キスシーンの妄想after

「ねぇ・・・寒いし、もう一度」

「・・・もう一度」





「竜児・・・もう寝ちゃった?」
すぐ隣に敷かれた布団で、背を向けて毛布に包まっている最愛の人に話しかける。
「お、起きてるよ。どうかしたか?」
声が震えている。緊張してるのだろうか。私だって声色が変わるくらい緊張しているのだ。
そうだったらいいな・・・と小さく笑みをこぼす。
「・・・寒いから・・・そっちの布団行ってもいい?」
「おう!?」
竜児は驚いた顔をして大河のほうへ振り向いた。
「おう!ってことはいいんだね」
自分の寝ていた布団から起き上がり、隣の布団に移ろうと
「いや、ちょっとまて大河!こういうのは・・・その」
制止の声がかかる。
「あぁーもう、ピーナッツの小さい野郎だよあんたは!うだうだ言うんじゃない!!」
軽い罵倒(竜児にとっては核に匹敵)で制止を振り切り、もぞもぞと竜児の寝ている布団にもぐり込む。
「あったか〜、生き返るわ」
ひとつの布団で背中合わせにくっつき暖をとる。
「ったく、親父くさいぞ。でも・・・本当にあったかいな」
「ねぇ・・・竜児」
重ね合わせていた背中を離し、竜児の方を見る。
「なんだ?」と竜児もまた大河の方を見る。
目と目、まさに吐息すらかかる距離に内心ドキリとしながらも、大河は言葉を紡ぐ。
「あのさ、竜児。本当に幸せになれるのかな?」
竜児の目を見ながら話すのが辛くなり、また背を向け言葉を続ける。
「も、もちろん今でも十分すぎるくらい幸せよ!ただ・・・みんなに本当のみんなに祝ってもらえるような幸せに・・・」
不意に後ろから腕が回され抱きしめられた。竜児の手。本当に優しすぎる抱擁。
「なぁ大河。俺思ったんだ。逃げてるだけじゃ大人にはなれないって。それと同じで、待ってるだけじゃ幸せにはなれないと思う」
優しく、添える程度だった腕に力強さが宿る。
「だから俺は決めた。この手にある幸せを絶対離さない。守るためにはどんな理不尽にも立ち向かうって!」
ジワッっと目頭が熱くなる。泪が溢れて来る。でもそれを隠そうと
「ププッ!あんたってホントそういうこと恥ずかしげも無く言うわよねー」
笑ってしまった。本当は嬉しくて・・・嬉しくて仕方が無いのに。
「笑うなよな!こっちは真剣なのに・・・。もういい寝る」
そう言い、抱き締めた腕をほどこうとした所を大河はあわてて止める。
「待って!今日はこのまま寝て・・・。私が寝るまででもいいから。・・・お願い・・・」
「・・・おう」


待ってるだけじゃ幸せになれない。その通りだと思う。
竜児は竜児のやり方を見せてくれた。だから次は私の番だ。
ねぇ竜児・・・。怒らないでね・・・。笑わないでね・・・。
私も・・・決めたから!








そしてしばしの静寂。
「あったかい…」
大河は愛する人を見上げ、安心したかのように目を閉じる。
「ねえ竜児……ありがとうね。アンタは私が欲しかったものぜんぶくれたね。」
「………」
「竜児……起きてる?」思わず自分の言葉に赤くなりながら、再び問いかける。
おう、起きてるぞ。そう言いたかったが、竜児は動けなかった。
ここで大河の顔を直視したら、胸の高鳴りがどうかなってしまいそうだった。
いい匂いがする。愛する人がここにいる。あんなに傍若無人だったのに、我侭だったのに、なんでこんなに愛しいんだろう。

きゅっ。

大河を包むその手に力が入り、しっかりと抱きしめる。
「りゅ…ぅじ……起きてるじゃない………」
大河は背を向けて真っ赤になりながら、その大きな両手に身を任せる。
「大河……大河………絶対離さない…」
「うん………大好きだよ竜児………」
鼓動が高鳴る。心臓の音も聞こえてしまいそうな距離。
「大河、顔見せてくれ……」
コロンと転がって仰向けになる大河。
そして、二人の顔がどちらからともなく近づき、唇が重なる。

「んっ…」ちゅっ…
「んあっ…んふ……」くちゅっ……
「大河、好きだよ…」
「んっ、わらひも…んんっ…」んちゅっ…
キスをしながら竜児はそっと大河の顔を撫でる。
もう離さない。離れたくない。
互いの舌が絡み合い、暗い寝室に湿った音が響く。

長い長いキスのあと、離れる二人の顔。
所在なさげな大河の両手を、竜児がやさしく掴む。
「大河の…味がする…。」
「………ばか。」恥ずかしげに俯く大河。
月明かり差し込む寝室で、その顔に涙の跡がキラリと光った。


「ねえ竜児………。」





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