その日は、桜の咲く晴れた日だった。
「大河?」
「………」
「おい大河ったら」
「…何?」
その視線には冷たいものしか含まれてなかった。何か彼女の気に触るようなことでもしただろうか。
「なに怒ってんだよ。俺が何かしたか?」
竜児のその言葉を鬱陶しそうに受け取ると、大河はさらに突き放す。
「ふん……あんたと一緒にいてもつまんないだけよ」
「はあ? なんだよそれは」
今までした喧嘩は数知れずだけど、こんな風に言われたのは初めてだった。大河の少々気の強い発言には慣れている。
でもそんな竜児だからこそ、逆にこの突き放した、冷めた言い方はおかしいと思った。

「まだ分からないの? ホントに駄犬ね。私はアンタといるのが疲れたって言ってるの」
「え……」
「わかったら私に話しかけるのもやめてよね。迷惑だし」

――――ぎくり、とした。大河の視線の意味に気付く。
もしかしたら自分は大河に見捨てられるんじゃ、なんてことは今まで考えたこともなかった。
「ま、待ってくれ。俺に悪いとこがあるなら直すから…」
「から?」
「だから見捨てないでくれ! 俺、お前がいないと……」

ぷ。
意外にも大河の口から漏れたのは、笑い声の一端だった。

「だから……大河?」
「ぷ、くく、ふくくくっ。へへへへ、み、見捨てないでって……。ひひ、ひー、おかしい。どんだけ……ぷくく」
「あの、大河さん?」
「あはははははは! う、ウソよ、ウソ。なのにアンタってば……ぷぷぷ」

呆然とすること、3秒。
ついでに竜児が今日は4月1日だと認識するには、さらに5秒が必要だった。

「て、てめえ!」
「あはははは!やーい、ひっかかった!『み、見捨てないで…』だって」
「ううううるせえ! だってお前なあ!」

真っ赤になって慌てる竜児が可愛くて。大河はそぅっと竜児の耳に顔を近づけ、囁く。
嘘偽りない本音を。


「大好きだよ竜児。ずっと一緒にいようね」





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