「ねぇ竜児、寒いんだけど」
「俺だって寒いよ」
今朝のニュースでは今日が今年一番の冷え込みと言っていたが、どうやら本当のようだ。
時折吹き付ける木枯らしが、家路を辿る二人から体温を奪っていく。
「こうも寒いと家から外に出たくなくなるわね」
「そうだな、早く帰ってコタツに入らねば」
いかにも”冬”の会話をしつつ歩く二人の前で信号が赤になった。
歩みを止めてひたすら寒さに耐えていると、竜児は、一組のカップルが向かいで同じように信号を待っているのに気付いた。
向かいの二人は、女が男のポケットに手を入れ、その中で手をつないでいる。
信号が青になって、すれ違う。
無言で信号を渡る二人。そうして数分歩いたところで、
「竜児」
「なんだよ」
大河が低い調子で竜児に声をかけた。
「手」
「は?」
大河の言葉の意味がわからない竜児は、いつもの鈍犬具合を遺憾なく発揮。
「そのポケットから手ぇ出せっつってんのよ!」
ああ、そういうことか、と竜児はポケットから手を出して、大河の手を取った。
「ひゃ」
そういうことではあるのだが、急に手を取られて大河は驚きの声を漏らす。
続けて、竜児は先程の二人を思い出し、大河の手を制服のズボンのポケットに押し込む。
意外とこの手のズボンのポケットは中が広いのだ。
「あ、あんた、そこまでしろって…」
朱色に染まった顔を俯けて、大河は声を絞る。
「ん、いやか?」
竜児は竜児で、素直に聞き返す。
「いや…じゃ、ない」
「じゃあこのまま」

竜児は右手に、大河は左手に互いのぬくもりを感じながら、ようやく帰宅。
「ただいま」
扉をあけて、大河と共に中に入る。
「…」
「どうした大河」
手をつないでから帰宅途中ずっと俯いたままで、一言も話さなかった大河が、ここでも無言である。
「扉、早くしめてよ」
「ん、ああ」
ようやく口を開いたかと思えば、そんなに寒いのか、と考えつつも竜児は扉を閉めた。
鍵をかけて大河へ振り返ると、
「ん」
大河が竜児に向けて、両手を広げていた。
鈍犬の竜児でも、この仕草が何を意味するかぐらいはわかる。扉を閉めさせたのは、そういうことか。
「寒いんだから早くしなさいよ」
へいへい、と零しつつ竜児も両手を広げて、その腕でぎゅっと大河を包み込んだ。
「わがままなお嬢さんだ」
「ぇへへ、あったかい」
背に手をまわし、緩んだ頬を胸に押し付けてくる大河をみて、破顔一笑。

竜児は腕の中に大河のぬくもりを感じつつ、これなら今年一番の冷え込みも何とか乗り切れそうだな、と思うのだった。




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