頑張ったわ私。
自室のベッドに潜り込みながら私は、まだドキドキと高鳴る胸にそっと手を当てた。


『1話if・9』


一瞬あまりの小ささにショックを受けるが、それも束の間。
暖かく拡がっていくような胸の裡に、思わず顔が綻ぶ。
高須竜児に気持ちを伝えた。
その勇気に、自分で自分を誉めてやりたい。
だって、今まで私は逃げてばかりいたから。
欲することをせず、敢えて自分から突き放した。
本当は欲しくて堪らないものに、自ら背を向けることで自分を正当化していた。
いずれ、それは結局逃げなんだってわかった。
否、わかっていた。
でもそれから目を逸らし続けてきた。
ずっとそうやって生きてきた。
親に捨てられた時からずっと・・・。
でも今日、私はその現実に真っ向からぶつかった。
ぶつかって傷つこうとも、欲しいと思えるものが出来た。
今まで手放すだけの人生だった私に、初めて欲しいと思わせたもの。
高須竜児。





その名前を思い浮かべるだけで、顔が火照りを覚える。
顔を思い出すだけで胸が高鳴る。
屋上で聞いたあいつの言葉を思い返すたび・・・泣きたいほどの幸せを感じる。
ああ・・・。
この想いを伝えるのに、どうしたら良いのか心底悩んだ。
とりあえず授業をサボるほどには。
まず、正面切って告白なんて到底出来ない。
絶対出来ない。
こう見えて私はすごい小心者なのだ。
ならどうしよう?
そんな時思い出したのが、渡すつもりの無かったラブレター。
以前北村君に書いて、でも渡すなんて到底出来なくて、いつもカバンの中に入れっぱなしになっていたそれ。
それを渡すこと。
そうすることで、私は一歩歩き出せるって思った。
今までのうじうじした自分じゃなくて、前向きに、欲しいものを欲しいって主張できる自分に、生まれ変われるって思った。
だから敢えてそのままの手紙を使い回した。
それが、北村君への気持ちを断ち切ることになると思ったし。
若干、おふざけ的に思われるかなって逃げの気持ちもあった。
最初っから、本気です!みたいな重いのってなんか怖いし。
でももし・・・使い回しなんてふざけやがって、とか思われたらどうしよう?
今更そんな事を思いだす。





手遅れな事を思っても仕方ないのに、不安はどんどん大きくなる。
開けて貰えるだろうか?
読んで貰えるだろうか?
そして返事を・・・返事を・・・返事?
「・・・え?」
そこまで思って、私は重大なことに気付いた。
気付いた事実に愕然とした。
過ちといっても過言ではない。
それ程に重要で重大な問題。
なんでこれに思い至らなかったのか?
改めて自分の能天気さに呆れ果てた。
そうよそうよそうよ。
なんで私・・・私・・・。
「こ、断られること考えてなかったのよ・・・?」




なんたる間抜け。
なんたる稚拙。
なんたるおっぺけぺー。
いや自分を詰ってる場合じゃない。
塞は既に投げられた。
否、投げ付けた。自分で。
どうしようどうしようどうしよう。
起き上がって、うろうろと部屋の中を歩き回る。
もし断られたりしたら、次からどんな顔して高須竜児に会えばいいんだろう?
いや、そもそも向ける顔なんてあるものか。
恥ずかしくて恥ずかしくて、二度と顔向けなんて出来はしない。
それよりももう、学校にすらいけないだろう。
多分そうなる。
私はそこまで小心者なのだ。
どうしようどうしようどうしよう。
問題は、そうだ。
もし振られた時に、いかにして対処するべきかなのだ。
振られても、私がまた高須竜児に堂々と会える状況。
その構築に目的は絞られる。
その為には・・・。
思案に暮れたその時、ちらりと視界に入ったそれ。
それを目にしたとき、私の中でまるでパズルのように、全てのパーツが組みあがっていった。
すべてが高須竜児に振られたらに向かうベクトル。
それらはついに繋がりあい、一枚の綺麗な絵画を完成させた。
「良し・・・完璧」
何度か頭の中でその計画を確認し、一分の洩れもない事を確信して呟く。
そうして顔を上げた。
決意を込めて。
そう。
勝負は・・・今夜だ。


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