湧き上がる歓声を他所に、竜児はひたすらに困惑していた。

『エンゲージリング―完結編―』

「おい北村!!」
目の前で観衆を煽っている親友の肩を掴む。
顔が真っ赤になってるのを自覚しつつ。
「ん?なんだ―高須ー?」
こいつ・・・確信犯か。
あからさまにニヤニヤ笑いを浮かべている顔に、剣呑な目を向けた。
「お前・・・大河を晒し者にする気か?」
俺はともかく・・・・と言う俺を片手を上げて制しつつ、北村は小さく笑った。
「なに言ってんだ。皆お前達を祝福しに集まったって言うのに」
そう言って周りを指し示す北村。
確かに周りからはおめでとう!だの、羨ましいぞたかっちゃん(春田後でしめる)だのが聞こえてきていた。
正直・・・嬉しいし、泣きそうだ。
「いや、しかしだな・・・」
大河の気持ちも・・・そう言おうとした俺に、また北村は手を上げる。
「逢坂の為でもあるんだぞ?」
大河の?
困惑気味の俺に、親友の真剣な目が突き刺さる。
「お前の言葉を・・・信じていたんだとさ」
促されて振り向いた背後、両脇に美少女を備えた、小さな美少女が目に飛び込んだ。



「・・・ほら大河」
「言いなよタイガー」
そうして促された大河は、モジモジと服の裾を掴んでいた。
それでも、両脇から肩を押されて決心したように顔を上げた。
「大河・・・?」
「わ、私ね・・・そ、その・・・」
小さくなっていく声。でも、その後ろには親友と悪友。その二人が肩を押してくれて。
そんな風に大河は、決意の篭った目を俺に向けた。
「あ、あんたがあの約束を忘れてるんじゃないかと思ったの!!」
「!?」
言われた台詞。
思いの外にショックが大きい。
言い淀むほどに。
「お・・・お前、俺がこの1ヶ月・・・どんだけ・・・」
そうだ。俺がどんだけこの1ヶ月頑張ったと・・・。
「うん!だから疑ったことはあやまる!ごめん!!」
響き渡る大河の声。
「でも、でも!!あんたなんにも言ってくれないし・・・やっぱりあれはその場の勢いで言っただけなのかなって・・・思っちゃって・・・だから・・・」
徐々に小さくなる声。
そこには今まで押さえてきた不安と、信じきれてなかった罪悪感が見て取れた。




「・・・」
・・・ああそうか・・・そうだった。
今になって愕然と気付く。
こいつは幸せに慣れてないんだ・・・と。
馬鹿か俺は。
今までだって大河は、自分がいたから周りが不幸になったとか思っていたんだ。
不安になって当たり前じゃないか。
そこに気付いてやれなかった。
今更ながらに自分の迂闊さに腹が立つ。
「大河」
一歩踏み出して、その小さな身体を抱きしめる。
「りゅ、竜児・・・」
「ごめんな不安にさせて」
「!!」
一瞬ビクリと震える身体。
大丈夫だ、俺はここにいる。
教えるように、抱く腕に力を込めた。
「お前をびっくりさせたくて凝った演出をしたかったんだ。でもそれが・・・逆にお前を不安にさせちゃったんだな・・・」
「そ、そんなことない!今日、だって、すごくすごく嬉しかったもん!!」
「それでもだ」
軽く身体を離して、正面から大河の目をみつめる。
「俺を信じてくれなかったのは少し哀しいけど・・・それでもお前は待っててくれた。ありがとうな」
「〜〜〜りゅうじぃい・・・」
クシャクシャっと泣き顔になるお前。
それが悲しみじゃない事を心から喜ぶ。





泣きながら飛び込んできた小さな身体を抱きしめる。
もう離したりはしない。絶対に。
「ごめんね・・・ごめんね竜児・・・」
泣きながら、大河が何度も何度も謝る。
その身体を抱き締めながら、俺は言いようのない幸福に包まれていた。
「もういいよ。俺こそごめん」
本当にごめんな、大河。
必ず、幸せにするからな。
「・・・と言うわけだ、高須」
掛けられた声に振り返る。
「ああわかった北村」
笑顔を返しながら、俺は周りにいる奴等を見渡した。
みんな、本当に祝福するために集まってくれたんだな。
それもこれも、この小さな小さな傷ついた子供の為に。
みんなが傍にいるって、教えてやりたくて。
もう幸せは、お前の手の中にあるって教えてやりたくて。
「ありがとな、みんな」
俺の言葉にまた歓声が上がる。
お前等みんな最高だ。




「大河」
「え?」
俺の胸に埋めていた泣き顔を上げて、大河が俺を見る。
ポケットから取り出したハンカチで、涙と鼻を拭ってやる。
「こいつら全員・・・俺たちのために集まってくれたんだ」
「う、うん・・・」
まだ、グスッと鼻を鳴らしながら、大河が小さく頷く。
「それはとてもすごいことだし嬉しいことだ」
振り返り、北村を見る。
目を戻せば、櫛枝と川嶋。見渡せばかつての学友たち。
「だから・・・こいつらが望むなら、俺はここで結婚式をしたいって思う」
本当に感謝してるから。
「おまえは・・・どうだ?」
語りかける声を一音一音聞き逃さないように大河は真剣な目で俺を見上げていた。
そして、その首が「コクン」と縦に揺れた。
「よし!」
俺の快諾の声と共に湧き上がる歓声。
「結婚式やるぞー!!」
一際大きな歓声と共に、俺と大河は小さく微笑んだ。
そっと手を繋ぎながら。


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