そぅっと唇を合わせる。
焼きたてのクッキーを啄ばむように甘く、
ふわふわ揺れるカーテンみたいに柔らかく、
有終の美を飾る桜の花のごとく刹那。

ゆっくりと顔を離すと、揺れる瞳が、ある。
何カラットのダイヤより、よほど魅力的だ。自分はその綺麗さに、ただただ何度目か分からない感嘆の息を吐くしかできない。

「何よ」

頬をかすかに染めつつ、大河はぎりぎり届くくらいの小さな声で呟いた。
「……ああ、なんだ…その…綺麗だなと思って」
「何が?」
分かってるのだか、そうでないのか。
「………大河が」
「………そう」
ぽしょぽしょと、言う。そんな彼女の様子に、やっぱりこの愛しい気持ちを抑えることなどできはしない。
ポケットから大事な、これから大事になるであろうものを取り出す。
「ほら」
「ん? ちょ、これ……」
「いいから開けてくれ」
大河は、それをゆっくりと開けた。

「きれい……」

竜が虎と想いを交わした季節から一年。
これからもそうしていく誓いを形にすべく、竜児はバイトで貯蓄した財産で、コレを買った。
「あのさ……それ、婚約指輪のつもりだから…その……」
「……ね、竜児。ちゃんと結婚指輪も用意してくれなきゃ嫌だからね?」
「……おう」

虎は地を駆け、竜は天を翔る。2人が式を挙げる3か月前のことでした。





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