【会わなかった一年間】


一年ぶりに『家族』揃っての夕食を食べた。五合炊いた米は冷蔵庫に送られること無く全部片付くし、泰子もとても嬉しそうだ。そしてなにより…
「竜児…美味しい、美味しいよ」
泣きながら俺の飯を食べてくれる最愛の人がいる。本当は俺も泣きそうなんだが、ここで泣いたら男として示しがつかない。
「大河ちゃん会わないうちにまた可愛くなったね〜」
「グスッ…そ、そうかな」
「そうよぉ〜。ね、竜ちゃん」
「お、おう!」
勢い良く肯定したが、恥ずかしくなりちょっと目線を逸らす。一呼吸、二呼吸おいてから大河の方に目線を移すと、真っ赤になりながらも嬉しそうにしている姿が映った。本当にどこまでも愛おしい。
一年間という空白は大きい。そのせいで、仕草一つ一つが輝いて見える大の大河好き…いや、大河フェチになってしまったらしい。
恋は厄介だ、と誰かが言った。そう。まさにそのとおりだ。恋はそれが叶った後に無限に増えていく相手への愛おしさを残してゆくのだから。


「ねぇ、竜児。向うの学校で教えてもらったことがあるんだけど、試していい?」
食後のお茶の席で大河はそう言った。勿論断る道理なんかない。
「おう!」
「じゃぁ、いっしょにやろ」
「あ、待て。まだ飲みかけなんだよ」
「いいから!後ででも飲めるでしょ」
ぐい袖をと引っ張られる。そのとき、大河の手が俺の手とちょっとぶつかった。
「あっ!」
たちまちに体温が上昇する。それは大河も同じなようで、顔を朱に染めて手を離された。
「もう!良いから来い!」
「お、おう」
触れた手を少し見つめてから後を追った。
大河は少し開けた場所まで移動して足を止めた。
「じゃぁ、いくよ」
「おう」
「セット」
「は?大河なにやって…」
セットと言った大河は、半身のような体勢をとり体をゆすり始める。
「ツッチーツッチーツッチーツッチー」
理解が追いつかない俺を無視して大河がくるくると回りだす。掛け声も回り方も奇妙だ。
「ツクダンズンブグン、ツクダンズンブングン」
ツッチーが終わると、今度はこれまた奇妙な掛け声に合わせて奇妙なダンスをしだした。先が見えないというものじゃない。先がないような行動に止めることもできない。
「エショパンポンションペンションパンションタンツンサンパーツン」
「あの…大河?」
一応締めみたいだったので、この終始奇妙な行動が何なのか聞いてみる。
「やれよぉぉぉぉぉお!!!」
「えぇぇぇぇ!!」

一年間の空白は大きい…





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