い頂きましたー!なにやらトリップ中の高須君ですが、さあそれを受けて大河の反撃は!?」
大河「・・・はひ・・・」
亜美「うっわ顔真っ赤!!」
大河「りゅ、竜児、あ、あたし、ほ、ホントに可愛い・・・?」
竜児「ああ・・・もうこれ以上ないくらいに可愛い・・・」
大河「こ・・・今度い、衣裳借りてきてあげようか・・・?」
竜児「え?お、俺の前で着てくれるのか?」
大河「(こくん)」
竜児「(ぐび)よ、ヨロシクお願いします・・・」
大河「は、はひ・・・」
実乃梨「・・・」
亜美「・・・なんっか腹立つわ、この二人・・・」
実乃梨「あたし等が忘れてきた青春、いまだ真っ只中って感じだからねぇ・・・」


亜美「あーあ、なんか白けちゃったなー。亜美ちゃんもうかえろっかな」
竜児「ああ、ちょっと待て。食後にオレンジプティング焼いたから。・・・あ、けど、そーいえばお前等腹一杯なんだよな・・・」
大河・実乃梨・亜美『食べる!!』
竜児「おお!?」

デザート

実乃梨「いやー相変わらずうまいねこれは」
亜美「ほんと。この甘いばかりじゃないところが堪んないよねー」
大河「そういえば前に作ったの、二人も一緒に食べたもんね」
実乃梨「うんうん。大河。あんたは実にイー嫁を貰った」
亜美「ほんとだよねー。タイガーにしたら千載一遇並みの確立の出会いだよね」
大河「そんな二人とも・・・あたし達の出会いが、そんなにも運命に導かれた邂逅だなんていわなくても・・・」
実乃梨・亜美「「言ってねえよ!!」」
実乃梨「イヤーしかしコリャいくらでも入っちゃうね〜・・・あれ?どうしたの高須君?なんか開いた口が塞がらないって顔してるよ?」
竜児「・・・そのまんまで合ってるよ・・・。すごいなお前等・・・」

竜児の視線の先には、2/3程食べ尽くされたオレンジプティング。

竜児「腹一杯で苦しかったんじゃねーのかよ・・・?」
実乃梨「そりゃあ・・・」
亜美「・・・ねぇ?」
大河「甘いものは別腹って言うでしょ」
竜児「いやそれは物の例えであって・・・てか嫁かよ俺?」
実乃梨「嫁でしょ?」
亜美「嫁よね?」
大河「なに?嫁じゃ不服なわけ?」
竜児「はい嫁です(土下座)」

食休み

実乃梨「そーいや、アメリカ行った北村君はどーしてるだろ。あーみんなんか聞いてる?」
亜美「んー・・・確か何とかって数学の賞とったって聞いたよ」
竜児「(洗濯物を畳みながら)フィールズ賞だろ」
亜美「あーそれそれ。てゆうかなにそれ?そんな大層な賞なの?」
竜児「さあな(苦笑)」
亜美「んー?なんでそこで含み笑いなわけ?なんか馬鹿にしてる?」
竜児「そんなことねーよ」
大河「(トイレから帰ってきた)なに?なんでばかちーがバカなの?」
亜美「いってねーよ!あ、タイガーは知ってる?んと・・ふぃーるず賞とかっての」
大河「ああ。竜児がとった賞だね?・・・あれ?あたしには言うなっていっておいて、なんで自分からバラしてんの竜児?」
竜児「ばか!!」
大河「バカって何よ!」
竜児「バカはバカだ!あれほど言うなって言い聞かせたのに!」
大河「あんたが話したと思ったから相槌うっただけじゃない!大体あんた、あの賞は大したことないっていってたじない!」
亜美「なになにどゆこと?祐作のとった賞って、実は高須君がとったもんなの?なにあいつ、親友を裏切ったってこと!?うわサイテー!」
竜児「ち、違うんだ、とにかく落ち着け!あれは・・・」
実乃梨「おーっと待つんだ二人とも。今携帯で調べたら、どえらいことがわかったぜー・・・」
大河「なに?」
亜美「なに?」
実乃梨「なんと!フィールズ賞ってのは、数学界のノーベル賞っていわれてる程の最高級の賞だそーな」
大河「はぁ!?」
亜美「えええ!?」
実乃梨「さーて、たぁかすくぅん?こいつぁ、俺のポケットにいれるにゃあ、ちぃとばかし大きすぎるぜー?さーどーするぅ?」
竜児「・・・」



実乃梨「おやおやウーメンズは眠っちゃったみたいだね」
竜児「ああ、疲れたっていってたからな。て、お前もウーメンズじゃないのかよ?」
実乃梨「にゃはは。すっかり忘れてた」
竜児「ったく・・・んじゃ起きてる者同士、ちょっと飲るか」

