「桜の季節だなあ」
スーパー主婦、竜児がいきなりオッサンくさいことを言い出したので、傍らで複雑そうな表情をする大河。
「いきなり何言ってんの、このバカ犬。ついに壊れたか」
「バカじゃねえし、犬でもねえ。……ったく。この季節だよなあって思ってさ。俺とお前が出会ったの」
「ああ…そう言われれば、そう……ね…」
あの日を回想する。
出会い際に入ったパンチ。間違えたラブレター。そして、チャーハンとかも。
「いろんなことがあったよね…」
障子の桜の花びらを見た。今では、もう4枚に増えている。
ひらひらと桜の花びらがまた一枚。大河はそれをそうっと手のひらで受け止めた。
桜の色と薄紅色の大河の指先が、巧妙にその美しさを引き出しあっていた。
「ああ、夏には川嶋の別荘とか行ったりしてな」
「秋には、ほら、文化祭。それと北村くんの会長選挙とかも」
「んで、冬には修学旅行か。大河が遭難してさ。大変だったな……」
大河をふと見る。
優しい目をしていた。
「そんで……そんでバレンタインが来て……」
「…おう、バイトが見つかってな。それで……」
2人は、顔をかすかに赤らめた。
手を繋ぐ。
世界は思ったよりも優しかった。それで、甘かった。

「大河、好きだ」
「うん。私も」

竜児は大河の唇を見つめながら、顔を近づけざるを得ない、と思った。

……また季節は巡る。
優しくて甘い、桜の季節が。





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