手紙  (アニメ版アフター)

拝啓 高須竜児様

久しぶり 元気にしてる?
私は転校して三年生になったよ。
新しい学校でも相変わらずドジやってるけど、元気にやっているわ。
そっちはどう?
やっちゃんやブサ子は元気?
今日はどうしても伝えたい事があったので手紙を書きました。
心して読んでね?

この間。お腹が減って近所のファミレスに入ったの。
ちょうど夕食時の混んでた時間、相席になるけどいいかって聞かれてお腹も減ってたからそのまま店員の勧められる席に座ったの。
不思議だよね。普段のあたしなら知らない人と相席で食事なんて絶対しないのに。

そのテーブルには、女の人がいたの。
年は独神と同じくらいかしら。
たらこスパゲティを食べながら必死にノートパソコンのキーボードを叩いて、時たま動きを止めると追加でチキンやポテトを頼んでいる。
とても不思議な女の人だったわ。
その人はあたしに気づくとパソコンの手を止めて、まるで昔からの知り合いみたいに『やあ』って挨拶してきたの。





「……どこかであったことありましたっけか?」
「大河でしょ? あたしだよ。ゆゆぽだよ」

私はどうしても目の前のゆゆぽって人を思い出せなかった。
というか、会った事が多分なかった。
だって。その人はとても特徴的だった。
どこがどう、とはいえないんだけどすごく印象に残る顔立ちをしていたの。
私の両親の知り合いだ。と彼女は言って自分の分だったポテトフライをくれた。

ゆゆぽはいろんな話をしてくれたわ。
たらこスパのこと。たらこスパのこと。たらこの美味しい食べ方。
途中、私の頼んだメニューと彼女の頼んだたらこスパ(2杯目)が来て話が中断したけどその人との会話はとても楽しかった。
食事をしながらまた、彼女は色んな話をしてくれた。

自分が小説を書いていること。
多くの人がその小説を読んでくれたこと。
やがて食事が終わって彼女はパソコンをカバンにしまい、帰る支度を始めた。
そしてさいごにゆゆぽはこういったの。

「大河と竜児が幸せになってよかった。私はアニメの貴方達には関われなかったけどきちんと幸せになってくれたなら言うことはないから」

へ? と口をあけたわ。
アニメってなによ、とか何でアンタが竜児のことを知っているのよと私が言おうとした瞬間。

脳裏にある風景が思い出されたの。
それは私と竜児がブラウン管の中で笑っている光景。
私たちの思い出の場所。大切なものがギュッとそのテレビに詰まっている。
初めての出会い。
皆で行った海。
クリスマス。
橋の下での告白。
やっちゃん家でのキス。

――気がつくと、私はファミレスのテーブルにつっぷして寝てた。
当然テーブルには私一人。

そしてね。あの人の代わりにテーブルには一冊の文庫本が置いてあったの。
その本には……。
やっぱり書いてあげない。
アンタがあたしのことをしっかり抱きしめてくれたらその腕の中で話してあげる。
……って。私はなんて恥ずかしいことを書いてるのかしら。

ああもう。恥ずかしい。本当に恥ずかしいからこの手紙は出さない。
文庫本も、ゆゆぽのことも、あんたと会うまで秘密。
だから……出さない手紙だから正直に言うね?

竜児。私は貴方の事が好きです。

                                        逢坂 大河






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