アフタータイム

実乃梨「・・・なんで隠してたんだい?」
竜児「ん?」
実乃梨「賞のこと」
竜児「ああ」

簡単に応えると、一口開けたビールを流し込んだ。
結局あのあと、竜児は、

『あれは、北村と二人で書いた論文の成果だ。だからあいつに譲っただけだ』

とのみ答えて黙り込んだのだった。

竜児「単に話すまでもないって思ってただけだよ。世間的には北村がとったことになってるし、それも間違いじゃないしな」
実乃梨「謙虚だね」
竜児「・・・そんなことないさ」
実乃梨「え?」
竜児「どちらかって言えば・・・エゴの方かな?」
実乃梨「・・・どうして?」

その言葉に竜児は暫し応えず、場を沈黙が支配した。数瞬の後、ボツリポツリと話しだす。

竜児「・・・俺にとって数学はただの趣味だ。真理を見つけるのが楽しくて、ただやってるだけのな。だけどそれで賞をとっちまった。しかも最大級の。それが世間にばれたらどうなる?」
実乃梨「・・・あちこちに講師として招かれる?」
竜児「そう。それこそ世界各国だ。好むと好まざるとに関わらず・・・な」

そこで竜児は傍らで寝息を立てる大河に目を落とした。

竜児「・・・大河と離れたくないんだ」
実乃梨「・・・連れて行くことは?」
竜児「(ふるふる)そんなことはしたくない。こいつは今の仕事に生きがいを感じてる。それも俺という存在のためにだ」
実乃梨「・・・」
竜児「俺はそんな風に頑張ってる大河を見るのが好きだ。俺のために頑張ってくれてるって思っただけで、心が幸せで一杯になる。こんなにも不確定で曖昧なものが、こんなにもこの身を満たしてくれるなんて知らなかった。全て、大河のお陰だ」

そっと頬にかかった髪を梳いてどけてやる。
その表情は蕩けるように優しい。

竜児「だから北村に全てを押し付けた。はは、あの修学旅行の事件以来、あいつには迷惑掛けっぱなしだ」
実乃梨「・・・北村君は、なんて?」
竜児「『迷惑掛けられるのは慣れてるけど、今回のは超弩弓だな』・・・っていわれた」
実乃梨「はは、たしかにそうだね」
竜児「本当にいい奴だよ・・・。毎月国から支給される研究費の2/3を、俺名義の口座に振り込んでくる。名誉の方は俺が貰ったんだから、せめて金くらい受け取れ。あって困るもんでもないし、なにより逢坂の為にも・・・てな」
実乃梨「・・・本当にかけがえのない友達だね」
竜児「ああ、あいつは俺の親友だ」

『親友』

その言葉の重さに、実乃梨は密かに、二人へと敬意を送った。



そこで二人は口を止め、一口ビールを飲んだ。

竜児「お前の方こそ、ずいぶん川嶋を大事にしてるじゃねーか」
実乃梨「あ、やっぱわかる?」
竜児「ふざけてるようでも、時折目がホントに優しく和むからな」
実乃梨「よくみてるねぇ」
竜児「昔そう言ったことがあるぞ?」

あははと、起こさない程度に笑いあった。

実乃梨「・・・あーみんはさ、真っ直ぐなんだよね」
竜児「腹はえらい黒いが?」
実乃梨「そこもふくめてだよ。だって親しくなった人の前じゃその黒さ全開じゃん?」
竜児「・・・そういやそうだな」
実乃梨「そうなんだよ。だから大河の失踪後に、あたしが洩らした弱音を打ち砕いてくれたんだ。そりゃもうはっきりばっきり」
竜児「弱音って?」
実乃梨「罪悪感」
竜児「罪悪感?」
実乃梨「そ。実はさ・・・あたしが大河を気に掛けてたのって、大河を可哀想な奴って決め付けてたからなんだ・・・多分」
竜児「!」
実乃梨「勿論それが全部じゃないよ?でも根っこの部分には絶対にその気持ちも存在してた。大河のことは本当に大好き。でも、心のどこかであたしは、そんな傲慢な気持ちを持ってたんだよ」
竜児「・・・そんなもん、お前だけじゃ・・・」
実乃梨「あーみんもそう言ってくれたんだ・・・ばっかじゃねーの?ってね」
竜児「は?」
実乃梨「そりゃもう辛辣にね。なんて言ったと思う?すごいんだから」

