ある晩、夕食が済んでから竜児が大河に言い出した。
「竜児、今なんて?」
「だから、俺はもう櫛枝が好きっていうよりは仲の良い友達って感じでいいと思ってるんだって」
「ホ、ホント……?」
「嘘言ってどうする。っていうか何でお前がそんなに俺の好きな奴を気にするんだよ?」
「べ、別に飼い犬の発情期くらい把握しようと思ってただけよ!!」
「お前俺を何だと……」
「まぁいいわ。だったら今後アンタとみのりんへの協力はしなくていいのね?」
「ああいいぞ。お前は早く北村と上手く行くといいな」
「へ?……あ、ああ、うん」
「どうした?」
「何でもない、今日はもう帰るね竜児。また明日」
「おぅ」

***

「大河ー朝だぞって……うぉ!?」
「なーにが『うぉ!?』よ?ありえないものみたような顔して」
「いやだってお前と知り合って以来、お前がこの時間に起きてたことなんて、ましてや顔を洗った後だなんて皆無だったから……」
「私だってたまにはアンタと顔を合わす前に洗顔くらいするわよ」
「?大河、なんか機嫌いいな」
「なっ!?なんでよ!?」
「普段なら『アタシが早起きしたら悪いってーの?』とか『毎日起きてるけど犬のアンタに仕事を与えてやってんのよ』とか言い出すじゃねーか」
「アンタの中のアタシって一体……」
「まぁいいじゃねーか。俺は今のお前の方がいいと思うぞ?」
「ホント!?」
「ああ、北村も喜ぶはずだ」
「………………」
「大河?」
「うっさいグズ犬!!さっさと朝ご飯用意しなさい!!」
「結局今朝もこれか……はぁ」

***

「いぇーい大河、一緒に飯食おうぜぇい!!今日は何かな何かな?おおっ!?今日はとんかつだぜぇい!!大河は?」
「ん、今日は竜児のポテトサラダとアスパラの炒め物と……」
「?大河珍しいね?いつもなら肉が無いって怒り出すのに」
そんな話をしていた時、大河の後頭部に急に何かがぶつかる。
「ごめんなさぁいって……ってなんだアンタか」
当たったものは小さなポーチ。持ち主の川嶋亜美が近づきながら謝罪……のようなものをした。
「ん、気をつけなさいよ」
大河は頭に当たったポーチを返す。
「?アンタ怒んないの?」
「怒って欲しいわけ?」
「いや、わざとじゃないし怒られないに越した事はないけど……アンタが怒んないなんて裏がありそうで恐いわ。何かいいことでもあった?」
「あ、それアタシも聞きたい!!大河なんか機嫌いいよね」
そんな話をしていた時、校内放送が流れる。
『2年C組逢坂大河さん。職員室まで来てください』

***

「全く、あの担任くだらないことで人のこと呼びつけて……ん?あれは竜児?と……」
職員室の帰り、前を歩いていて見えなくなったのは間違いなく竜児。その隣には、恐らく1年と思われる女子。何となく後をつけ、耳を澄ます。聞こえてきたのは……、
「……で……です……ば……付き合ってください」
そんな言葉。それに竜児は、
「ああ、いいぞ」
そう答えていた。



