その日は朝から雨だった
雨音が響くアパートの一室
高須竜児は雨でテンション下がりまくりな幸福の手乗りタイガーこと
逢坂大河の髪の毛を三つ編みにしている最中だった

ふんわりとした栗色ロングの彼女の髪の毛は
雨が降ると結構えらいことになってしまう
いつものようにおろしたままでいるのは正直よろしくない

「ああもう、雨なんか大っ嫌い!(プンスカ)」

ふたつの三つ編みを作った髪形の小さい女の子は
雨が蒸発する勢いでプンプンしながら足を進めていた

彼女が怒るのには理由がある
晴れた日は腕を組んで学校に着くまでの時間を愛する彼氏
すなわち竜児にべったりくっつきながら歩いていける
このときの竜児の羞恥心はもちろん大河の愛情の犠牲になる
もっとも「大河が…好きだ!」という気持ちが羞恥心を上回るのであるが

しかし雨が降っている場合、二人でそれぞれ傘をさしながら歩かざるを得ない
相合傘すればいいじゃん、と思うでしょ?
だが以前実際にやってみたところ、大きめの傘をさしていたにも関わらず
肩口や袖などどこかしら濡れてしまってロマンのかけらもありやしねえ状態

ましてや大橋高校有数の身長差カップル
傘が何十センチも頭上にあるといくら気配り上手な竜児でも
大河が濡れないようにするのは難易度がえらく高いことだった
おかげで学校に着く頃には二人が二人、水もしたたるウホッ!いい男女モードに突入だ

まあ実際は竜児の方が大河よりもはるかにしっとり濡れていたわけだがなッ!
そして大河のふわふわ頭は湿ってぼわぼわ頭へとフォームチェンジしてしまっていたのであった

こういった痛い思い出があるので
雨の日は二人仲良く黒と赤のパラソルをさしながら歩いていくのでございますが
傘の幅だけ開いてる数十センチの隙間が大河にとってはどうしようもなく遠過ぎる
手をつなごうにも雨で濡れてしまうので本末転倒
そういうわけでやり場の無い怒りに満ちあふれている手乗りタイガーなのであった




「でもさ」
ふと竜児が口を開く

「離れているぶんだけあとで出会えたとき感動は何倍にも何十倍にもなるんじゃないか」
そう言って目付きの悪い彼氏は大河の方に顔を向ける

ああなんてかわいいんだ大河
自分で編み編みしたから、というわけではないけれども
三つ編みが新鮮な彼女はまるでひとつの芸術作品
思わず顔がにやけてしまうぞ大河かわいいよ大河

そんな風にニヤニヤしながら浸っていた竜児に
「…臭いわね」
とグサッとひとこと
畳み掛けるように
「あー臭い臭い まるでクサヤの干物が香水のように感じるくらいだわ」

そのあとも世界の臭い食べ物を並べたて弾幕のごとく言葉を浴びせる大河であったが
それを寸前のところでグレイズするかのごとく受け流す竜児なのであった

そうしているうちに学校に到着
よく水を切るんだぞと言いながら自分も傘を畳み教室へと向かう
鞄を置いて席に着くと大河がやってきて竜児の膝の上に乗った
もちろん周りにはクライメイトが既に何人か登校しているのだが
毎日の光景なので全員スルー状態なのは言うまでも無いだろう

「あんたが臭いセリフ吐いてくれたおかげで寂しくなかったわ」
そう言って大河は竜児の胸に顔をうずめてこう言った

「ありがとね…竜児?」




始まりがあれば終わりがある
朝の甘〜い甘〜いひとときは独神こと恋ヶ窪ゆりの襲来と共に始まるHRによってひとまず終了
まあ毎朝のことであるが、二人にとっては少しだけさびしいものである

休み時間
大河の三つ編みは割と好評で、
「やだーかわいいー」
「たまには三つ編みもいいNE!!」
「いいなぁ大河あたしも高須くんに三つ編みしてホシス」
てな具合に女子たちがキャッキャッウフフと騒いでいたのであった
竜児はご満悦である

昼休みもいつもの光景
だって大河がアーンと口を開けるそばから
竜児が手ずから作りあげるお弁当を放り込んでいくだけだもの
もちろん大河は手乗りならぬ竜児の膝乗りタイガーモード
もっとも、最近はおかずを詰める手伝いを大河はするようになった
これだけでもえらい進歩だょあたしゃ嬉しいねぇ、
と櫛枝が言ったとか言わないとか

「まったく…あのヴァカップルどもめ!」
「あーみんあーみん、たまにはヴァカップルもいいよね!!」
「全然たまにじゃねーし!毎日見てるし」
「でも見ないと落ち着かないんだよねぇ〜」
「やれやれだぜ…」





放課後
雨足は弱まったもののいまだ止む気配はナッシング
大河と竜児は仲良く下校中なのであった

「大河、今夜はラーメンにしたいんだが」
「肉が入ってるならなんでもいい」
「OK、把握した じゃあスーパーにつきあってくれ」
「プリン食べたい」
「太るぞ」
「平気平気♪」
「ったくしょうがねえなあ」

スーパーに到着すると、さっそく竜児は麺類のコーナーへ
「今日は…よし、喜多方ラーメンにするか」
喜多方ごま味噌ラーメン×3を買い物カゴに入れる
自分と大河と泰子の分だ
そしてネギを二本と大河のリクエストに応えてメイトーのなめらかプリン
最近の大河のお気に入りである

「ねえ、肉は?」
「案ずるな 実は手製のチャーシューが家の冷蔵庫に入ってる」
「ホント!?」
「ああ本当だ」
「分厚く切ってね」
「はいはい」

帰宅して着替えたあとさっそく調理
その間に大河は隣りの部屋でお着替え中
お湯を沸かしてる間にネギを切り刻み下ごしらえをして
沸騰したら麺を茹で3分待機
丼二つに味噌だれとゴマを入れお湯をそそぎ
茹で上がった麺のお湯をジャッジャッと手早く切って丼へGO
一緒に茹でていた卵を二つに割ってトッピング
刻みネギを入れたあとお待ちかねのチャーシューだ

「出来たぞ〜」
「チャーシューは!?ねぇ、チャーシュー!!」
「ちゃんと分厚く切って乗せたぞ しかも6枚入りだ」
「わぁ〜い♪」

竜児特製チャーシュー入り喜多方ごま味噌ラーメンをすする二人
泰子はまだ仕事中
ちょっと寂しいけどそのうち弁財天国にデートを兼ねて食べに行く予定
ちょくちょく顔を合わせてはいるのである




喜多方ごま味噌ラーメンを堪能したあとは
竜児が食器を洗い大河がテーブルを拭く
人心地ついてからはしばし二人でくっつきあう時間
おっと「えっちなのは良くないと思うぞ」ってけーねが言ってたのでギシギシアンアンは無しだぜ

「…ねえ」
「なんだ?」
「わたしのこと…好き?」
もう何度この問いかけをされたことだろう
そしてそのたびに答える言葉はいつも同じ
「…好きだ」
「…私も?」

何度問答しても答えは同じ
だけど絶対ウンザリしない
むしろ安心出来るQ&A

「そういえば雨音止んだんじゃない?」
「ちょっと見てくるか」

手をつないでドアをガチャリと開ける
雨はすっかり上がっていて空には星のまたたきが

「綺麗だね」
「あぁ」

たとえ雨の日だったって、二人の心はいい天気
そう思って竜児は三つ編みの大河の頭をそっと撫でたのであった


をはり




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