「あ〜〜疲れちゃった」

大きく伸びをして独り言を言った大河が、体を左右にひねってほぐす。日曜日の
午後3時、一緒に宿題を片付けている最中のひとコマ。一緒にといっても、3年
になって二人は別クラスなので、見せ合ってるわけでもない。ただ、朝から雨の
予報だったし、デート替わりに竜児の家で宿題を片付けている。

たとえ宿題でも二人でやると楽しい。

そろそろ眠くなってくるころあいなので、竜児も

「一休みするか。お茶出すぞ。ヨーグルトの方がいいか?」

と、立ち上がる。

「私ヨーグルト!」

ちょっと元気になった大河が明るい声で答える。

「よしよしちょっと待てよ」

と、明治ブルガリアヨーグルトを冷蔵庫から取り出し、買い置きのイチゴと一緒
にガラスのおわんに盛ってやる竜児の後ろで、大河が気分転換のネットアクセス
を始める。

高須家にはPCはないが、大河は一緒に宿題を片付けるため、PCを持ち込んで
時々調べものをしている。近所にアクセスポイントがあって、月々500円くら
いで利用できるらしい。

「ほーら出来たぞ。今日はイチゴだ」

PCの横に竜児がガラスのおわんを置こうとしたときに、

「ひっ」

と、大河が喉の奥で音を立てた。

「どうした?」

大河が凍り付いているのを見て、竜児がスクリーンを覗き込む。

「あ、竜児見ないで!」

しかし、ときすでに遅し。

「おぅ…お前…」

画面を見た竜児もフリーズ。たっぷり30秒間ふたりとも無音状態に陥る。漸く
ぎ、ぎ、ぎ、ぎ、と油がきれた機械のように首をひねって振り返る竜児に合わせ
て、大河も頬を染めて顔を背ける。

「わ、わざとじゃないのよ。ぐぐぐ偶然なのよ。ほんとよ、信じて竜児」
「お、おう。わかるよ。よく、あるよな。偶然、見ちゃうことって」
「そそそそうなの。偶然なの」

気まずい会話を交わす二人の前のスクリーンには、ちょっとだけ下世話なニュー
ス記事があった。


『女性美容師が強盗を店の地下室に閉じこめ数日間レイプする』




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