「あ・・・のよ?」
とりあえずオズオズと声を出してみる。
「なによ?明日も学校なんだから、さっさと寝なさいよ」
「お・・・おう・・・」
用件さえ言わせてくれないのか・・・。
仕方がないと、目を瞑る。
しかし・・・これは・・・。
「・・・大河、やっぱさ・・・」
「うるさい」
「・・・」
一蹴されてまた黙り込む。
だがこれは・・・やっぱり無理だ。
そこまで考えて、意を決して起き上がろうとした。瞬間。
「起きたら殺す」
耳に響く抹殺宣言。
しかも本気の。
恐る恐る、定位置となった場所へと戻る。
大河が、不機嫌そうなのは気のせいじゃない。
もう一歩・・・いや半歩、怒らせたなら、明らかに手乗りタイガーへと変貌を遂げるだろう。
しかし。それでもこれだけは・・・。
「・・・た、大河?」
「なによ?」
お願いだ。せめて・・・。
「せ、せめて・・・お前の胸が当たらないように抱きかかえてくれないか?」
がっちりと抱きかかえられ、小さな胸に埋められた顔をなんとか上げながら俺は、それだけは聞いてくれと訴えかけた。


『趣味』


「やだ」
にべもない、取りつく島もない返事。
む、無下に断るにも、もう少し言い方があるだろう。
言い縋るように唱えてみる。
「い、いやだって、これじゃ俺眠れねーよ」
息苦しくて。
ホントの理由は他にあるのだが、それは余りに情けないので隠しておく。
「あたしは眠れる」
お前は暴君か?
あ、今更か。
「いやお前はいいかもだけどよ、せめて普通に腕に抱きつくとかなら・・・」
言っていて思う。それでもかなり厳しいものがある・・・と。
「あたしはこれがいいの」
しかしそんな俺の葛藤など知らず、こいつはこんな事を言う。
チクショウ。
男の純情、簡単に踏み躙りやがって。
しかし本当に困ったことになった。
なぜあの時あんな事を言ってしまったのか?
『なあ・・・。俺も今日・・・一緒に寝ていいか?』
今となっては後悔にしかならない。
いや、後で悔いるから後悔なのか?って、どうでもいい。
あれから、結局ダンボール2個を大河の部屋まで運ばされた。





「ああ。そこに置いてくれたらいいわ」
そういわれて、ベッド脇へと箱を下ろす。
結構重かったので、少し息が乱れ気味だ。
「あち・・・」
額に浮かんだ汗を拭う。
やはり運動不足は否めない。
「なに?この程度で疲れてんの?」
相変わらず軟弱な犬コロねえ?
呆れたような物言いに、カチンときたが、ここで怒ろうものなら大河の思う壺だ。
「あーはいはい、軟弱で悪かったな。んじゃ、犬っころは自分の小屋へ帰るからな」
後ろ手に振りながら、そそくさとその場を後にしようとした。
これ以上つきあわされたら堪ったもんじゃない。
「待ちなさいよ」
ほらきた。
「なんだよ?言っとくがその中身しまえって話なら・・・って、おい!?」
振り返り、体よく断ろうと思ったその目の前、大河が段ボールを逆さにして中身をぶちまけていた。
ベッドの上に。
「・・・なに、してんだ?」
「これでよし」
天蓋付きのベッドの上、余りにも場違いな古びた衣服をまんべんなく広げて、大河は満足そうに頷いた。
そして、二の句が継げなくなってる俺にクルリと振り返りこう言った。
「さ、竜児。この上に寝なさい」
・・・は?
たっぷり5秒は間を置いてから、俺は大声を出した。
「な、なんでっ!?」
「聞きたいの?」
何気なく問い返されるが、当たり前だっ!・・・と、内心で怒鳴って、無言でコクリと頷いた。
大河は呆れたように盛大な溜め息をつくと、呆れたように目を細め、呆れたように言葉を紡いだ。
「・・・今日から、寝るときは竜児の匂いと一緒、って言ったよね、私?」
「あ、ああ・・・」
なんだろう?
なんだか嫌な予感が止まらない。
助けてくれインコちゃん。

※その頃のインコちゃん
「マ・・マ・・マー・・・・・・ケティング?」
惜しい!


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