「肉が少ない」
大河の第一声はそれだった。場所は教室、時間は昼休み。
「そうか?今日は結構多めにしたつもりだぞ?シュウマイにメンチカツ。なんとご飯にはそぼろを……」
「少ない」
一言で切って捨てる。
「なんなんだよ大河。昨日からずっと変だぞ?何怒ってるんだお前?昨日は昼くらいまでずっと機嫌よかったのに」
「ハァ?何アンタ?アタシが機嫌悪いとか思ってるの?」
そんな話をしていた時、大河の後頭部に急に何かがぶつかる。
「ごめんなさぁいって……ってなんだまたアンタか」
大河は自分の頭に当たったポーチ(昨日と同じ奴)を地面に叩きつけて言い放った。
「バカチワワ、アンタには学習能力ってもんが無いの?竜児んとこのブサインコより頭が悪いんじゃない!?」
「うっわ何それ!?アンタいくらこっちが悪いからって言っていいことと悪い事があんじゃん?何よ昨日はやけに機嫌いいと思ってたら今日は最悪?八つ当たりはやめてよね」
「あの温厚な大河が珍しく怒ってるっぺ」
今日も一緒に食事をしようとしていた実乃梨が、大河の剣幕に驚いている。
「何かあったのかい、高須君?」
そしてそのまま竜児に尋ねた。
「いや、わかんねぇんだよ。昨日の放課後あたりから急に怒り出してて……」
「アンタ、まだ言うの?怒ってないって言ってるでしょ!!もしアタシが怒ってるように見えるとしたらアンタがアタシに怒ってるって言うからよ!!」
「た、大河落ち着いて……」
実乃梨の静止にも、大河はなかなか落ち着かない。
「行こうみのりん。こんな犬の巣窟でご飯食べてたら変な菌がうつる」
「菌って……言いすぎだろ大河!!」
「うるさい万年発情犬!!」
売り言葉に買い言葉で竜児と大河の口論はヒートアップしていく。そこに、
「おーい高須、1年女子がお前を呼んでるぞー」
クラスメイトの声がかかる。
「あ、わかった」
竜児は大河から目を逸らし、教室の出入り口に待つ女子の方へと向かう。
「す、すいませんお取り込み中でした?」
「あ、ああいやいいよ。それで?」
「あの、日程等のお話なんですが……」
そんな、竜児と女子の方を大河も無視し、片手にはしっかりと弁当を抱えて反対側の出入り口から出ようとして、誰かとぶつかった。
「あいたたたた」
ぐしゃ。何かが踏まれる音。目の前には……
「また、お・ま・え・か……!!!」
「あ、すいま……ひぃっ!?ててて、手乗り……」
「まだ言うか、『富家幸太』」
不幸体質の男、富家幸太。その足元は、しっかりと大河の弁当を踏んでいる。
「ちち、違うんです。今日は僕は付き添いであのその」
「あっ幸田くん!?」
その幸田に近づく女。先程竜児と話していた女だ。
「何よアンタ」
猛獣の瞳で睨む大河。
「ひぃぃ!?」
怯える少女。しかし、その少女の前に立ちはだかるように幸田が出て、さらにその前に竜児が立った。
「大河、お前おかしいぞ。普段のお前なら富家はともかく関係の無い奴をそこまで睨まないだろ」
「関係ない、ですって?」
その時、みるみる大河の顔の表情が消えていった。
「ふん……」
もはや興味は無い、とばかりにその場を大河は去る。
その晩、高須家に夕飯を食べに来た大河は竜児とは一言も話さずインコちゃんの籠を放さなかった。



