「高須君ってけっこう力持ちだよね」
 登校中、突然そんな事を言い出したのは櫛枝だった。
「特に鍛えてるわけじゃないんだけどな。まあ家事ってのは意外に力仕事も多いし」
「竜児の場合、掃除に必要以上に力入れたりもしてるし」
「……大河と知り合ってから買い物の重量が跳ね上がったせいもあるかもな」
「つまり私のおかげで体力がついたってわけね。感謝しなさい駄犬」
「はいはい夫婦漫才は置いといてー。高須君なら大河を肩車とか出来るんじゃないかなーとか思って」
「肩車……ねえ。おぶったり抱え上げたりしたことはあるから多分大丈夫だとは思うけど、実際にやってみないことには何とも」
「それじゃあやってみよう!」
「「へ?」」
 俺と大河の疑問符がキレイにハモる。
「おい櫛枝……今、ここでか?」
「思い立ったが吉日!知るは一時の恥、知らぬは一生の恥だよ高須君!」
「いや意味わかんねえし。特に後半」
「ちょっとみのりん、私嫌だよ、肩車なんて」
「ほほう……さては大河さん、また太りましたな?」
「な!?」
「重くなったんで持ち上がるかどうか自信が無い、と、そういう解釈でよろしいですかな大河さん?」
「そ、そんなわけないじゃない!ほら竜児、さっさとやりなさいよ!」
 俺に背を向け、脚を開いて立つ大河。
「高須君、ガンバだよ!」
 こうなったら覚悟を決めてやるしかないか……
 スカートを捲り上げないように注意して頭をくぐらせ、大河の太腿を肩口に固定する。
「いくぞ大河、しっかり掴まっとけよ……っと!」
 バランスに気を付けながら一気に立ち上がる。
「お……おおおおお!すごい!高ーい!」
 頭上から歓喜の声が降ってくる。
「みのりんすごいよ!私みのりんを見下ろしてるよ!」
「うんうん、よかったねー大河。喜んでもらえておねーさんは嬉しいよ。
 で、高須君の方はどうよ?」
「完全に立ち上がっちまえば抱え上げるより楽だな。重量を骨格全体で支えてるからかもしれない。
 それじゃ大河、降ろすぞ」
「駄目。このまま学校まで行くの」
「……おい大河」
 どうやら普段と違う風景が相当気に入ったようで。
「文句言わずにきりきり歩く!遅刻しちゃうでしょ!
 行け!ジャイアント竜児1号!」
「俺はロボかよ……」

 大河にも櫛枝にも内緒のこと。
 大河のフトモモの感触はちょっと役得だった。





 なお、それからしばらくの間大橋高校では
『魔王タイガーが真のボディを手に入れた説』
『高須竜児は嫁の尻に敷かれてる説』
『手乗りタイガーヘッドマスター説』
 などの噂が飛び交ったという。




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