「ちょっと竜児……あんた何見入ってるのよ?」
「おわッ!? た、大河! あ〜、いや、これはだな…」

いつものように狭いアパートに訪れた大河が目にしたもの。
鋭さに定評のある目を皿のようにし、肌色が大半を占める画面を
食い入るように見つめる彼氏の姿だった。
スピーカーからはいかがわしい嬌声が漏れ、凍り付いた空間に
無造作に響き続ける。

「所詮あんたも男な訳ね。…で、それは自分で借りたの?」
「い、いや、違うぞ! 春田が無理矢理押しつけてきたというか…」
「無理矢理なら観る必要ないじゃない。言い訳が下手よね」

じっとりと睨みつけられると、蛇に睨まれた両生類の如く押し黙ってしまう。
大河の怒りの矛先は鑑賞行為そのものではなく、映し出されている女優の
胸の大きさだった。


「…なんなのよこの胸の大きさ……っ!」

わなわなと震えるのも隠さず、画面と竜児を交互に見やると
ボリュームのある栗色の髪よ逆立てと言わんばかりに怒りのオーラを
噴出してゆく手乗りタイガー。

「違うぞ大河! これは春田の趣味であってだなっ!」
「問答無用ォッ! 哀れ乳の怒り、受け取れェェェェーッ!」
「ひゃー!!」

焼き餅という名の折檻が10分ほど続くと、互いに疲弊しきって部屋の中央で
大の字に倒れて醜態をさらす。息は上がり、高須棒でも取りきれなかった
細かな埃も上がり、修羅場の終焉を告げる。

「はぁ…はぁ… た、大河、ひとつ、だけ聞いてくれるか?」
「……な、なによ?」
「観ていたのは事実だ。だけどな……」
「……だけど、なによ。はっきり言いなさいよ!」
「俺、やっぱり……お前のサイズじゃないと、萌えない……」

―――ボッ!!

ホントに火が噴きだしたんじゃないかと見紛うばかりに真っ赤に染まる
大河の顔。その恥ずかしさを隠そうと体を起こし、竜児に覆い被さる
エンジェル大河様……

「あ、ああああ、アンタ、こんな時間から変なこと言わないでよ」
「本当のことだ。変なことじゃないさ」
「……〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

ゆっくりと重なっていく大河と竜児を離れた位置から見ている者が、
この後に始まるであろう恒例の音を口から発した。


「…ギ……ギギ…ギシギシアンアン! ギシギシアンアン!」

「インコちゃん! それは泰子の前では絶対言わないでくれ〜!」




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