「あれ?高須君は?」
「知らない。さっき迎えにきた女と出て行った」
次の日の昼休み。一人でお昼を摂っていた大河に実乃梨が近づく。
「?まだ高須君と喧嘩してるの?」
「喧嘩なんかしてない」
大河は実乃梨の目も見ずに答える。
「ふーん、そういえば高須君を迎えに来た女って昨日の?」
「そう。どうでもいいけど」
大河は食べている弁当から目を放さず、食べる手を休めない。それでも、いつもより食べるスピードが遅い。
「確かあの子生徒会の子だよね?」
「そうなの?知らない」
そんな二人の話の中のキーワードに聞き覚えがあったのか、会話に入り込んできた男がいた。
「生徒会がどうかしたのか?」
「あ、北村君。そうなんだよ、ほら、昨日高須君を迎えに来た女の子、あの子って生徒会だよね?」
「ああ、狩野のことか」
「狩野?って確か……」
「ああ、会長の妹なんだ。名前はさくらだ」
「なるほど〜どおりで聞き覚えがあるわけだよ〜」
「……狩野さくら……」
北村と実乃梨の会話を耳にしながら、静かに大河は反芻する。
「そうだ逢坂、幸太知ってるだろ?幸太とさくらは付き合ってるんだ」
「えっ!?」
「おおぉ〜生徒会の中での愛ですかぁ」
大河は驚き、実乃梨がふむふむと首を上下に振っている。
「だってアイツ……」
「信じられないだろう?幸太だってがんばったんだぞ。今や生徒会公認カップル……逢坂?」
「……ふうん、もう付き合ってる、ねぇ……まぁ私には関係ないけど」
大河は何処か、残酷な笑みを浮かべていた。
「く、櫛枝、俺は今猛烈に恐いんだが……」
「き、北村君、今ここには何か良くないものが来ている気がするよ……」
「ん?どうしたの二人とも?」
大河が心底不思議そうに首を傾げる。と、同時に不吉な良くないものも消えた。
「ああ、いやなんでもない……っと忘れるところだった。逢坂」
「な、何?」
「もし良かったらなんだが今度生徒会で泊りがけのボランティアに参加しないか?」
「ほえ?」
「いや、実は俺のペア、男女なんだが、そいつが急に出られなくなってしまって会長にかわいい女子を助っ人に連れて来いと頼まれてな。高須に相談したら逢坂がいいんじゃないか、と……」
「竜児が……?」
「ああ、高須にそう言われた」
「……ごめん北村君、行かない」
大河は首を横に振る。
「……どうしてもダメか?実は今日中に決めなくちゃいけなくてな。もう他に頼れそうな奴がいないんだ。まぁ無理なら仕方ないか……」
残念そうに北村が言う。
「……北村君がそこまで言うなら……でも」
「おお!!引き受けてくれるのか!?」
「……うん。でも……竜児には言わないで」
「む?何故だ?……高須も……」
「お願い」
大河は頭を下げる。
「……わかった。こっちは無理なお願いをしたんだ。それぐらいは護らせてもうよ逢坂」
それに、大河は苦笑いで答えた。



「なぁ大河」
「………………」
無視。大河は相変わらずインコちゃんの籠に向かってぶつぶつと言い続けている。
「いつまで怒ってるんだ?」
「……怒ってないって言ってるでしょ」
もうここ2日間で何度となく繰り返したやり取り。しかし、今回の大河の声色は、何処か竜児を嘲笑うかのような言い方だった。
「……なんだよ」
それを読み取った竜児は尋ねる。
「別に……自惚れて有頂天になってるアンタに言ってやる言葉は無いわ」
「な……」
絶句する竜児。意味がわからない。が怒りだけが沸騰していく。
「それと週末はご飯いらないから」
週末、それは北村から頼まれたボランティアの日だった。
「そうかよ!!どっちにしろ俺も週末は用事があって作る暇なんかないけどな!!」
竜児は苛立ちながら背を向けた。竜児の頭からは、自分が北村に推薦したことなど綺麗さっぱり忘れていた。

***

ボランティア当日。そこには生徒会メンバーと幾人かの助っ人が集まっていた。その中には、大河が忘れようとしても忘れられない奴がいる。
「ちょっとアンタ」
「へ?ひぃい!?」
富家幸太は驚き、両手を上げ、その勢いの付けすぎで服の脇が少し破れた。
「あ、昨日買ったばかりなのに……」
そんな、湧いて出る幸太の不幸を無視して大河は続ける。
「アンタ、あの女、狩野さくらと付き合ってるんだって?」
「へ?え、ええ」
「良い?折角だから注意してあげるけど気をつけなさいよ?その女に二股かけられないように」
「なっ!?さ、さくらちゃんに限ってそんなこと……」
「さぁどうかしらね?アンタ不幸体質らしいじゃない?もしかしたら今頃……」
「さ、さくらちゃんに限って……」
「アタシこの前偶然聞いたんだけど、そのさくらって子が高須竜児に『付き合ってください』って言うの聞いたわよ?」
「えっ!?そそ、そんなぁ〜」
幸太の顔がみるみる暗くなっていく。
「だから、せめて今回の活動中にでもアピールすることね。そういやそのさくらって子いないわね?」
「ううっぐすっ。さくらちゃんは別の班なんですよ……そうか!?だから……うわぁぁっぁああん」
「う……何泣いてんのよ?」
「うううううう……」
「おいおい逢坂、あまり幸太をいじめるなよ?じゃあ行こうか」
大量の荷物を持ってみんな歩き出す。それはどうやら食べ物のようだった。
「これは今学校で作ってるんだ、これを老人ホームに届けて食べてもらい、高校生との交流お深めるのが目的だ」
北村がボランティアの趣旨を説明する。しかし、幸太は半泣きでそれを聞かず、大河はそんな幸太から逃げるのに必死で話など殆ど聞いていなかった。

