大河「あんたなんか大っ嫌い!!!!!」
竜児「俺だって嫌いだ!!!!! 嫁に来いなんて言った俺がどうかしてた!!!!」
大河「もう二度とあんたの顔なんか見たくない!!!」
竜児「なら出ていけ!! ここは俺の部屋だ!!!」

     *  *  *  *  *  *

大河「あれから三日……あの夜から竜児はずっと学校休んでるし、電話もメールも反応しないし……はぁ」
実乃梨「ねぇ大河、高須君…どうしたの? 大河もずっと考え込んでるし…何かあったの?」
大河「…別に…。なんでもない!」
北村「なんだ逢坂、ケンカでもしたのか?」
亜美「どうせ高須君に何かわがままでも言ったんでしょ? それで逆ギレしたとか、ね」
大河「…………」
亜美「あ〜ら図星なんだ? しょうがないねぇアンタは」
実乃梨「それにしたって、ケンカしたくらいで三日も学校休むかな……高須君…」
北村「よし! 明日になっても来なかったら、みんなで高須の家へ行ってみるか!」
亜美「そうだね。ちょっと様子見に行くだけならいいよ」
実乃梨「大河、大河も…一緒に行くんだよ」
大河「あたし……あたしは……行きたくない」
実乃梨「大河…!」
大河「とにかく行かない! 絶対に」
実乃梨・北村・亜美「……」




―――それから二日後、朝


大河「昨日、みんな竜児に会いに行ったのかな。今日も竜児学校に来てないけど……」
実乃梨「おっはよー大河」
大河「あ、おはようみのりん。ねえみのりん、あのさ……その」
実乃梨「ん?どうしたの大河」
大河「あの……昨日、竜児に会ったんでしょ。……何か…言ってた?」
実乃梨「いやぁー!今日は寒いねぇー!風邪ひいちゃいそうだよー!寒いからちょっと廊下をひとっ走りしてくるかなぁ!」
大河「!? みのりん!?…………どうしたんだろ、みのりん」
北村「おはよう、逢坂」
大河「あ、おはよ、北村君、、、、ねぇ北村君、昨日、竜児の家に――」
北村「………逢坂、それは…俺の口からは……とても言えないんだ…すまない」
大河「え?」
北村「…ほんとうに、すまん」
大河「(何?一体どうしたの?みんな)」
亜美「………」
大河「…!ば、ばかちー!ねぇばかちー、昨日は竜児の家に行ったんでしょ? 竜児が何か言ってたの? 何て言ったの?」
亜美「………アンタ、まだ知らないんだ……そうだよね…知ってたらそんな事言わないか」
大河「な、何が!?」
亜美「アンタ、隣に住んでて気づかなかったんだ……」
大河「え?」
亜美「ううん。しょうがないか。大ゲンカ中だったしね…ごめん。気にしないで」
大河「な…何? みんなどうしたの? 竜児は何て言ってたの?」




ゆり「みんな、おはよう」
北村「起立!……礼!……着席!」

ゆり「今日は、みんなに…悲しいお知らせがあるの。その…ちょっとショッキングな事だから、落ちついて聞いて下さい」
北村「……」
実乃梨「……」
亜美「……」
大河「?」

 (ざわざわ……ざわ…)

ゆり「実は、五日前から高須君の行方がわからなくなっていました。家出の可能性があったので、家族の方はすぐに警察に捜索願いの届出をしたそうです」
大河「!?」
春田「えぇ!? ウソでしょ先生! たかっちゃんが家出なんてありえねーでしょ」
ゆり「落ち着いて春田君。これは事実です。ご家族の方は懸命に高須君の行方を捜したそうです。そして、失踪から二日経って、高須君は発見されました」
大河「(え? 家出? 竜児が……何で? まさか……ケンカが原因!?)」

