「聞きたいことってなんだ?告白なら今は受け付けてないぞ?」
すまない北村。
今はお前の下手なギャグに付き合っている余裕が無い。
「なあ北村」
一言前置いてから、俺は直球で聞いた。
「逢坂って、なんであんなに周りを拒絶してるんだ?」
俺の言葉に、驚いたような表情を浮かべる北村。
なるほど。
どうやら俺は間違ってないらしい。


『1話if・6』


「・・・なんでそう思ったんだ?」
数秒の間を置いて、北村が聞いてきた。
やはりそうか。
俺は北村の目を正面から見返した。
「やっぱり、お前は何かを知ってるんだな?」
「!!」
俺の言葉に再度目を見張る北村。
俺は視線を逸らさない。
「・・・なんでそう思う?」
「簡単なことだ」
軽く肩をすくめて、俺は言葉を続けた。
「俺の質問に対し『なんだそれは?』でもなく『そうなのか?』でもなかった。普通知らなかったことならそう聞いてくる。でもお前は、俺がなぜそう思ったかを聞いた。それはお前がその事実を知っていたからだ」
間違ってるか?
視線でそう問い掛けたら、あっさりと北村は両手を上げた。
「まったく。お前の分析能力を忘れてたよ」
そいつはどうも。
真顔のまま言ってのけた俺に対し、苦笑を浮かべつつ、北村は誰にも言うなと念を押してから話し始めた。






「俺も聞いた話だが、どうやら逢坂の家庭は崩壊しているらしい」
・・・崩壊?
いきなり出た単語の重さに、思わず絶句する。
その様子を敏感に察知して、北村が聞いてくる。
「やめるか?今ならまだ平気だぞ?」
思わず頷きそうになる。
でも・・・。
「いや・・・頼む聞かせてくれ」
そう。
俺はとことんあいつに付き合うって決めたんだ。
俺の覚悟を受け取って、北村が話を続ける。
大まかなことしかわからなかったが、どうやらこういった話らしい。
逢坂の両親は、既に離婚している。
原因は父親の浮気。
逢坂は父親に引き取られたが、父親と愛人の3人暮らし。
その愛人との生活に嫌気がさしたらしい。
当たり前だ。
逢坂にしたら自分の家庭を崩壊させた女だ。
そんなのと生活できる方がどうかしている。
それを父親に言ったら、マンションを買い与えられて、家を追い出された。
要するに、逢坂は捨てられた。
父親は実の娘より愛人を取ったというわけだ。
胸クソ悪くて吐き気がした。



「元々、両親の不仲を幼少から見続けさせられてきてのそれだ。一時期は完全に心を閉ざしていたらしいぞ」
北村の言葉に、思わずギリッと歯を鳴らした。
逢坂の心情が手に取るようにわかって。
あいつは庇護されるべき親から捨てられたんだ。
一番傍に居てしかるべき人間から、いらないと言われたんだ。
その時の絶望の深さを想像してブルッと体が震えた。
その時の悲しみの大きさを想像してまた歯が鳴った。
「・・・」
北村は黙ったまま、俺の激情が去るのを待ってくれているようだった。
「・・・話してくれてありがとな、北村」
「・・・ああ」
これで合点がいった。
さっきの逢坂の取り乱し様。あれは・・・。
「高須」
「え?」
ふと北村が俺を呼んだ。
視線の先、どこか真剣な眼差しで俺を見る北村が口を開いた。
「お前は何でそんなに逢坂に思い入れるんだ?」



「え?」
問われている意味がいまいちわからない。
俺が・・・思い入れ?
誰に?逢坂に?
「今までのお前は・・・こういっちゃ何だがその風貌にコンプレックスを持っていて、積極的に他人に関わろうとはしてなかっただろ?」
それが今回はやけに一生懸命じゃないか。
紡ぐ親友の言葉に、確かにそうだと今更ながらに気付いた。
そうだ。今までの俺なら、怯える他人の目が嫌で、極力関わりを避けてきた。
それなのに、なんで俺こんなに一生懸命なんだ?
「同情か?」
北村の台詞に、瞬時に睨みつける。
「だったら止めておけ。それは逢坂に失礼だ」
しかし北村は俺の目を真っ直ぐに受け止めたまま、凛と言い放った。
その迫力に、こっちが逆にたじろぐくらいに。
「俺にもいろいろ事情があってな。逢坂を侮辱するような理由だったら、俺がお前を許さん」
「北村・・・」
有無を言わせぬ言い様に、二人の間に何かあったのかと連想させられる。
何故か胸がちくりと痛んだ。



「そんなんじゃねえよ・・・」
なんとなくやましい事を考えた自分が嫌で、目を逸らして弱々しく呟いた。
でもそれなら何だ?
俺はなんでこんなに・・・あ。
「そうか・・・」
そこまで考えて気付いた。
なるほど・・・そうか。
やっと思い至った答え。それは・・・。
「笑わせてえんだ・・・」
「え?」
独り言のように呟く。
そうだ。そうなんだ。
北村に顔を向け、軽く笑って見せた。
「あいつよ、俺のこと怖がらねーんだよ」
「・・・」
「初対面でこのヤクザ面ぶっ飛ばして、その後自販機んトコで話したときも、あいつ全然怖がらねーんだ」
そう。
あいつは俺を怖がらなかった。
この顔を見て、ぶっ飛ばして、それでも普通に話した。
それが・・・。
「嬉しかったんだな、俺」
「高須・・・」
「でもよ・・・」
そこで一旦顔を上げる。
目に入る太陽がまぶしくて、目を細めた。
「俺にその嬉しいをくれた奴は、何故か怒った顔と泣いた顔しか見せてくれねーんだ」
それが嫌だったんだ。
悔しかったんだ。
だから思わずあの時手を伸ばした。
あいつの苛立ちを解消してやりたくて。
あいつの・・・笑顔が見たくて。
「だから俺、こんなに一生懸命なんだな・・・」
気付いた気持ちは妙に清々しかった。
こんな感情は初めてだ。
誰かの笑顔が見たくて努力する。
それがこんなにも、俺の心を満たしてくれる。
あいつの笑顔を見るためだったら、どんな苦労も厭わない。
そんな風に思える自分が妙に誇らしくて胸を張る。
今まで自分の見た目で悩んでたことなんて、なんてちっぽけだったんだろう。
そんなもん、関係無しに接してくれる奴が居たじゃないか。
見つけたじゃないか。
そいつのために、今度は俺が何かをしてやるんだ。
あいつの笑顔を見るために、俺が俺のために努力するんだ。
「だから北村」
「ん?」
「これは俺のエゴだな」
「・・・聞こえ様はあまりよくないな、それ」
的確なツッコミに二人で笑った。
「そういうことなら、俺もお前を応援する。逢坂の為にも、頑張れ」
「おう。ありがとな」
ゴンと拳をぶつけあって、俺は逢坂の居るであろう教室へ走り出した。
まずはちゃんと知り合いにならなくちゃ。
よし!俄然やる気が出てきたぜ!!


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