亜美『はぁ?ばっかじゃねーの?憐憫?優越感?それでタイガーに接してたのが苦しいって?なに言ってんのあんた?そんなもん誰だって持ってんだよ。あたしは困ってる奴を見つけたら
、何とかしてやりたいって思う。でもそれは同時に、あたしがそうされたいって思ってるからなんだよ?見返り求めながらの人助けだよ。でもだからって、人を
助けちゃいけないなんて思わない。だってそれは、結果的にその人を助けたことになるんだから。見返りが無くて、あーあって思うの
はあたしの勝手じゃん?だってその人は、助けられて必ず喜んでるはずだから。タイガーだって、なんであんなに辛いことばっかりあ
ったのに、あんなに笑っていられると思ってんの?それは実乃梨ちゃん、あんたが傍に居てくれたからなんだよ?あんたの心がどうで
あれ、傍に居た事実、助けてあげた事実が今のタイガーなんだよ?その事実から目を背けて、なーにをウジウジと。いい?もし今度こ
んなことあったら、真っ先に亜美ちゃんに言ってきな?またあんたの目を覚まさせてあげるから。こんどはグーパンで』

竜児「・・・なんて漢らしいんだ、川嶋亜美・・・」
実乃梨「本当に目の前が開けた気がしたよ。ううん。本当に開いてくれたんだ、あーみんが。そのままの・・・等身大のあたしのまま生きてていいんだって」
竜児「・・・すげーな」
実乃梨「うん。こんな体験そうは出来ない。自分の全部を受け入れてくれるなんて経験!」
竜児「それから・・・か?」
実乃梨「うん・・・それからあーみんを見る目が変わって、あーみんが何よりも大切に思えてきて・・・オカシイって思う?女同士なのにって・・・」
竜児「思わねぇ。どころか憧れすら感じるよ」
実乃梨「ありがとう高須君・・・。あ、でも、あーみんには言っちゃダメだからね!言うときにはちゃんとこの口から言うから!」
竜児「わかってるよ。俺だって言われちゃ不味いこと言っただろ?お互い内緒な?約束だぜ?」
実乃梨「うん」

そう言ってどちらとも無く視線は眠っている愛しき人へ。

竜児「・・・お互い、いい旦那を持ったよな?」
実乃梨「・・・うん。・・・嫁って認めるんだ?」
竜児「もー嫁でも犬でも構わねーよ。それが・・・大河の傍にいる理由なら、何でもこいだ」

そうして、二人揃ってプッと吹き出してから、もう一度乾杯をした。





一方そのとき

大河『・・・』
亜美『・・・』
大河『・・・』
亜美『・・・う』
大河『泣くなばかちー!気付かれちゃうじゃない!!』
亜美『だって・・・だってぇ・・・み、実乃梨ちゃんがあんなふうに思ってくれてたなんて・・・嬉しいよぅ・・・』
大河『だから泣くなって!』
亜美『なによ・・・タイガーだって泣いてんじゃん・・・』
大河『!』
亜美『・・・嬉しいんでしょ?』
大河『・・・うん』
亜美『・・・良かったじゃん。高須君は、本当に心からあんたが大切なんだね・・・』
大河『・・・う、ぐす・・・』
亜美『世界的な名誉捨てて、一人の女とって・・・すごいね』
大河『うん・・・。あたし今まで以上に頑張る!それが竜児の喜ぶことなんだもん』
亜美『うん、そうだね・・・』
大河『・・・ばかちー。これだけは言わせてもらう』
亜美『なに?』
大河『みのりん泥棒』
亜美『!』
大河『あたしからみのりん奪ったんだから。絶対絶対幸せにしなかったら許さないんだから』
亜美『・・・約束するよ』
大河『うん。あんたに任せた』
亜美『・・・てゆーかぁ、亜美ちゃんと居られるだけで、スッゴイ幸せなはずだけどねぇ?』

ガバッ

大河「あんたのそーゆートコが信用できないのよ!!」
亜美「冗談に決まってるでしょ!実乃梨ちゃんは、あたしがきっちり幸せにするわよ!」
大河「うっわなにその上から目線!?あんたが幸せにしてもらってるんでしょ!?この勘違いチワワ!」
亜美「うっせーよ!あんたこそなんだ!?この愛情注がれタイガーが!」
大河「なにようらやましーのぉ?うんうんわかるわ。見返りが少ないと不満も出るわよねぇ?」
亜美「はぁ?ばっかじゃねーの!?実乃梨ちゃんの愛情は、溢れるくらい注がれてるっつーの!!あんたこそ、まだ足りないまだ足りないーって思ってんじゃね?」
大河「あったまきた!あたしはともかく竜児に謝れ!!今のは竜児に対して失礼だわ!」
亜美「先に言ってきたのはあんたじゃん!!それなら先に実乃梨ちゃんに謝れ!!」
大河「なんだと〜・・・」
亜美「なによ〜・・・」
竜児「あー・・・盛り上がってるトコ悪いんだが・・・」
大河・亜美「なによ!?」
実乃梨「どの辺から起きてたんだい?ん?寝たフリーズ?」
大河・亜美「・・・あっ!!」


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