ゆり「失踪から二日後に、高須君は×××河の下流にある崖下で―――――遺体で発見されました。……みんな、高須君の冥福を……願って…あげて下さい」
大河「え」



     *  *  *  *  *  *

大河「…………」
泰子「…………」
大河「竜児…」
泰子「…………」
大河「…………」
泰子「大河ちゃん……ごめんね、お葬式に呼べなくて。何も考えられなくて……アパートの管理人さんには、尋ねに来る人に伝言を伝えてってお願いしておいたんだけど……」
大河「……ううん、気にしないで……」
泰子「なんだか――――これが夢、みたいなの。ふっと、竜ちゃんがドアを開けてさぁ、ただいまーって、今にも帰って来るような気がするの……」
大河「………」
泰子「竜ちゃん………あんなに大きく育ってたくましい男の子なのに……こんな…ちっちゃい箱の中に入ってるんだね………」
大河「りゅうじ……」
泰子「…………」
大河「りゅうじ……!」
泰子「…は、あ……う…う…う…ううううううう……」
大河「りゅうじぃぃぃぃぃ」


     *  *  *  *  *  *

実乃梨「こんにちはー。ねぇ大河ぁー、いるー?」
亜美「タイガー、いるんでしょ? 入るよー?」

亜美「タイガー……? いるの? ねぇ、あ」
実乃梨「たっ…! 大河! ねえ大丈夫? どうしたの?」
大河「――――――」
亜美「アンタ……ほんとさ、大丈夫なの? 髪はボサボサだし服もめちゃくちゃ……顔色真っ青だよ…? ちゃんとご飯食べてんの?」
実乃梨「あ…これって…」
亜美「……部屋じゅうが……洗面所はガラスが割れてるし……こっちも……何でこんなに荒れてるの?」
実乃梨「…木刀…折れちゃってるね、大河……」

実乃梨「大河が……やったんだね…」
亜美「………見てらんない」
大河「―――」
実乃梨「た――いが……。そう、だよね。………当然、だよ…ね」
亜美「タイガー……あ…」
実乃梨「…大河…それ…握り締めてるのって……高須君の、マフラー……」
大河「……じ……がね…」
亜美「え?」
実乃梨「なに? 大河。何か欲しいものでもあるの?」
大河「……りゅうじがね……朝ごはん作りに来てくれるの……だから……待ってるの……」
亜美「…っ!」
実乃梨「た、た、たいが…大河、高須君は……高須君は……来ないよ―――来ないの、たいが――」
大河「―――」
亜美「実乃梨ちゃん」
実乃梨「……………ごめん」
亜美「そうだね、タイガー。高須君、きっともうすぐ来るからさ……キレイにして待ってようよ。そのボロボロのカッコじゃ、嫌われちゃうよ」
大河「……あ……そ、、、、そっか…。そう、だよ…ね。あはは…あたし、みっともない格好だわ……着替えなきゃ」


     *  *  *  *  *  *

大河「ほら、ばかちー。この服ね、竜児が一度だけ可愛いって褒めた服なのよ。ふふっ」
亜美「……うん、よかったね…」
実乃梨「……」
大河「髪もとかさなきゃ。どうせあのバカ犬の事だから、何不潔にしてるんだーって大騒ぎするに決まってるしね」
亜美「……うん…」
実乃梨「……」
大河「それにしても竜児、何ちんたらしてんだか。主人をこんなに待たせるなんて、使えない犬もいいとこ」
亜美「……うん…」
実乃梨「―――こない、よ」
大河「へ?」
実乃梨「大河―――来ないの。高須君は、もう、二度と、来ないの! 高須君は、高須君は―――っ!」
大河「さわるなああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
亜美「!?」
実乃梨「大河!?」
大河「マフラーにさわるな!!!」
実乃梨「た、たいがっ……お、落ち着いて…!」
亜美「ちょっと急にどうしたの!? タイガーしっかりしなよ!!」
大河「これは、竜児は、あたしんだあああああああ 竜児の匂いが、消えるから、触るなああああ!!!!」
実乃梨・亜美「…………」





