夕食を終えた高須家

「うーん、食べた食べた。竜児、デザート出して」
「…大河、おまえ食うだけか」
「何よ今更。いいからデザート」
「家事を手伝わない奴にデザートは無い」
「やだ」
「やだじゃねえ!働かざる者食うべからずだ!」
「はあ?この私にそんなこと言ったところで―」
その時だった。白い閃光がさし、バリバリッ!ゴロゴロ!という轟音が鳴り響いた。
「きゃーっ!」
「うおっ!」
片方は雷に驚き悲鳴を上げ、もう片方は胸のあたりに強い衝撃を感じて呻いた。
そして気がつくと、二人は台所で倒れていた。というよりは、大河が竜児を押し倒した格好だ。
「いってててて…おい大河、お前何して―」
驚いた。大河が目を真っ赤にして泣いている。そしてその手は竜児の背中にまわっていて、しがみついている風にも見える。
「…大河、ひょっとして雷怖いのか?」
「違うもん。ちょっと驚いただけだもん」
…そんなことを半べそかきながら言われても、まったく説得力が無いわけだが。まあ、それを言える相手ではないのはよく分かっているから言わない。
「…竜児」
「なんだ?」
「雷おさまるまで、このままでいて」
「いや、今食器片付けてる途中だし…」
「ねえ、お願い」
甘い声とともに視線が刺さる。涙が潤んだ大河の瞳は美しかった。それにこの至近距離だからか、髪の匂いと吐息が混ざって竜児の鼻をくすぐる。
だめだ。いつものように完全に負けた。
「〜〜〜っ、わかった。おさまるまでだからな」
そして、大河がそうしているように、竜児も大河の背中に手をまわす。体に感じていた温もりがさらに増した気がした。
雷を怖がる虎…。『手乗りタイガー』というネーミングがなんとなく似合っていてどこか可笑しかった。

雷雲が去って雨音が強くなる頃。
「えへ〜っ」
寝言のような声の先には、気づかぬうちに眠りに落ちた大河。
半べそ顔はいつの間にかふにゃふにゃした笑顔になっていた。
その幸せそうな寝顔を見て、この状態からどうやってこの眠り姫を布団に運ぶかを考える竜児だった。




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