大河「竜河…あんたも所詮男なのね…」

そう言われたのは夜の9時。リビングでドラマを見ていた長男の竜河は
もう恋人にしたいくらい好きな母親である大河にそう告げられた。

竜河「ん?何がって…あー!おおお俺の部屋に勝手に入ったな!?」

そう、大河の手に握られていたのは一冊の青年向け雑誌。いわゆるエロ本である。

大河「ははぁ〜ん、別に焦らなくてもいいじゃない。ねぇりゅ〜じ〜。りゅ〜ががねぇ〜」

愛する夫の名前を「あ〜れぇ〜」とでも言いそうな口調で呼ぶ。

竜児「どうした?」

冷蔵庫の中身をチェックしていた竜児は、怪しい目をギラつかせ大河を見やる。

竜河「うわぁー!言うなー!」
必死に大河からそれを奪い取ろうとするが、頭一つ分差があるにも関わらず
巧みに奪おうとする腕をかわし続ける。

大河「へいパスパース!」

そう言うと、本の角を掴んで勢い良く縦向けに竜児へ投げる。

それを受け止めようとするが、軌道がそれて食器洗い機の下へしゃがんでいた長女の留河の額にクリティカルヒット。

留河「…何してんってあいたぁぁ!?」

大河「あらやだ」

そう言うと、胸の前で手を合わせて『ごめんなさい』のポーズを取る。
咄嗟に竜児が傷を確かめ、ホッと一安心。



留河「まったく…って何コレ?きゃああ!」

叫ぶのも無理はないだろう、ぶつかった『何か』を見ようと視線を移したら
赤いビキニを着けて惜しげもなく肌を露出している女が表紙の雑誌があるのだから。
大河よろしく胸は母親似なので、相当ショックを受けたらしい。

竜児「おい大河危ないだろ?大体なんだこれ、留河が硬直してしまったじゃないか」
二人はテレビの前で竜河と大河が取っ組みあっている。

竜河「バカバカ!母さんのせいでバレちゃったじゃないかどうしてくれんだよー!」

大河「あら遺憾だわ…うちの子だけはそんなじゃないと思ってたけどやっぱり獣ね!」

竜河「うるさーい!母さんに思春期の男心がわかってたまっかー!」

大河「目つきは私にそっくりだけど中身は竜児そっくり!あぁ遺憾だわ」

竜河は大河の頬をつねると、大河は5倍返しで腹にアッパーを食らわせ、戦闘は終焉を迎えた。
「ぐぇぇ」と呻き声をあげてその場に倒れこむ。

竜児「おうおう…気絶してんじゃないのか?もう少し手加減って物をだな…」

大河「いーえ!竜河が最初に飛び掛ってきたのよ?もう犯されるのかと思ったわ」

竜児「どこの子が自分の母親を犯すんだよ…」

大河「ライオンは我が子を崖から突き落とすって知ってる?だから今回は甘いほうなのよ」

竜児「お前なっ…おーい竜河ー?大丈夫かぁー?」

頬をペチペチと叩くと、目をパチリと開けた。ムクリと起き上がると大河を軽く睨む。
すると大河と竜河は同時に手を伸ばし、互いの頬をつねりやる。
ぐぎぎぎ、としばしにらみ合って大河は罵声の言葉を浴びせる。




大河「あんたが自分の部屋のテーブルに置いとくからでしょ!頭悪いのは竜児そっくりね!」

竜河「うぇぇ?俺そんな所に置いてあったの?マジ?」

大河「…まぁテーブルの近くのベッドの下…かな」

竜河「やっぱり探したんじゃないかアホ!この哀れ乳!」

数秒硬直し、最後の言葉でうなだれた大河は竜児にもたれかかる。目はすでに涙であふれんばかり状態。

大河「うっ…そんな事息子に言われたくなかった…うぇぇ…」

すると事態を察したのか、竜河はすぐさま大河の元へよって償いの言葉をかける。

竜河「ごっごめん!別に傷つけるつもりは…」


日曜日のそんな日常。平和で、安らかで、心地よくて。
愛する家族に囲まれ、笑いの声は絶えない。
婚約当初は駆け落ちや大河の引越しなどと問題ばかりであった事が嘘のよう。
竜児が、大河が、望んだ日常がここにある。
決して裕福でなくとも、愛する家族が居ればそれでいい。
『幸せだ』と書いてあるかのような表情を浮かべ、いつのまにか復帰した留河を加えた家族を見やる。
一生こんな幸せが続くといいな。一人ごちると、「気持ち悪い」と大河に頬を軽くつねられる。
少々寒くなってきた10月のとある日、竜児の夢は叶った。『みんな幸せ!』


おわり





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