土曜の午後、櫛枝実乃梨はラーメン屋でバイトをしていた。
昼時の混雑がひと段落して、店先の掃除をしていると、可愛い子補足用みのりんレーダーが作動した。
前方50mに、目つきの悪い青年と手をつなぎながら歩いてくる少女を発見したのだ。
「みのりーん!また来たよ!」
「おうおう!二人はいつもラブラブだねえ〜。ご注文は何にしますか、お二人さん」
「お、俺、しょうゆラーメンで」
「私、みそラーメン! 大盛りね!」
「おう! 盛るぜ〜、超盛るぜ〜!」
さて私は、二人のラブラブな食事ぶりを観察させてもらうことにしようか――
そんなことを考えながら実乃梨は二人を席に案内した。

二人が座ったカウンター席にラーメンを持ってゆく実乃梨。竜児の前にラーメンのどんぶりを置き、
その2倍はあろうかという巨大などんぶりを大河の前に置いた。大河は「うわあ」と声をあげて、
うれしそうに箸で大量の麺をつかむ。だめー、大河!そんなに一度に食べたら――
「ぎゃー!あじゅい!あじゅい!」
そう言おうとした矢先、案の定あまりの熱さに大河が悶絶しだした。
「あーあ、何やってんだよ、お前」
すかさず高須君が大河に水を差しだす。そして、大河が暴れたせいで大河の服にかかってしまった
ラーメンの汁の飛沫をウェットティッシュで拭いてあげる。
「ちゃんと、ふーふーして食べなさい! そして服に汁をこぼすな」
ああ、なんて仲の良い父娘なんだろう――実乃梨の顔はもうニヤニヤしっぱなしであった。



しばらくすると大河は竜児のどんぶりをじっと見つめ始めた。
「なんだよ。俺のを食べたいのか?」
「うん」
「ったく、少しだけだぞ」
そう言って竜児はどんぶりを大河に差し出す。大河はにっこり笑って竜児のどんぶりに箸を突っ込む。
そこから取り出されたのは、どう見ても「少しだけ」とは言えない大量の麺…。
さらに大河は、竜児が食べている横からレンゲを突っ込みスープを横取りする。
竜児のラーメンは、もはや二人の共有物となっていた。

竜児がチャーシューをつかんだ箸を口に運ぼうとすると、
「ちょっと待ったあ!」
動物的な反射神経で大河が竜児の手首を押さえそれを制止した。
「ああもう、わかったよ。ほら、口あけろ」
竜児はそう言って、自分のチャーシューを大河の口に入れてあげた。
「へへへ、ありがと。代わりにコレあげるね」
そう言って竜児のどんぶりに入れられたのは、大河のみそラーメンに入っていた大量の野菜。
「こらー! ちゃんと野菜も食べなさい!」

竜児のラーメン半分と、自分の大盛りラーメンを汁一滴まで全て食べつくした大河は、
いつにもなく満足げな表情だった。
「まったく、いつまでも子供なんだから」
そう言いながら、竜児は大河の口の周りに付いたねぎをティッシュを使って拭き取っていた。
そんな二人を鼻血を流しながら見つめる少女がいた。
「く、櫛枝!?」
「みのりん!どうしたの?」
「大河、たきゃすきゅん、萌えるぜ〜、超萌えるぜ〜! 君達はなんて可愛いんだ〜」
それ以来、実乃梨は学校でも、二人の昼食を見つめながらニヤニヤしているのであった。




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