「あーなんだ・・・」
竜児はカリカリと頭を掻きながら、申し訳なさそうに声を出した。
「・・・」
「あーあれだ。やむにやまれぬ事情ってやつだ」
ピッと人差し指を立てて、焦ったように言い募る。
「・・・」
「だから・・・これは不可抗力ってやつで・・・」
「・・・何が不可抗力よ?」
「う」
キッと見上げる視線に、竜児がたじろぐ。
「いきなり・・・いきなり犯しといてなに言ってんの!?」
そう怒鳴りつけた大河は、目の前で白濁に覆われたまま、ボロボロと涙を零していた。
「さ、最悪・・・・あんた・・・最悪よ・・・」
ボロボロと涙を零しながら、大河はギリッと奥歯を鳴らした。
その様子に、竜児はますますシュンとする。
それは突然だった。
たまたま少し早めに起こしに来た竜児と、極稀に、朝シャンをする大河。
それがばったりと鉢合わせてしまった。
まだ眠っていると思っている竜児。
まだ来ないと思っている大河。
それが、真っ裸で遭遇してしまったしくじり。
呆然とする双方で、先に意識を取り戻したのは竜児。
いや、正確には取り戻したのではなく、暴走してしまっただけだが。
「・・・すまねえ」
己の理性の少なさに、今更ながらに驚きながら、竜児は頭を下げた。
「何を言っても言い訳にしかならねえ。謝って済むモンでもないけど・・・ごめん・・・でも・・・」
「・・・」
そこで竜児は逡巡した。
この先を言っていいものか?今このタイミングで?
でも・・・。
「でも・・・正直、お前を抱きたいって思ったのは・・・俺の本心だ」
「!!」
言わずにはいれなかった。
本当の気持ちを。



その言葉に、大河が、ふいっと視線を逸らす。
「・・・大方溜まってただけでしょうよ・・・」
「ちがう!」
予想外の大きな声に、大河ばかりか竜児も驚いた。
気まずそうに鼻の頭をコリコリと掻きながら、なるべく大河の方を見ないように言葉を紡いだ。
「その・・・前からお前の世話を焼いてるうちに、その・・・お前のことが可愛く見えてきて・・・そんで、いつのまにか・・・櫛枝のことよりも・・・その、お前のことが気にな・・・」
「もういい」
「え?」
突如切られた言葉に、慌てて大河を見た。
目に入ったのは、ぺたぺたと廊下を歩いていく後姿。
股の間から、先の行為の名残を垂らしながら。
「たい・・!」
「ベトベトになっちゃったから、もう一回お風呂に入りなおさなきゃ」
暗に責められて、もう一度竜児が俯く。
取り返しのつかない事をしたという意識が、今更ながらに体に染み渡る。
そこにかけられた言葉。
「なにしてんの?お詫びに身体くらい洗いなさいよ、この駄犬」
「え?」
呆けたように向けた視線の先、大河は心底イラついたような、眉根を寄せた視線で睨み付けていた。
顔を真っ赤にしながら。
「あんたのお詫びになんて何の価値もないのよ。だったら行動で示しなさい」
ふん!と惜し気もなく裸身を反らしながら・・・大河は竜児を受け入れた。
「あ・・・」
「なによ?」
「あ・・・り、理性が持たなそうなんだ、けど・・・?」
情けなくも、大河の白い裸身から目を離せず、竜児が呟いた。
それを「はん」と鼻で笑いながら、大河がいつものように嬲る。
「ステイも出来ない駄犬に興味はないわ。お風呂ではなにもすんじゃないわよ?私を抱きたいなら・・・ベッドまで我慢なさい」
わかった?と、すっかり調子を取り戻した暴君は、ニヤリと笑いながら、主導権を握り締めてシャワールームへと消えていった。
「・・・やべぇ・・・」
そうして残された忠犬が一匹。
「・・・これ・・・最大級の拷問かも・・・?」
茫然と呟く竜児の耳に、
「早く来なさいよグズ犬!!」
と、傍若無人な主人の声が響き渡った。




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