***

「思いのほか好評だったな」
無事に老人たちにも受け入れられ、今回のボランティアは上々だった。あとからあとから車でも運ばれてくる料理は大河の目から見ても大したもので、人参などで鳳凰が作られてるところを見て、つい、
「竜児が作ったみたい……」
と思ってしまい、首を振る。今日は竜児のことは忘れようと決めたのだ。あいつの思惑通りにいっているようで腹が立つから、あいつのことは考えない、と。
「疲れたろ?逢坂。今日は学校に戻って寝泊りだ。今日運んだ料理はちゃんと俺達の分もあるからな」
そう言いながら北村はみんなを調理室へと誘導する。
「おーい、戻ったぞーお疲れーご飯あるかー?」
調理室へ入った北村は一気に報告と質問をする。
疲れてた上、お腹もすいていた大河はそんな北村についていきながら前を殆ど見ていなかった。そのため、
『どんっ!!』
やたらと背の高い奴とぶつかった。




「あいたたた、ちょっと気をつけ……」
大河は思い切り文句を言ってやろうとして目を丸くする。ぶつかってこられたほうも驚いていたが。
「大河?」
「竜児?なんでアンタがここに……ソーユーコト」
大河は目端で捉えた狩野さくらを見て、勝手に頷いた。
「あ、北村先輩、準備できてます。高須先輩のおかげで随分助かりましたし」
そんな会話をさくらが北村としていると、
「さくらちゃぁぁぁぁん!!」
泣きながらさくらに近づく不幸体質の男がいた。
「僕、僕がんばるから、がんばるから別れるなんて言わないでぇ!!!!」
「えっ?ええっ!?別れる?私と幸太くんが?何で!?」
意味がわからないというようにさくらが驚き焦っている。
それを見て、大河は竜児に視線を向け、あれ、と思った。竜児はなにも気にせず料理の続きをしている。
「だってだって、高須先輩に付き合ってって言ったって……」
もう抱きつくようにさくらに手を伸ばしながら幸太は続ける。
「え?高須先輩に?うん付き合ってもらったよ」
「うわぁぁぁん!!」
幸太は一層強く泣くが、
「なにやってんだ富家」
あまりの泣き声に気になったのか、料理の手を止め、竜児は幸太に手を伸ばした。
「うう、先輩、さくらちゃんと付き合ってるってほうんとうですかぁ?」
幸太は泣きながら尋ねる。
大河は何故か背を向けた。その返事は、自分も聞きたくない、と。しかし
「狩野と、っていうか狩野に、だぞ。付き合ってるのは」
「意味がわかりまぜぇん〜」
もう幸太は手が付けられない。
大河はこの調理室から一歩を踏み出そうとし、止まった。
「だから、狩野に頼まれたとおり、ボランティアで作る料理作りに付き合ってるって言ってるだろが」
意味がわからないのはこっちだとばかりに竜児は首を傾げる。
「え?じゃあ高須先輩とさくらちゃんは恋人じゃないんですかぁ?」
ようやく泣き止んだ幸太が、まともな声で聞いた。
「はぁ?恋人?そんなわけねぇだろう。だいたい狩野は料理作ってる間もずっと富家のことばっかり言って……」
「わーっわーっ先輩ストップ!!それは言わないでぇ!!」
慌てたようにさくらが右手をふる。左手はずっと幸太の頭を撫でていた。
「はいはい、よくわからんがみんな腹が減ってるようだ。高須、狩野、飯を頼む」
「おぅ」
場を北村がしめ、みんなご飯を食べ始める。いつの間にか、大河は竜児の隣に座っていた。
「……竜児」
「……何だ?」
「……あの鳳凰、アンタね」
「見たのか?どうだった?喜んでもらえてたか?」
「……あっという間に食べられちゃって誰も鳳凰なんて気にして無かった」
「そ、そうか」
がっくりと肩を落とす竜児。
だが、数日ぶりにまともな会話をした二人の空気は、ようやくいつも通りになっていた。



