「いってえ・・・」
何なんだ一体?
頬をさすりながら、俺は先程殴りかかってきたちんまい奴を思い浮かべた。
「・・・身体に見合わずいいパンチしやがって」
「災難だったな高須ー」
掛けられた声に振り返る。
目の前にはかわうその目をした奴・・・もとい、能登が立っていた。
「ああ」
こいつは1年の時から同じクラスで、俺の風貌にも耐性がついている数少ない友人だ。
「全く災難だよ」
深々と溜め息をついた俺に、能登が小さく笑った。
「クラス替え早々だってのに、手乗りタイガーvsヤンキー高須だかんな」
「ヤンキーって言うなよ」
言いながらギロリと睨んだ・・・わけでもないが、俺を見た数人の生徒が後ずさるのが目に入る。
まったく・・・。
心の中でもう一度溜め息。
この見た目の所為でどれだけ損をしているんだ俺は?やれヤンキーだ、やれヤクザだと・・・謂れのない誹謗中傷など日常茶飯事だ。
「まー気にすんなって、お前のことは俺から皆に言ってやっから」
「悪ぃな、恩に着る」
その言葉に、心底ホッとする。本当にこいつと北村が友人でよかった。
あれ?
「なあ能登?」
「ん?」
「さっき言った、手乗りなんとかってなんだ?」
「え?高須知らねーの?」
少し驚いたように言いながら、能登が説明してくれた。
先程俺を殴った奴、逢坂大河。通称手乗りタイガー。
見た目は小柄な美少女だが、その実えらく凶暴。
全校どころか、教師にまで恐れられる暴れ者。
故に手のつけられない問題児。
しかしその全てが暴力沙汰で、タバコ飲酒クスリなどとは無縁。
だが成績優秀。
曰く傍若無人、唯我独尊。ワガママ、身勝手等々。
聞いてもいないことまで事細かに話してくれた。
「それでな・・・」
「あ、ああもういいよ」
止めなければどこまでも話しそうな能登を制して、少し考え込む。
「?どうした?」
「ああ・・・いやいい。ありがとな」
そう言って立ち上がる。
「どこいくんだ?」
「飲み物買いに」
後ろ手に振りながら、俺は教室を出た。




そして歩きながら考える。
逢坂大河。通称手乗りタイガー。
手のつけられない凶暴女。
全校どころか、教師にまで恐れられる暴れ者。
その辺はまあわかるけど・・・。
「・・・あいつ、ただの暴れもんじゃないだろ?」
その一点のみが気になった。
あいつの態度・・・あれは、単にイライラしてるだけだ。
そのイライラが解消されずに、所謂、癇癪で周りにぶち当たってるだけだろ?
そんなこと一目見りゃわかるのに・・・・。
まあ外見に騙されるのか。
言われてみりゃ確かに可愛かったな。
「違う意味で、俺と一緒か」
ククッと思わず笑いを零して、自販機へ向かう角を曲がる。
ドン。
え?
胸の辺りに衝撃を感じて見下ろす。
「あ」
思わず漏れる声。
そこには今朝と同じシチュエーション。
「・・・またあんたなわけ?」
痛いのだろうか、額を押さえながら手乗りタイガーがギロリと見上げていた。


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