5/5。給料日。

竜児「お疲れ様でした!」
泰子「竜ちゃんお家でねー」
竜児「おう」

ポケットに入れた給料袋。その感触を確かめて思わず笑みが零れる。
その時鳴り出す携帯。着信の名前を見ると、櫛枝と表示されていた。

竜児「櫛枝?」
実乃梨『おっす高須君!首尾はどうかね?』
竜児「ああ上々だ。目標金額までなんとかいったよ」
実乃梨『おーそれは重畳だー。そしたら後は・・・例のものGETだね?』
竜児「おう。まだGWだから、明日の昼間にでもいって来る。ホントにいろいろ世話になったな」
実乃梨『なんのなんの。あたしはなーんもしてないよ』
竜児「なにいってんだ。お前の口添えがなけりゃ、泰子の店で働くなんて出来なかったじゃねーか。お前が説得してくれたから出来たんだ。ありがとう」
実乃梨『イヤー改めて御礼言われると、オラ照れちゃうべ』

そうやって二人で笑いあった。

実乃梨『で?X-DAYはいつにするんだい?』
竜児「うーん・・・できれば言った日がいいんだけど、それだと学校があるしな・・・どうしたもんか・・・」
実乃梨『明日はどうよ?』
竜児「え!?い、いきなりすぎだろ!?お、俺も心の準備が・・・」
実乃梨『心の準備なら前に出来てるでしょ?それより思い立ったが吉日って言うじゃん?やっぱり勢いをつけるのが一番いいんじゃないかね?』
竜児「・・・う。そういわれると、確かに・・・」
実乃梨『それに今なら学校も休みだし、あたしが昼間大河呼び出して遊びに連れてくよ。その間に高須君が・・・』
竜児「お、おう。それはすごい助かる。どうやって大河を誤魔化すかが問題だったし」
実乃梨『OKOK。そっちは任せたまえ』
竜児「何から何まで世話かけるな」
実乃梨『気にしなさんな。あたしだって大河の喜ぶ顔見たいしね。じゃあ頃合見計らって例の場所に連れてくね』
竜児「ああ。俺も万全にしていく」
実乃梨『りょーっかい!それでは高須二等兵、武運を祈る!』
竜児「わかった。・・・って俺二等兵かよ?」

もう一度笑ってから電話を切った。
竜児は夜空を見上げながら、どーかうまくいきますように。お願いします!と星に手を合わせた。




5/5夕刻。PM8:00。
帰宅途中。

大河「んー・・すっごく楽しかった!みのりんありがとね!」
実乃梨「喜んでもらえたら嬉しいよ」
大河「竜児も・・・これたらよかったのにな」

ふ、と寂しげに呟いた親友の声に、実乃梨が殊更に明るい声を出す。

実乃梨「でも、もうすぐバイト期間終わりじゃん?そうしたらまた一緒に帰ったりできるね」
大河「うん・・・そうだね。楽しみだな」

明るさを取り戻した声に、密かに胸をなでおろす。沈んでいてもらっては困るのだ。特に今日は。

大河「あれ?道ちがくない?これ家の方向と逆だよ?」
実乃梨「あいやー気付かれたか」
大河「みのりん?」
実乃梨「今日はもう一つ連れて行くところがあるのだ。それは・・・ここだー!!」

そう大仰に実乃梨が指し示した場所、そこは・・・。

大河「学校・・・?」
実乃梨「そーだ学校だ!ささ、奥までずずずいっと」
大河「ちょ、ちょっとみのりん!?」

強引に肩を押されながら入った校内。そのまま大河は裏庭まで連れて行かれる。
月明かりの下、目に入った景色は・・・。

大河「・・・ここは・・・」
実乃梨「そ。大河が北村君に告白した場所だね」

非常階段脇の、小さな空き地。
一瞬呆けた大河だったが、実乃梨の言葉に慌てて振り返る。

大河「!?みのりんっ!?ななななんでそれを!?」
実乃梨「みのりんは、何でも知っているのだー!・・・じゃなくて、彼がここから始めたいっていうんだよね」
大河「かれ・・・?」

