ずっと変わらないものがある。
なにもかもが風化してしまうこの世界において確かに。
それは・・・。


『いつまでも傍に居て』


「・・・なにニヤニヤしてんの竜児?」
「え?」
授業で使う教材を取りに行く途中。
大河が横を歩く背の高い男を見上げた。
「顔。締まりないよ?」
少し辛辣に聞こえる物言いは、相手に対して気の置けないことの証。
「締まりないか?」
愛も変わらずニコニコと笑顔を張り付かせたまま、竜児は大河の顔を見返した。
「ならそれはお前の所為だな、大河」
重ねた年月と共に、変わっていったお互いの距離。
「私の?」
「ああ」
しかし、ニコリと微笑んだ顔は、以前と変わらず屈託ない笑顔。
「お前が傍にいるからだ」
「・・・なんでそれが私の所為なのさ?」
竜児が言ったんでしょ?仕事手伝うって。
少し頬を赤らめて、大河がふてくされたように言った。
そしてそのまま前を向くと歩く速度を上げる。
そこに、多分に照れ隠しを含ませて。
その様子を竜児は、それはもう幸せそうな顔でみつめていた。
「大体そんな言い方心外。まるで・・・」
「逢坂」
ふとかけられた声に、大河の足が止まった。
今ではもう久しいかつての呼び名。
少し驚いたように振り返ったその目の前に、竜児の顔があった。
「今だけの話じゃないぞ」
至近距離の顔がゆっくりと囁いた。
「今までもこれからもずっとお前が傍にいること」
スッと重ねられる唇。
その自然な所作は、この数年、共に歩んできたことのしるし。
ほんの少しの逢瀬。
すぐに離れた唇は、体全体を包む抱擁へとバトンを渡す。
「それが俺を笑顔にするんだ」
「〜〜〜ばか・・・」

コツンと竜児の胸板に額を当てながら、大河が消え入りそうな声で呟いた。
「これからも・・・一緒だかんね?離してなんかあげないから・・・竜児」
「わかってるよ、大河」
満面の笑みを浮かべたまま、竜児は手の内にある、自らの幸せを優しく優しく抱きしめた。





作品一覧ページに戻る   TOPにもどる
inserted by FC2 system