高校3年、夏休み

独身「夏休みねぇ…夏は恋の季節なんて言い出したの誰かしらねぇ…きっと夏がくるたび…去年20代最後の夏に何もなかった思い出が頭をよぎるんだわ…」
北村「みんな、夏休みとはいえ受験を控えているんだ、適度に息抜きしつつ勉強を頑張ろう!ではホームルームを終わります!」
竜児「(夏休みか…そういや去年はみんなで川嶋の…)」
川嶋「た・か・すくーん!今年こそぉ、亜美ちゃんとふたりっきりで別荘に行かない?」
竜児「そうそう、別荘…ってふたりっきりでぇ!?」
川嶋「去年は邪魔が入っちゃったし、今年こそ…」
大河「…お楽しみのとこいいかしら?」
川嶋「チッ…」
大河「あんた夏にはいつにも増して発情するのね、バカチワワ改めエロチワワ。」
川嶋「あーら、裁縫上手な高須くんがいないと外で水着も着れないからってセクシーな亜美ちゃんに八つ当たりしないでくれるぅ?」
大河「な!なんでそれを…!?ま、まさかりゅう…じ…」
竜児「バ、バカ俺は何も言ってねぇ!…なぁ川嶋、別荘さ、去年のメンバーで行くのはダメか?」
川嶋「はぁ?」
竜児「受験に向けて勉強会も兼ねて。」
北村「それはいい案だ、早速計画を建てよう!」
川嶋「!?いつの間にいたのよ…それでなんでみのりちゃんは私の後ろに隠れてるわけ?」
櫛枝「なんだか恐ろしい肉食獣に睨まれているような…視線を感じるのだよ…」
大河「…竜児以外にはみのりんしか…」
北村「おい逢坂?なんでさっきから俯いてんだ?」
大河「ふぇ?え、あ、な、なんでもない!」
櫛枝「さ、わたしは忙しいから帰ろうかね〜」
大河「みのりん!今年はきっと『本物の』幽霊に会わせてあげるからねっ!もちろん一緒に…行くよね?」
北村「ほぉ…楽しそうだな、最後の夏休みだ、もちろん櫛枝も行くよな!」
櫛枝「…18にして幕切れとは…さらば人生!」
川嶋「よくもまぁ別荘の持ち主を無視して盛り上がってくれるわね、あんた達。」
竜児「まぁまぁ川嶋、いいだろ?頼むよ。」
川嶋「亜美ちゃん受験しないしぃ、勉強会って言うならイ・ヤ!」
大河「じゃあ別荘にいる間は勉強禁止でいいわ。はい、決定。計画建てましょ。」
川嶋「あんた男前ねぇ…」
櫛枝「…リアルに人生が危機にさらされていくよ!あっはっはっはー!」
竜児「おまえのせいで櫛枝が壊れたじゃねぇか…」
大河「ふんっ、みのりんだからとりあえずここまでにしといてあげるわ。」



別荘についた一行〜

北村「いい天気で良かったな、みんな!」
櫛枝「さ〜っそく海へちょっこ〜ぅ!!」
大河「みのりん脱ぐの早いよ…」
川嶋「じゃ高須くん、別荘の掃除お願いね。」
竜児「おう!まかせろ!…ってえ?」
大河「夕方までにキレイにしときなさいよね。」
竜児「またひとりで掃除かよ…」

夕食の準備〜

櫛枝「今年もアレかい?高須くん特製の激辛カレーが食べられるのかい!?」
北村「それはいいな、高須!また任せていいか?」
竜児「おう、任せてくれ!」
大河「竜児、わたしの甘口を忘れんじゃないわよ。」
川嶋「またぁ?あんたほんっとガキね…」
竜児「はいはい、わかってるよ。じゃ誰か手伝ってくれないか?」
櫛枝「はいは〜い!シェフ!わたくしめがお手伝いいたします!」
北村「じゃ俺はお先に風呂に入らせて貰おう。」
川嶋「祐作!」
北村「?」
川嶋「あんたまた全裸で出てきたら今度は許さないわよ?」
北村「失礼だな、ちゃんと前は隠していただろう、はっはっは〜!…逢坂?顔赤いぞ?大丈夫か?」
大河「な、なんでもない!はやく行って!」
北村「おう!パンツを忘れないようにしないとな!」
櫛枝「女の子の前でパンツとは何事だい!?」
高須「もうお前ら相手にするなよ…北村もさっさと行け!」

