そろそろ新緑の季節にさしかかろうかという、爽やかな日曜日。
 竜児の祖父から送られたさくらんぼをおやつにつまみつつ、いつもの5人で高須家に集まっての勉強会。
 の、はずなのだが、女子のうち2人がなにやらヒソヒソと密談中。

(ねえあーみん、アレってやっぱり……)
(アレ……だよねえ。でもなんで高須君が?キャラじゃないっしょ?)
(そこなんだよねえ……私達へのアピールなんてのはありえないし、大河とは普通に……してるだろうし)
(……こうなったら直接聞いてみるしかないかしら?)
(よし、頑張れあーみん!)
(あたしかよ!)

「ねえ高須君、それって……」
 亜美が指差す先には、竜児が口から出したばかりのさくらんぼの茎。
 その中ほどには結び目が作られている。
「ん? ああ、これ、実は泰子の得意技でさ。ガキの頃にマネしようとして練習してるうちに癖になっちまったんだよ」
 机の上、チラシで作られた屑入れの中には同様の物が2個3個。
「竜児ってホント見た目によらず器用よね。私もこの間チャレンジしてみたけどぜんぜん駄目だった」
 言いながら大河はひょいひょいとさくらんぼを口に放り込む。
「どれどれ……む、これは確かに難しいな。高須、どうやってるんだ?」
 北村が口の中で何やらもぞもぞと。
「いや、改めてどうと聞かれると説明しにくいんだが……」

(大変ですあーみん隊長!どうやら高須君は状況を理解していないようです!大河も!)
(こういうのも天然っていうのかしらね……なんか腹立ってきた)
(どうでしょうあーみん隊長、我々がウブでネンネな2人にレクチャーしてあげるというのは?)
(面白そうね……乗った)




「高須君、知ってる?」
 竜児に向けて妖艶な笑みを浮べる亜美。
「口の中でさくらんぼの茎を結べる人ってさ、キスが上手いんだって」
「へー……え?」
 思わぬ言葉に固まる竜児。
「そこんとこ実際にはどうなのさ、大河?」
 即座に実乃梨が大河に詰め寄る。
「ふぇ!? た、確かに竜児のキスは気持ちいいけど、それは、べつに、そんな」
 突然振られた大河は思わず本音をポロリ。
「聞きましたかあーみん!『気持ちいい』そうですよ!」
「これは是非、後学のためにも実演してもらわないとねえ?」
「ちょ、ちょっと待て!櫛枝!川嶋!」
「そ、そうよ、じ、じじ、実演なんて……!」
 真っ赤になる竜児と大河。
「そ、そうだ、生徒会長の目の前でそういうことをするわけには……」
 竜児がどうにか逃げ道を探すものの、
「いや、かまわんぞ。うちの校則には男女交際に関する項目は無いしな。
 というか俺もちょっと興味がある」
 残念ながらあっさりと行き止まり。
「3対2の多数決でけって〜い!さあ観念するのだ大河も高須君も」
「つーか普段ラブラブ光線出しまくってるくせに、今更キスぐらいで照れるんじゃないわよ」
「むむむ無理!無理だから!」
 ぶんぶんと顔を横に振る大河。
「ふーん……それじゃあさ、高須君、あたしにキスしてくれない?」
 亜美は唇に人差し指を添え、数多の男達を悩殺してきた流し目を竜児へとちらり。
「か、川嶋!?」
「やっぱり見るだけより体験するほうがわかりやすいし、ねぇ?」
「そういうことなら俺っちも!一発濃厚なのを頼むぜ高須君!」
「お、じゃあ俺も」
 元気良くと軽く、実乃梨と北村までもが手を挙げる。
「だだだだ駄目ーっ!竜児とキスしていいのは私だけなんだから!
 ばかちーも駄目!たとえみのりんでも駄目!ましてや北村君は絶対駄目っ!」
 まるで護ろうとするかのように、涙目になりながら竜児の首筋に抱きつく大河。
「だそうだけど、高須君はどうなのかな?」
 ニヤニヤと笑う亜美を射殺さんばかりの視線で睨みつける竜児。
 ……言うまでもなく実際にはただただ困惑しているだけなのだが。
「……しかたない。大河、一度だけだ。それで川嶋達も納得するだろうから」
 言いながら、竜児は大河の頬に手を添える。
「……竜児がそう言うなら……」
 顔を赤らめながら目を閉じる大河。
 竜児はそっと近づき、まずは啄むようなバードキスを二度三度。
 そしてしっかりと重ね合わされる唇。


「……ん……む……」
「…ん、ふ……んん……」
 二つの唇は何度も角度を変え、一瞬離れたかと思うとまた密着する。
 時折中で何かが蠢めいているかのように口元が動く。あるいは何かを嚥下する喉の動き。
 二人は触れ合う感覚に集中するかのように目を閉じ、しっかりと抱き合ったまま。

「……1分超え……なんというエロス……鼻血出そう……」
「……こいつらコレで普通に『一回』かよ。つかあたし帰っていいかな?」
「はーっはっは、なんだか無性に脱ぎたくなってきたぞぉーっ!」





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