ゆり「そういう事だから。しばらく逢坂さんは休学を取られるそうです」
北村「そうですか」
ゆり「残念ね……」


     *  *  *  *  *  *

亜美「ねえ実乃梨ちゃん。今日はあたしが様子見に行くよ。バイト、忙しいんでしょ」
実乃梨「うん……ごめん。あーみん」
亜美「仕方ないよ。ほうっておく訳にもいかないしね」
実乃梨「……」
亜美「あれからもう、半年か…」


     *  *  *  *  *  *

亜美「来たよタイガー。今日はあたしがご飯作ってあげるから」
大河「あ………ばかちー……竜児は?」
亜美「……高須君は、今日は、来れないってさ……」
大河「そっか……まだ怒ってるのかな……」
亜美「……高須君は、きっと―――許してくれてると―――思うよ……」
大河「……」
亜美「……掃除、しておくね」



     *  *  *  *  *  *

 どうして、こうなってしまったんだろう。
 こんな未来を望んだわけじゃなかったのに。あんなに、幸せだったのに。
 どこで間違えたんだろう。

大河「う……う………ううぅ…」
亜美「タイガー、泣いて……るの?」
大河「りゅう…じ……りゅうじ……りゅう…」
亜美「………? あれ……これって…」
大河「ぐすっ…」
亜美「これって…手紙?……窓に挟まってる……」
大河「…え?」


     *  *  *  *  *  *

 大河、昨日の夜は怒鳴って悪かった
 お前に内緒でずっとバイトのかけもちしてて、最近疲れてイライラしてたせいだ
 ごめんな
 お前の事、嫁に来いって言ったくせに、追い出すような事言っちまって反省してる
 あの橋、覚えてるだろ。今からあの橋に行って、あの橋から、お前の好きな星空を撮ってくる
 
 その星空と一緒に、お前に渡すもんがある
 受け取ってくれよな
 大好きだぞ、大河
                                          ――竜児――


     *  *  *  *  *  *

大河「こ………これ………これって………う、嘘」


     *  *  *  *  *  *

泰子「…あ……」
大河「……久しぶり、やっちゃん」
泰子「…うん。わざわざこっちまで、会いに来てくれたんだ……」
大河「……あのアパートには……もう戻らないの?」
泰子「……」
大河「…あのね、やっちゃん。実はね……これ……竜児が、あたしにくれた手紙……見つかったの」
泰子「…て、がみ?」
大河「……これ……」
泰子「これって……」
大河「だからね、あの日、竜児が―――竜児が―――河にいたのは―――」
泰子「……ううん。大河ちゃんのせいじゃ、ない」
大河「え」
泰子「……そっか…竜ちゃん、大河ちゃんのために、一生懸命だったんだね……」
大河「………りゅうじ……うっ…う…」
泰子「竜ちゃん……何を渡そうとしてたんだろうね……。竜ちゃんの遺品、見てみよっか?」
大河「……うん」



     *  *  *  *  *  *

泰子「竜ちゃんが使ってた部屋のものは、全部そのまま。大切に、持ってきてあるの……好きに見ていいからね」
大河「ありがと、やっちゃん」

大河「………あ……竜児の、においだ……泣き、そう………はあっ…うっ……う………あれ…? これって……」
 (ガサガサ)
大河「プレゼント用の箱? しかも有名なブランドの……すごく高そう……ラッピングまでしてある…………………………………これは…ゆ…指輪…」
 (ポトッ)
大河「あれ? 何か落ち………これ、プレゼントカード…だよ、ね…」

 「大事な大河へ。これが俺の気持ちだ。竜児より」

大河「こ、こ、このゆび、指輪―――あたしに―――くれるつもりだったんだ。かけもちしてたバイトって、このため……あはは……あはははははははははははははは」

      その星空と一緒に、お前に渡すもんがある
      受け取ってくれよな
      大好きだぞ、大河

 大河「――――――――――!!!」

 いやあああああああああああああああああああ


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