食事が終わり、皆が寝る事になった時、会長から今日の助っ人達に通達があった。
「えっ!?帰ってもいいの?」
「ああ、高須が凄い腕でな。あとは明日さくら一人でも厨房は大丈夫だし、午後からは片付けだけだからな。もっとかかると思って泊まり申請をしていたんだが、必要なさそうだ」
もともと、竜児は泊まり予定ではなかったためがんばったのだが、結果的にそのおかげでほとんどの人間が泊まらずにすむことになった。
「じゃあ、俺は帰りますね」
竜児はそう言って頭を下げ教室を出て行く。
それをきっかけにみんな帰りだした。

***

帰宅途中、竜児は尋ねる。
「なぁ大河」
「何よ」
「お前なんで今回これに参加したんだ?」
「アンタ、自分で北村君に言ったんでしょ?」
「えっ!?あ、そういや……」
「あきれた……忘れてたの?」
「ああ、まぁ……でもそっか、北村からのお願いじゃ断れないわな。それに良かったじゃねぇか。北村と……」
「うるさい!!」
「な、何だよ。まだ怒って……」
「怒ってない。別にアンタが誰とハァハァしようが付き合う約束しようが関係ない!!それと一緒で北村君も関係ない!!」
突然、傍にあった電柱に蹴りを入れる大河。
「……?どうしたんだ大河?」
「……うるさい」
蹴る。
「……お前、泣いてるのか?」
「……うるさい」
蹴る。
「なぁ大……」
「うるさいってば!!泣いてなんかいない!!この犬!!」
蹴りまくる。
「そうか、じゃあまた、加勢してやる」
そう言って、竜児も電柱を蹴り出す。大河も蹴る。竜児も蹴る。
「……竜児」
「あん?」
お互い、電柱を蹴りながら、息も絶え絶えになって、それでも蹴ることを止めずに話し続ける。
「私もっ、北村君とはっ友だちに……」
「あ?何だって!?」
蹴りと、息切れのせいで、よく聞こえない。
「何でもない!!アンタは私の犬なんだから……」
一際大きく、これで最後だとばかりに大河電柱に蹴りを入れる。
「私に黙って人と約束するなんて100年早いのよぉっ!!!!!」
その蹴りを放つ大河の顔を竜児は見た。清清しくさっぱりとしていて、それでいて気品を失わず、目に雫を浮かべながらも口元には笑みを浮かべて、さくらんぼのような頬を震わせている。
何か、竜児の中に、熱い、熱い雫がぽとりと落ちた。
「ふぅ、ほら、帰るわよ竜児」
「あ、ああ」
「?何呆けてんのよ?」
「い、いや足は大丈夫か?」
「ふん、アレぐらいの電柱、いつでもモルグに葬り去ってくれるわ!!」
そんな、おもしろおかしい空気を纏いながら大河は竜児の横を歩く。気付けば、大河はいつも自分のやや後ろか前を歩いていたはずだ。それが今は真横にいる。ようやく対等に、スタートラインに立った、そんな気がした夜だった。

***

高須家で待つ一匹のインコ。一見忘れ去られたように見えて、エサはちゃんとエサ箱にある。しかし、先程からハラリハラリと羽が抜けるスピードが尋常ではない。
「ナンデ竜児ハワタシヲ……」
意味不明な言葉を言いながら、舌を出したままのブサイクなインコは枝から転げ落ちる。幸いな事に、その言葉を聞いたものはいない。しかし。不幸な事に、この家の住人が禿げたインコの状態に気付くのは、まだもう少し先のことだ。
おわり。



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