【つまりは】

竜児「う〜、夜はやっぱまだ冷えるな……、まぁ、雨が降ったからってのもあるだろうけど。
   しかし、泰子も大河もいないから一人で食事か。久し振りにインコちゃんと語り合いながらの食事も悪くないか」
大河「竜児」
竜児「おうっ!? いきなり人ん家の玄関前でひょこっと現れるな、心臓に悪い。ってか、今日はお前、用事があったんじゃないのか?」
大河「それは終わった」
竜児「そうか。で、その、着のみ着のままやってきた、ってところを見ると何かあったのか?」
大河「……結局さ、私ってひとりだと何も出来ないんだなぁ、って痛感した」
竜児「……ほんとに何かあったのか……?」
大河「いいから聞いて……。ひとりでも生きていけるって、何の確信もないのに、何の意味もないのに、言葉だけ並べてみてさ。
   いざひとりになるとすっごく寂しくて、すっごく泣きたくて、すっごく甘えたくなって……」
竜児「…………」
大河「……最低なのよ、私。ひとりは嫌で嫌でしょうがないのに、でも、みんなの優しさに甘えたくなくてひとりでいたくて、でも寂しくて。
   そんなことの堂々巡り。ちっとも前に進めなくてさ、それが可笑しくてさ。こういうのって何て言ったっけ? 術師? キロロ?」
竜児「…………」
大河「良いの、教えて。そっちの方が気分悪いもん」
竜児「……多分、道化師。ピエロ……だな」
大河「……そうそう、ピエロ。……うん、今の私にピッタリだ」
竜児「……なぁ、大河。ちょっとこっち来い」
大河「……んっ?」
竜児「……やましい気持ちはないからな?」
大河「何の話よ? って、わわっ!」
竜児「……ん〜、あ〜、やっぱ嫌だったか?」
大河「……良い、許す。寂しくて、泣きたくて、甘えたかったって言ったとこだし」



竜児「おうっ、じゃあ、次は俺の話な。お前、何時だったか北村に告白しただろ? それって完全にお前の意志で起こした行動だろ。
   あの時俺は素直にお前を尊敬した。死ぬほど恥ずかしいはずなのに、これからの関係がギクシャクするかもしれないのに、それでもお前は告白した」
大河「…………」
竜児「人がひとりで生きていくってことは、どういうことを指して生きていくって言うのか俺には判らん。
   でも、俺個人の意見とすれば、ひとりでも生きていくってことは、孤独でも生きていける、ってことじゃなくて、大事なことを自分の意志をはっきりと持って行動すること。
   多分そういうことだと思ってる。
   その意志を持つまで、家族や友人の助言があって、答えを導き出せることだってあるかもしれない。
   けれど、最後に決断を下すのは自分。そうやって自分が、これで良い、と思える答えを選択して、自分の道を歩くことが、ひとりで生きていくってことだと思う」
大河「…………」
竜児「あの時、お前がした告白は間違いなく、ひとりで頑張った証拠だ。それは間違い無い。結果は……まぁ、あれだったわけだが、それでもお前は偉い、本当に。
   それに俺だって、くよくよと悩むだけで、告白なんかしないだろうな、って思ってたのに、お前の心強い後押しがあったお陰で自分の意志で行動できたことが幾つもある。
   本当に心から感謝してる、有難うな」
大河「…………」
竜児「深く考えるな、自分を陥れるな。寂しかったら誰かを頼れ、泣きたかったら思いっきり泣け、甘えたかったら存分に甘えろ。
   これが弱いってことに繋がるなんて考えたこともないし、ひとりで生きていくことには必要なことだ。
   だからな、ほら、泣く―――ってそれは思いっきり泣けって言ったばっかりだからおかしいか……、あ〜、笑え!」
大河「……うんっ」
竜児「よっし。お前にはたくさんの仲間、それに俺や泰子っていう家族がいることを忘れるなよ?」
大河「……うん! 絶対忘れない」
竜児「おうっ! ……ふぅ〜っ、何かすっげぇ恥ずかしいことをして、すっげぇ恥ずかしいことを言ったせいか、体が暑い……」
大河「……抱かれてる時、竜児の体がすっごい暖かかったよ」
竜児「……もう何も言うな、更に体温が上がってしまう……。それより、何でまたこんな話が出てきたんだ?」
大河「ああ、つまりね」
竜児「おう」
大河「ゴミ出そうと思ってゴミ収集所に行ったけど、鍵も共有の暗証番号も忘れて、おまけに管理人さんもいなくて家に帰れなくて途方に暮れてた。もち、携帯は持ってない」
竜児「シリアスな話する前にそっちを先に言え、バカ! この寒い中その格好でいやがったのか!? 鼻水まで啜って、震えてんじゃねぇか!
   あーもう、直ぐシャワー浴びろ! ホットミルクも用意しとくから! なに久方ぶりのドジに格好つけてんだよ、お前は!?」





作品一覧ページに戻る   TOPにもどる
inserted by FC2 system