夕食後〜

竜児「さて、片付けるか。」
櫛枝「お、わたしも手伝うよ〜!」
北村「待て待て、片付けくらいは俺達がやるよ。な、逢坂?」
大河「え?あ、うん!みのりんと竜児は休んでて!」
竜児「そうか?じゃ頼む。大河、皿割るなよ。」
川嶋「相変わらず極悪なカレー…汗かいたしシャワーでも浴びよてこようかな。」
櫛枝「じゃ高須くん、わたしたちゃ外で涼もうか!」




キッチンにて片付け〜

北村「さ、こんなもんでいいだろう!」
大河「ダメだよ、北村くん、シンクもキレイにしないと…」
北村「お、その細かさは高須の影響か?」
大河「…!ち、違うもん!さ、片付け終わりにしよっ!」
北村「ははっ、悪い悪い!じゃみんな自由時間みたいだしちょっと座って話そう。」

北村「どうだ?高須とはうまくやれてるか?」
大河「う、うん、まぁこれまでと変わらず…」
北村「そうか、それが一番だな!」

大河「あのね…」
北村「?」
大河「去年わたしと竜児がみのりんを怖がらせるための細工してたの覚えてる?」
北村「ああ。」
大河「あれね、竜児とみのりんをくっつけるための工作だったの。」
北村「高須と櫛枝を?」
大河「うん。あのときは竜児はみのりんを好きで、わたしは…北村くんを好きで。それでお互いに協力しようって。」
北村「なるほど。自ら人を驚かせるなんて高須らしくないと思ったがそういうことか。」
大河「それは失敗したけど、なんだかんだで竜児とみのりんの距離は縮まって良かったな、ってあのときは思った…思ってたつもりだった。でも…」
北村「高須が自分のそばにいないのが辛かった、か?」
大河「…!?」
北村「花火をしてるときだったかな。逢坂は…ふたりで話す高須と櫛枝を寂しそうな目で見てた。」
大河「…なんでだろうね?あのときは確かに北村くんが好きで…でもなにかがひっかかってた。」
北村「今となっては簡単なことだろう?」
大河「うん。」

大河「わたしは竜児が好き。いや、ずっと前から好きだったんだね。」
北村「ああ。きっと気付かないふりをしてただけだろう。高須といる逢坂は本当に素敵だ。」
大河「なっ…あ、ありがと。」
北村「でもなんで俺にこんな話しを?」
大河「わたしが今こうしていられるのは…北村くんのおかげ。全ては北村くんがわたしに告白してくれたことから始まったんだよ。」
北村「そうか、俺のドジで俺の大好きなふたりが幸せになったんならこんな嬉しいことはないな。」
大河「わたしはこれから先も竜児とずっと一緒。きっと幸せになる。それが北村くんへの恩返し。だから今北村くんと約束するね。」
北村「…」
大河「わたしは一生竜児を大切にする。一生竜児を想って生きていく!」
北村「…ああ!もし約束を破ったらたとえ逢坂でも承知しないぞ!」
大河「うん!ありがと、北村くん!」




バルコニーにて

櫛枝「ほい、高須くん!今年はどっちも抹茶にしといたぜ〜!」
竜児「お、おう、ありがとう。」
櫛枝「…そういえばさ。」
竜児「?」
櫛枝「みんなでここに来よう、って言い出したのは高須くんだよね?なんでかな?」
竜児「ああ…なんでだろうな?理由なんかない…んだろう、多分。」
櫛枝「…嘘。高須くんは何も考えずに言わない。きっと何かあるんだろうな、気になる。」
竜児「…去年も櫛枝にそんなこと言われたな。なぁ、櫛枝。」
櫛枝「?」
竜児「櫛枝は今も幽霊が見えないか?」
櫛枝「…ははっ。去年の話かい?ちょっと勘弁して欲しいかなぁ。」

竜児「お、俺はさ!…去年あのとき、櫛枝のことが…好きだった。」
櫛枝「…うん。」
竜児「俺に気付いて欲しかった。」
櫛枝「…うん。わたしも幽霊が見えそうだった。見えた気がした。」
竜児「…」
櫛枝「あの日からずっと気になってた。わたしに見られたがってる幽霊、に。」

