「大河……!」
「竜児、りゅう、じっ……!」
 竜の角と虎の爪が、同時に相手の血に染まる。
 それは生涯を賭けて為された契約の証。





 大橋高校の卒業式から早五ヶ月。
 アメリカ留学中の北村の一時帰国に合わせて皆で遊ぼうということになり、
「今は夏である。
 夏といえば海である!」
 という櫛枝実乃梨の一言により、場所はまたもや川嶋亜美の別荘と相成った。



「あれ、高須君どうしたのさその背中。ハハハハハ?」
 それに最初に気付いたのは実乃梨だった。
 竜児の背中、中央付近から外側に向けて斜め下に走る傷跡が、左右五本ずつ。
 確かに片仮名の『ハ』を縦に並べて隙間を詰めたように見えなくもない。
「いや、こ」
「どぉりゃあぁぁぁっ!」
 キック一閃。
 大河の脚が、発せられかけた言葉を竜児の頭ごと砂浜へと叩き落とす。
「よ、余計なこと言ってるんじゃないわよ竜児!」
「まだ何も言ってねーだろうが!」
 流石に竜児は馴れたもので即復活。
「え?なに、それってば大河がつけた傷なわけ?」

   墓 穴

「うっわ〜、これ、かなり痛かったんじゃない? 高須君かわいそう〜。
 ああでも、大河の方がもっと痛かったのかな?」
 浅いわりにはっきりとした傷跡に指を這わせながら亜美がにんまりと笑う。
 その言葉にたちまち赤くなる竜児と大河。
「なんだ高須、逢坂に怪我をさせたのか?それはちょっと感心せんな」
「ち、違うの北村君、ケガってわけじゃなくて、その……」
 あたふたと大河。だがその語尾はごにょごにょと消える。
「そうよねえ〜。ケガって いうより……マーキング?
 これは高須君が大河のモノだって印で〜、大河が高須君のモノだって印は……ねえ?」 
「えーとえーと、それはつまり……」
 亜美の言葉に考えこむ実乃梨。
 ぽく
 ぽく
 ぽく
 チーン!
「おお!そいつはめでたい!
 ちいっとばっかり遅いかもしれんが今夜はお祝いだ!赤飯だ!パーティだ!
 いや〜、大河もオトナになっていくんだねえ〜」
 感慨深げにうんうんと頷く実乃梨。竜児と大河の顔はもはや完熟トマトのように真っ赤で。
「何だ? 何の話なんだ?」
 一人事態を理解出来ない北村なのであった。


 余談だが、高須竜児のその傷跡は一生消えることが無かったという。 





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