Holiday

とある日曜日。空は雲一つない快晴。竜児が二人の子に両腕を引っ張られている。竜児は苦痛に顔を歪めながら必死に手を離すようになだめる。

「とーちゃん!野球しに行こうよ!こんなに晴れてるんだからさぁ。」
「だぁめ!おとうさんはわたしとあそぶんだから!」
「ちょっちょっと!お前らっ落ち着けっ!一回手を離せぇ!もげるってぇ…いだだだっ」
二人の子供は容赦なく竜児の腕を引っ張り続ける。
その向かいのソファーに座っている小柄な姿の大人はその光景を笑いながら眺めている。
「大河ぁ!笑ってないでなんとかしてくれよっ!」
「どうして?私は逆に羨ましいけど?ま、どうしてもって言うならなんとかしてもいいけど条件…聞く?」
ニヤリと笑みを浮かべる大河。しまった、誤ったか!しかし後にはひけまい…
「聞くっ!聞くからなんとかしてくれぇ!」
「じゃあ今日の夕飯は竜児が作ること。OK?」
コクコクと首を振る。もう両腕は限界だ、こうなったら飯でもなんでも作ってやる。
「よろしい。じゃあなんとかしてあげましょう。」
大河はスクっと立ち上がり、少年の方へ歩み寄る。
「かーちゃん、なんで俺からなんだぁ…?」
「竜也はお兄ちゃんよねぇ?大丈夫、竜也の後で亮虎もやってあげるからね…」
フフッと不気味に笑う大河、その母親の姿を見て亮虎は怯えている。
「竜也〜ヒヒヒ…かくご〜!」
大河は竜也の脇腹に両手を突っ込み小刻みに指を動かす。
「コチョコチョ〜コチョコチョ〜どう放す?放さないんならくすぐり続けるよ〜?」
「ヒャヒャヒャ!ちょっ!かーちゃんやめて〜!放す!放すから〜ヒャヒャヒャ!」
抵抗をしきれなくなった竜也はスルッと竜児から手を放した。というか放さざるを得なかった。
「ニヒヒ…一丁あがり…後は…」対面にいる小さな少女にゆっくりと近づく小さな母親。
「いやだぁ。おとうさん助けてよぉ…」
その間にも近づいてくるくすぐり母さん。
「じゃあ放すか?」
パッと素早く手を放す亮虎。懸命だ。お前は頭が良い。
「なーんだ、残念…じゃあ竜児、今日よろしくね?約束したからね。」
「あ、ああ。」
ドサッとまたソファーに腰を掛け勝利の余韻に浸っている。
「竜也…大丈夫か…?」
「とーちゃん…ちょっと耳かして…」
「え?なになに、わたしにもきかせて?」
ゴニョゴニョゴニョゴニョ…
「大丈夫か…?そんな事して…後でどうなってもしらねぇぞ?」
「大丈夫…かーちゃんもあれが苦手だから。」
「おかあさん怒らないかなぁ…?」
「亮虎、怖いなら参加しなくていいぞ、お前は何もされてないんだから…」
「竜也…?俺もされてないんだけど…。」
「とーちゃんいないとこの作戦成功しないじゃん。それにとーちゃんが怒られれば俺たちにあんまり飛び火しないし…」
「お前…いつのまにそんな言葉を、それに父に対しての尊敬の念はないのか…?」
「じゃあとーちゃん頼むよ…じゃあ合図されたら突撃するから…。亮虎行くぞ。」
「聞いてねーし…」
「う、うん…おとうさん頑張ってね。」
「ああ…」
「じゃあ作戦スタートだ!」




「あーあ、もういいよとーちゃん。亮虎、あっち行って遊ぼうぜ?」
「うん…お兄ちゃん…な、何してあ、遊ぶ…?」
娘よ…明らかに動揺してるぞ…
「いいから!こっち行こ。」
二人の子は自分たちの部屋に戻っていく。
「ふぅ…大河、助かったよ。」
「いいわよ…あんたも大変ね、せっかくの休みなのに。」
「いや、遊ぶのはいいんだけどさ…」
「取り合いはするな。って?羨ましい悩みだこと。お茶飲む?」
「ああ。ありがと。」
湯呑みを手に一息の休憩。お茶を含みチラッとドアの方を見やる。
「ぶはっ!」
すりガラス越しに見える二つの顔。合図が出るまで待機のはずの子供達がスタンバイ中であった。
子供達よ…バレバレだ!まだまだ子供だよな、やっぱり。
「あんた…何してんの?」
「い、いや!?わ、悪い。」
雑巾を取りにいきいそいそとこぼしたお茶を拭く。
「で?あの子たちはいつ出てくるわけ?」
ギクッと動揺する。
「ば、バレバレだよなぁ…やっぱり…。」
竜児は素直に作戦を白状した。包み隠さずきっちりと。
「はぁ…なるほどね…じゃあこっちも演技でもしましょうか?」
「え?」
「たまには良いんじゃない?こういうのも。」
「大河…。」
「なによ。あんたの為じゃないっての。ほら、早くしなさいよ。」
「ああ。」
親側演技開始である。
「ちょっ!竜児!なにすんのよ!離しなさいってのぉ!」
竜児は大河に馬乗りになり両手をおさえる。
「竜也!亮虎!とつげきー!」
待ってましたと言わんばかりに突撃する子供達。
「わー!かーちゃんかくごー!」
「わ、わー!」
右に亮虎、上に竜児、左に竜也と配置についたその瞬間左右の四本の手が容赦なく大河の体をくすぐる。
「ちょっ!あんたたち!やめっ、ウヒャヒャヒャ!いやっん、ちょっちょっと!アハハハっやめてー!」
「さっきのお返しだぞ、かーちゃん、どーだ!耐えられないだろ!」
「コチョコチョ!おかあさん、ごめんなさーい!」
「アハハハ!やだぁ!もうもうわかったからごめんアハハハ!やめてー!ヒャヒャヒャ!」
「よし亮虎、退散だ!逃げろー!」
「わー!」
バタンとドアを開け自分たちの部屋に閉じこまった子供達。
「ふぅ…こんな感じ?」
「ああ、上出来だ。」
息を切らして笑う大河。
「竜児重いから降りて。」
「やだ。」
「んなっ!?」
「どうする?この状態でお前に勝ち目はあるか?今日の夕飯は一緒に作るか、このまま俺にくすぐられるか…さぁ選べ。」
「あんたの作戦どおりだったってわけ?ん…ぐぅ…き、きったないわね…しょうがない。わかったわよ、手伝うからどけなさいよ。」
「よーし、わかった。」
こうして日曜日は過ぎていった。大河と竜児の作った夕食を美味しそうに食べる子供達。
その姿を見て見つめ合う二人。
高須家からは笑い声が絶えない。
         おわり。




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