「どどど、どう?」
我らがチビ虎こと、大河が恥じ入るように視線を投げる。
自分の膝に乗っかる竜児の頭が、くすぐったい。体にも、心にも。
午後の柔らかな日差しの中、穏やかに、かつてないほど穏やかに流れる時間は極上のシロップのように素敵で、なめらかで、香ばしいものだった。
「おう」
「おう、じゃわからない」
膝枕、という言葉自体が、こそばゆい。むずむずする。
提案したのはどちらだったか、竜児の頭は、大河の慎ましい膝の上に収まっていた。
「き、気持ちいい、ぞ」
「そそそそう。な、ならこうしてやるのも、ややヤブサカではないわ!」
今の2人の顔は桃色から、既にトマトのような赤に変化しつつある。
傍から見た者はきっと目から砂糖を発射できるような、そんな恋人オーラを振りまくなんとも迷惑な竜虎だ。
そう、膝まくら。恋人たちの特権、なんとも甘美な響きではないか。
「なあ、大河」
「……なに?」
「その、大河はどうだ?」
私? と首を傾げる大河。
一瞬竜児が何を言ってるのか分からなかったけど、その意味に気付くと、今度は火山のような赤に変化する。
「………き、気持ちいいわよ」
「そ、そうか。重くないか?」
「ふ、ふん、バカ犬の頭の一つや二つ、どうってことないわ!」
会話をしてるだけでお互いの体温を上げることが可能なバカップルが、ここにいた。
一種の永久機関である。もう、この熱が地球温暖化の原因ではないかと疑うほどに。
「…………」
「…………」
沈黙が流れる。でもその沈黙が、また心地良かったりして。

……――――――この世界の誰一人、見たことがないものがある。
―――――それは優しくて、とても甘い。

「………………」
「………………」
続く沈黙。
窓の隙間から風が流れる。
かつて大河が羨望して羨望して已まない時間が、ここにあった。それは優しくて、とても甘い。
「竜児?」
「……………」
「? 竜児?」
「……………」
「……寝ちゃったの?」
かすかに聞こえる寝息を、とても愛おしく思えた。愛する男の前髪を、優しく撫でる。大切に、壊れないように。
「人の膝で寝るなんていい度胸だわ。まったく。………もう、風邪ひいちゃうよ」
といっても、大河は動くことができないけど。
こんなに安心しきったような寝顔の竜児を起こすなんて、大河には天地が逆さになってもできそうにない。
「―――遺憾だわ」
全然遺憾そうでもない。大河の顔には、自然と笑みが零れる。
ただ願う。これからも、こんな日々がどうか続きますように、と。夢じゃなく、本当が欲しい、と。

ふわり。大河の髪が揺れる。

そっとそっと、竜児を起こさぬように。


大河はキスをした。




作品一覧ページに戻る   TOPにもどる
inserted by FC2 system