【雨】

「あーあ…どしゃ降りね…」
机に肘を付きはぁっとため息を吐く大河。
「天気予報じゃあ雨なんて行ってなかったのにな…これじゃあ今日は部屋干しだ、乾き悪いから嫌なんだよな…」
「そんなのどうでもいいのよ、私ん家は乾燥までやってくれるから部屋干しでも気にしない。」
「くっ…さらっと嫌味を言いやがって、そうですよ俺ん家の洗濯機は古いですよ、それに外に干したって乾きは悪いですよ。」
口を尖らせて文句を言う。華麗にスルーをかまし、またため息を吐く。
「はぁ…またびしょびしょになっちゃうよ。」
「折畳みは、ねぇのかよ?」
「ない。」
「はっきり言ったな…しょうがねぇ、俺の傘に入れ。」
「えっ…いいの?」
「いいもなにも、しょうがねぇだろお前傘ないんだし…」
「うん…ありがとう。」
「お、おう。じゃあ帰ろうぜ。」
外に出ると降り方が強くなっていた。竜児はカバンの中から黒い折り畳み傘をバサッと広げた。

「よし…いくぞ。帰ったらすぐ風呂入らないとな。」
竜児は歩きだすが大河はその場に立ち尽くす。
「なにやってんだよ、行くぞ。」
「うん。」

バシャっと歩くたびに雨水が靴の中に入ってくる。さすがにグチュグチュして気持ち悪い。
小さい傘に二人は狭すぎる。だけど頭が濡れるよりはましだろう。くっつくかくっつかないかの瀬戸際で二人は同じテンポで歩いていく。

「おい、大河…肩濡れるからもうちょっとこっちに来いよ。」
「ん…。」
ピタッと腕と腕がぶつかり合う。密着した事で大河は赤く…そして微笑んだ。
「ありがと…竜児。」
「気にすんな、それに風邪引いたら大変だからな。」
ふと大河は竜児を見上げる。すると竜児の左側はすっかり濡れてしまっている。
「竜児、濡れてるよっ」
「大丈夫…俺はいいんだ。大河が風邪を引かないんならそれでいいさ。」
「……っ……バカ……」
「もうすぐ着くから大丈夫だって。気にすんな。」
「……優し…すぎるのよ…」
ガバっと竜児に抱きつく。微かに体は震えている。
「お、おい大河…歩きにくいって…」
「こうしたら…少しでも濡れずに済むでしょ…」
「大河…なら…」
竜児は自分の右腕で大河の肩を抱く。
「わっ……」
「これなら…もう濡れない。」
「………うん。」

寄り添う二人。傘の下。雨はまだ降り続ける。

「こうできるなら……雨も…いいかな…。」
「…だな。」
「竜児…大好き。」



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