高須竜児、高校3年の夏休みも半ばを過ぎ、まわりも受験色に染まりつつある。
そこで受験一直線になる前の最後の息抜きとして、また今年も去年と同じメンバーで
川嶋家の別荘へ行くことになった。ちなみに誘った当の本人は受験勉強などする気はないらしく、
曰く、「亜美ちゃん、チョーかわいいし〜、どこでも顔パス!みたいな?
あ、そうだ!高須君でも・・・いや、高須君なら簡単に顔パスで入れるとこあるよ!!」
「どこだよ?」
「刑・務・所♪」
「・・・・・。」

そんなこんなで

天気は快晴、絶好の行楽日和
「きたきたきたぁー!また今年も来ましたよ!あーみんの別荘!」
太陽の申し子、櫛枝実乃梨はキラキラと目を輝かせながら別荘の全景を眺める。

「みんな、歩かせてごめんね〜」
亜美が天使の笑顔を貼り付けつつ、心にもないお詫びをいれるのに対し、
「ほんとだよ」と毒づくのは手乗りタイガーこと逢坂大河その人である。
竜児は2人の会話にどこか既視感を覚えるも、すぐに泡となって消えてしまう。
今彼の頭を占めているのは「掃除」ただ一色。なんたって今向かっているのは
川嶋亜美の別荘だ。去年訪れた時の掃除のやり甲斐ときたらもう・・・。ぐふふっ、と口元は
隠し切れない笑みに歪む。竜児の頭の中では花びらが華麗に舞うように高須棒が乱舞している。
「あんた・・・また変なこと考えてる」
「おう!?これはただ掃除のことを考えてただけで」
「ふ〜ん、ほんと竜児はクリ中よね」
「く、クリ中?」
「clean中毒、感染するからあんまり近づかないで」
「くっ!病原菌を憎むこの俺を病原菌あつかいとは!だが・・・・・いやなんでもない」
大河には少し感染したほうがいいのではと声に出さずに思う。



「はははっ!掃除好きというのはいいことじゃないか!なぁ高須」
「「おうっ!?!?」」
2人は声を合わせ驚く。どんなに毒づいてもこれでもフィアンセ。一緒にいる時間が長いせいか、竜児の口癖も移ってしまったみたいだ。
振り向いた先には北村。いやまぁ北村なのだが、
「なんでお前はもう海パン一丁なんだ!?」
驚いた竜児の双眸は目の前の裸族を射殺さんばりに釣り上がるが、慣れ親しんだ北村には
何の効果もない。心なしか今横を通り過ぎた自動車が反対車線にはみ出した気もしたが。まぁ気のせいだろう。
「なんでって決まってるじゃないか!これから海に行くんだろ?
ということは海パンになるのは至極当然のことだ」
北村は男から見てもうらやましいくらい筋肉のついた胸を張る。
「いやまて。確かにもうビーチは見えるしすぐ隣は川嶋家の私有地だ。
だが、今歩いてるのは公道だぞ?おかしいと思わないか!?」
「思わんな」
どこに問題がある?と逆に聞き返してくるような北村の目を見て竜児は、はぁ〜とため息を吐いた。
もう駄目だ。こいつには何を言っても通じない。とあきらめかけたところで、
「竜児、北村君は悪くないよ。露出狂だもん」
大河からの強烈なビンタ☆。しかし大河は全く悪気がないらしく、優しい目つきで北村を見る。
「おー逢坂!何か今さらっとひどいこと言わなかったか!?」
「ううん、一般論を言っただけだよ」
反し手で往復☆ビンタ。にこっと無垢な笑顔を見せる。
「そ、そうか・・・」
さすがの北村も、大河の悪意ない攻撃にショックを受けたみたいだった。
「ほらみんな、祐作なんかにかまってないで行こう!実乃梨ちゃん先に行っちゃったよ」
いつだって亜美は幼馴染には優しくないのだ。




「う〜む、相変わらずいい別荘ですのぉ、あーみんどの。いやてかぶっちゃけここに住みてーー」
「うふ、ありがとう実乃梨ちゃん!部屋は去年と同じく階段から近い順に祐作、高須君、タイガー、実乃梨ちゃん、あたし
でいいよね?」
はーい、とバラバラに了承の声が上がる。
竜児は答えたはいいが、今はそれどころではなかった。
・・・・・ないのだ。シンナーが!なんてことではなく、いつ刺されてもいいように服の中に仕込んでいた週刊誌が!
なんてことでももちろんない。見渡す限りどこにもないのだ。ゴミやホコリが。ありえない。去年はあんなにも可愛らしく
掃除されるのを待っていたのに・・・。・・・・・まさか!!
「か、川嶋、もしかして、掃除したのか?」
まさに恐る恐るといった感じに訊く竜児
「うん、去年掃除大変だったしね。だから今回は昨日のうちにメリーメイドに頼んでおいたの!亜美ちゃんってほんっと
気配り上手♪」
ガクッと竜児は膝から崩れ落ちる。
「ちょ、高須君?」
メリーメイド・・・メリーメイドめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!一度ならず二度までもっ〜〜〜
「ばかちー、ここは私に任せて」
後ろで事の顛末を見守っていた大河は四つん這いに近い状態になっている竜児に近寄り、
後ろから抱き起こした。そして抱きしめたまま、
「竜児・・・元気出して!」
「大河?」
「今度私の家を隅から隅まで掃除していいから!」
「すみからすみまで・・・?」
「そう!隅から隅まで!!きっとここの別荘とは比べ物にならないくらい
掃除のやりがいがあるわよ」
「・・・・・たいが」
「なに?りゅうじ!?」
「大好きだーーー!たいがーー!!」
「私もよ!愛してるわ!!りゅうじーー!!」
・・・なぁ、あーみん、北村君、これは突っ込んだら負けかね?
まぁこいつらのあれは今に始まったことじゃないけどね。
とりあえず、一言物申したい気分ではあるな。
「「「よそでやれ!!!」」」

その後、2人のアツイ抱擁は5分に渡って続いた。





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