そう言いながら、実乃梨の視線の先を追っていった大河の目が、驚きに見開かれる。そこに立っていたのは・・・。

大河「竜児!?」

高須竜児が、傍らに川嶋亜美を伴って立っていた。




PM8:45。校内。

竜児「・・・大河」
大河「な、なんであんたがここにいるのよ・・・?バイトは・・・?」
竜児「昨日終わった」
大河「は!?」
竜児「今日はあるものを買いにいってた。騙すような真似して悪かった」
大河「・・・なんでばかちーがいるの?まさかあんたら・・・」
亜美「冗談はやめてよね。亜美ちゃんは協力した当事者だからここにいるだけ」大河「協力した?・・・なにに?」
亜美「それはあたしの口からは言えないわ?ねー、た・か・す・君」
大河「!?あんた・・・」実乃梨「あーみん?からかうのも程々にしないと・・・ほら。大河泣いちゃいそうじゃん?」
大河「な、泣かないよ!」実乃梨「はいーはい。さ、それじゃ外野はここまでだ。さ、続きは本人に聞いてきな・・・大河」

トンと背中を押されて二三歩たたらを踏んだ。気がつけば竜児が目の前に立っていた。

大河「竜児・・・どーゆーことなの?」
竜児「大河・・・覚えてるか?」

質問に答えず、竜児は逆に聞き返す。有無を言わせぬその迫力に、大河も、ぐ、と押し留まる。
大河「・・・なにを?」
竜児「・・・駆け落ちする前に、俺が言ったことだ」大河「駆け落ち・・・?」
そこで動きを止める大河。その記憶は、まだ新しい部類に入る。見る間に真っ赤になるほどには。

大河「あああんたが・・・あたあたしをすす好きって言って・・・」竜児「そこじゃない」大河「へ?」

その時竜児がゆっくりと右手をチノパンのポケットに入れた。
竜児「そのほんの少し前。川に落とされたまま、俺が言ったことだ」

そこで切った竜児の耳に『うわ。やっぱアレ落とされたんだ』と亜美の声が届くが、なんとかスルー。

大河「あ、あのとき竜児は・・・」

懸命に思い出そうとする大河。
竜児は言った。
――俺は今17だ。
――あと2ヶ月で18になる。
――そうしたら・・・
――そうしたら?

大河「あっ!!」

気付いた大河が慌てて顔を上げる。その顔が見る間に紅潮する。
そうして、竜児が頷いた。

竜児「そうだ。今月俺は18になる」

そして右手をゆっくり取り出す。

竜児「気持ちはあの時と変わらない」

その手を開いて小さな箱をみせつける。

竜児「その為のしるしが、これだ」

開いてみせた箱の中。その中身に大河が涙ぐむ。

竜児「・・・嫁に、こい」
竜児の手の中、月明かりを受けて、小さな結婚指輪が、燦然と輝いていた。




PM9:00。

大河「・・・」

余りにも突然で、大河は言葉を失う。
それでもなんとか紡いだのは詮無き事で。

大河「あ、あんたの誕生日・・・まだ一週間以上あるじゃない・・・」
竜児「ああ。だけど、休み中のがいいだろうって櫛枝と」
大河「みのりん?」

反射的に振り返る。
その先で大好きな親友はニッコリと、ただ微笑んだ。

竜児「他に・・・聞きたいことは?」
大河「・・・あ、あたし、あんたに指輪のサイズ言ってない。それ・・・あわない・・・かも・・・」
亜美「その点は網羅してるわよ」
大河「ばかちー・・・?」

相手をライバル視しているカリスマモデルは、ここぞとばかりにふんぞり返る。

亜美「こ・な・い・だ・の、アクセサリー・・・わかんない?」
大河「・・・あ!」
亜美「そ。みんなでファッションショー。あれ自体がブ・ラ・フ。あんたのサイズ測るための布石だったのよ」
大河「ばかちー・・・」
亜美「そんな目で見るなって。全部あんたのためなんだから」