櫛枝「でもその幽霊は既に…目撃されていたんだ。わたしの親友に。」
竜児「…」
櫛枝「見たいのに見ちゃいけない、聞いちゃいけない…辛かったよ。」
竜児「…悪い。」
櫛枝「だから質問の答えは…見えない、かな。…まったく!高須くんはズルいヤツだよ!」
竜児「な、なにが!?」
櫛枝「高須くんは本当に優しい人。なぜか本音が漏れちゃう、安心しちゃう。きっと大河やあーみんもそうなんだろうな。」
竜児「そ、そうか?」
櫛枝「そうだよ。わたしが…大河が魅かれたのはそこなんだ。」
竜児「…」
櫛枝「高須くん。約束して。一生大河を離しちゃダメ、離れちゃダメ。」竜児「…ああ、約束するよ。」
櫛枝「大河を裏切るのはわたしを裏切るのと一緒だから。わたしもずっと信じていたい、高須くんのことを。」
竜児「大丈夫だ、絶対に守り続ける。」
櫛枝「うん、大河をよろしくね!」
竜児「ああ!」

櫛枝「そして去年の謎は今解けた!」
竜児「…謎?」
櫛枝「高須くんはわたしの気をひきたくて怖がらせてくれたんだ!」
竜児「…恥ずかしいやり方だよな。」
櫛枝「高須くんも人のためだけじゃなく自分のために動くんだねぇ?」
竜児「当たり前だろ?」
櫛枝「当たり前に思えないのが高須くんの凄いところ。良かった…」
竜児「?」
櫛枝「…わたしの初恋が高須くんで!じゃ、おやすみ!」

タッタッタッ…

竜児「櫛枝こそ本当に優しいよな…ありがとう…」





夜中、リビング〜

大河「…竜児?なにしてんのよ、こんな時間に。」
竜児「おう大河か。いや、寝れなくてな…」
大河「よいしょっと!」
竜児「お前なぁ、ソファあいてんだからこんな狭いとこにくっつくなよ…」
大河「うるさいわね、あんたん家のせいで狭くないと落ち着かないの!」
竜児「はいはい。で、おまえも寝れないのか?」
大河「まあね。それより竜児、あんたさっきみのりんと何話してたのよ?」
竜児「…幽霊の話。」
大河「…殴られたいの?」
竜児「う、嘘じゃねぇって!それと…櫛枝と約束したんだ。」
大河「何を?」
竜児「…俺は…大河のことを…一生離さない、って。」
大河「!」
竜児「櫛枝は本当にいいヤツだな。おまえが親友って慕うのがよくわかるよ。」
大河「…あのね、竜児。」
竜児「なんだ?ダメか?」
大河「ううん、違うの!わたしもさっき北村くんにたくさん感謝して、それで、それで…」
竜児「…それで?」
大河「わたしも北村くんと約束したの。その…一生竜児を、お、想い続ける…って。」
竜児「…そうか。」
大河「そ、そうか、ってそれだけ!?」
竜児「北村も本当にいいヤツだよな、みんなもっと自分の幸せを考えろよまったく…。大河!」
大河「!?」
竜児「お前がそんな約束を北村と交わしてくれたなんて嬉しいよ。ありがとうな。」
大河「りゅ、りゅうじも…ありがと…」
竜児「大河、おまえにも約束する。一生逢坂大河のそばにいることを誓います…迷惑か?」
大河「…そ、そんなワケない…じゃない…いいのかな…わたしこんな幸せでいいの?うれしいのに…涙が止まらないよぉ…りゅうじぃ…」
竜児「大河、俺はおまえのことが好きだ。ずっと傍にいて欲しい、俺と約束してくれるか?」
大河「…うん…うん…!やくそくする…絶対やくそくやぶらないよぉ…。ずっとずっと…りゅうじと一緒にいていいんだよね…?」
竜児「…もちろんだ。でもまたおまえを泣かせちまった、俺ももっと頑張らないとな。」
大河「ちがうもん…りゅうじはそのままでいいんだもん…」
竜児「ありがとう、大河。おまえもずっと変わらずにいてくれよな。」
大河「わ、わたしはもっとしっかりする!わたしは竜児がいるだけで幸せだから…だからわたしが竜児を幸せにする!」竜児「なんだか立場が逆だな。」
大河「いいの!でも今はひとつわがまま聞いて…?」
竜児「?」
大河「今日は…手繋いで寝て…?」


おしまい


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