そう言って、亜美は実乃梨と笑いあった。

大河「じゃ、じゃあ、やっちゃんトコでバイトってのも・・・」
竜児「ああ。これ買うために無理してやらせてもらった」

そうして傾けられた指輪。その輝きがひどく眩しい。




竜児「・・・この二人はホントにいい奴らだ。お前のために、俺のためにって、ホントに世話になった。だから・・・だからこそ、こいつ等には俺たちの事を見届けて欲しい」

実乃梨に目を向け、振り返って亜美を見る。
二人とも、ニッと歯を見せて笑っていた。
そうして向き直る。最愛の人へ。

竜児「・・・大河」
大河「!!」

ズイッと一歩竜児が近づく。
反射的に大河は半歩後ろに。

竜児「・・・俺は言った。残りの人生、全部お前にやるって・・・」
大河「・・・」
竜児「俺は誓った。竜としてお前の傍に居続けるって・・・」
大河「・・・」
竜児「だから・・・だから・・・」
大河「・・・」
竜児「残りの人生、俺と共に歩んでくれ!」
大河「っ!!!」

静かな校内に響く竜児の声。幾許かの間の後・・・

大河「・・・(こくん)」
竜児「!!」
亜美・実乃梨「や・・・!!」
???『やったーっ!!!!!!!!!!』

響き渡る歓声が、見守りながら抱き合う二人よりも先にその場を埋め尽くした。




PM9:05

竜児「なっ!?」
大河「えっ!?」

突如沸き起こる歓声。
驚く二人の前に、出てくる出てくる。
階段の踊り場から。
校舎の陰から。
そして茂みの中から。
それら全ては、見知った顔達。

竜児「お、お前等・・・!?」
春田「たかっちゃーん。こっそりプロポーズなんて、水っぽいぜ?」
竜児「2-Cの!?」

そう。かつて学んだ学友達だった。

奈々子「・・・それ言うなら、水臭いじゃない?」
春田「えーそうだっけ?」
能登「高須ー!オレらに隠れてってのはないんじゃない?」
摩耶「そーそー。あたしら皆、あんたたち応援組だったじゃん」

かつての面々。今の面々。入り乱れながら、その全てが笑顔を向けていた。




竜児「な・・・なんでお前等が・・・」
亜美「んっふっふ〜」
竜児「川嶋!?」
亜美「はーい。犯人は亜美ちゃんでーす」

してやったりの笑顔で、亜美と実乃梨は拳を突き合わせる。

実乃梨「あーみんの提案で、皆を集めたのは私です!いやぁ、皆イベント好きだ!声掛けたら二つ返事で乗ってきたよ」

楽しそうに笑う実乃梨の前、真っ赤になった二人は、何も言えずに絶句していた。
その前に歩を進めてくる一人の人物。
それは・・・。

北村「俺にくらい、話してくれてても罰は当たらないんじゃないか?」
竜児「北村・・・」
北村「ったく、友達甲斐のない奴だな」

そう言ってメガネの親友は、ポスンと竜児の腹に拳を打ち付けた。

北村「・・・おめでとう、高須」
竜児「・・・ああ。ありがとう」
北村「おめでとう、逢坂」
大河「あ、ありがとう北村君。・・・みのりんもばかちーも・・・ありがとう」
実乃梨「いーってことよー!」
亜美「げ。タイガーがありがとうだって。明日辺り雨降んじゃない?」
大河「・・・あんたには、あとで個人的にお礼してあげるわ」

二人して憎まれ口を叩きながらも、その顔は笑顔のままで。

竜児「ホントありがとな、みんな!スゲーいい思い出に・・・」
北村「なーにを言ってるんだーお前は?」
竜児「え?」
北村「このままじゃ片手落ちだろ?」
竜児「え?え?」

訳が分からず聞き返す竜児に、実乃梨と亜美も会話に加わってきた。

実乃梨「そうだよ高須くん。大河にプロポーズした」
亜美「そしてタイガーはそれを受けた」
北村「そうしたら、残るは只一つ!それは・・・」

一拍の間を置いて三人の声がキレイに重なった。

実乃梨・亜美・北村
『結婚式だ!!!』
竜児「へ?」
大河「え?」
竜児・大河『ええええええええっっっ!!?』

驚愕の叫びは、沸き起こった歓声の前に、無残にも飲み込まれていった。

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