*****

…雀の声が聴こえる。
カーテンの隙間から日差しが漏れている。
どうやら朝を迎えたらしい。
竜児はあどけない三白眼をうっすら開きながら窓を見ていた

「ふぅ…っ!!」
突然右腕に電流が走った。
ふと見ると栗色の長くて柔らかいそれが目に飛び込む。
あぁ…。どうやら昨日はそのまま眠ってしまったようだ。
大河を抱いたままだったので頭の下にあった右腕が痺れていた。
一般的に言う腕枕。
だが今の竜児は推定5歳のガキ。大河の頭を支えるのはちょっと厳しかったのだろう。
その痛いようなくすぐったいような,むず痒い腕をゆっくりと引き抜いていく。
クッと笑いにも似た声を押し殺しながら無事生還。
「ぅへー。ジンジンする」
ブンブンと手を振り痺れをなくそうとするが効果ナシ。
なんだか余計に痺れてきた…。
ふと横で寝ている大河を見る…。
あっ…瞼が赤くなって軽く腫れて…
竜児はこの状態をここ数日間目撃してる。

退院してから毎朝,大河に会う度に赤く腫れていた。原因を聞いてみても「ただの夜更かし&寝不足よ」の一点張りだった。
でもそれは嘘。
竜児は昨日ので分かってしまった。
「…俺を想って毎日独りで泣いてたんだな…」
気付かなくてごめん。っと髪を優しく撫でる。

竜児はまだ気付いていない。
自分の気持ちが誰かに傾き始めてることを…。


朝9時半過ぎ。
まだ目を覚まさないお姫様を残し竜児は家を出た。

【ありがとう。さよなら。】

と書き置きを残して…。


***


朝9時半過ぎ。
パタンと扉が閉まる音で1人の少女が目を覚ました。

「ん…朝かぁ」
大河様お目覚めである。
因みにどちらかと言うと昼に近い。

「う〜また目が開かない」
大河はここ最近これだ。
毎日泣いてる間に眠りに落ちてしまう。だから涙でガチガチに固まった睫毛と瞼を思いっきり手で擦る。
「ふぅ…やっと開いた…あれ?」
ようやく開かれた目に映ったのは昨日と違う風景。

そう。竜児がいない

「竜児…?」
トイレかな?と思いまだ重たい体を起こし寝室を出てトイレへ…

「りゅーじーいるのー?」
ドンドンと扉を叩く。
だが返事はない…扉も開くし誰もいない。
きっとリビングだろう。
そう思い一端寝室に戻って着替える。

「今日は天気いいし、あいつを思いっきり楽しませてやろう♪」
大河がこう思うのも当然。
昨日出会ったばっかだけど,まだ5歳の子供で家なき子…つまり親はいない。
大河と同じ独りぼっちなのだ。
それにつきあの竜児にソックリときたら大河はチビ竜児が可愛くて可愛くて仕方ないのだ。

ヒラヒラフリルが可愛らしい大河お気に入りのワンピースを纏いリビングに向かう。
ガチャと扉を開ける
「竜児おは……ょ…」
だがそこには誰もいない。その代わりテーブルに一枚の紙があり手に取る。
「…何よ…これ…」
見た途端身震い。
やだやだやだ!なんで!?こっちの竜児までいなくなっちゃうの!?そんなの…
クシャッと紙を握りしめる
「…嫌だ!!」

大河は家を飛び出した。


****


ただ今10時ちょい過ぎ。
竜児は今商店街に来ている。

大河の家を出て一端高須家へ行き財布を手にとりここにいる。
なんの為かって?
そんなの決まってるだろ!!あの爺さんを見つけ出していい加減この体を元に戻す為だ!

体が小さい分商店街を廻るのもかなり時間が掛かる。
竜児は息を切らしながら探し回った。
そして30分後,ついに…
「あっ!!いた!!」
爺さんを見つけ出した。

そして竜児が声を出したと同時に竜児からは聞こえない後ろの方でもう1人声をあげていた。
「あっ!!いた!!」
竜児を探して飛び出した大河だった。

「ちょっと,りゅー「おいっ!!爺さん!!」…っ!?」
竜児を呼び止めようとした大河だったが昨日とどこか雰囲気の違う竜児の叫びで言葉を詰まらせた。
そのまま電柱の影に身を隠して姿声を盗み見る。

「ん〜?なんだい?僕?」
お爺さんは優しく訪ねた。
「僕じゃねえ!!俺は17歳だ!!」
「ははは。面白い事言うねぇ。なんの遊びだい?」
竜児は怒鳴るように否定したが爺さんはまともに受け取ってはくれない。

「遊びでもなんでもねぇよ!あんた一昨日の夕方に試供品のジュース配ってたろ!?」
あぁ,あぁ配ってたねぇ。っと穏やかに頷く。
「その時に…めっ…目つきの悪い高校生の男に会ってジュース渡しただろ!?」
自分でコンプレックスな所を言うのを戸惑いつつ声をあげる。
「はて?…ん〜…はっ!うんうん。渡したねぇ。あれ?僕その高校生にソックリだねぇ」
「それ俺なんだよ!!俺は高須竜児。あのジュース飲んだせいでこんな体になっちまったが歴とした17歳の高校生2年生だ!!」
「あれま!こりゃおったまげた。」
両手を顔の横で開きビックリ表現する爺さん。
可愛くねぇよ…。

「兎に角俺を元に戻せ!!」
「それはだねぇ〜…」

「…今の話し…本当…?」
爺さんが口を開いた瞬間後ろから別の声がした…





「……えっ!?」
竜児には嫌と言う程聞き覚えのある声。
まさか…嘘だろ…?
そしてゆっくりと振り返り見上げる。
あぁ…誰か嘘だと言っ…
「あっ…あぁ…」
もちろんそこにいたのは
「あ…たっ…大河ぉ姉ちゃん…」
最強にして最恐の手乗りタイガー降臨である。


「おやおや。また可愛らしい女の子だね。小学生くらいかな?僕のお姉ちゃん?」
このジジイ空気読めよ!!そんな和やかムードじゃないってば!!
「いや…だから」
「ぉ〜お,すまんすまん。君は高校生の高須君だったね」
だー!!だから空気読めって!!
ぐしゃぐしゃと頭を乱暴にかきむしりながら内心突っ込みを入れる。

「…竜児」
「はっはひぃ〜!?」
突然名前を呼ばれる
そりゃ声も裏返るわな。
「今の話し…本当なの…?」
「ああああの…」
「…嘘でしょ?」
「いや…あの…ですかかから…」
「今なら笑って許してあげるから…嘘よね?」
「〜〜〜〜〜っ」
もう声にもならない。
「竜児!!!」
「〜〜っっごめんなさい!!」
俺はその場で土下座した。
周囲からあんな小さい子に…とかいろいろ聞こえてくるが関係ない。
プライド?そんなもんとっくの昔にどぶ川に捨てたわ!!

「いっ…」
いっ…?チラッと大河を見る
「いぃぃぃいやぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!」
「ぉおう!?」
いかん!大河が壊れた!両手を頭に抱え上下左右に頭、体をブンブン振り回し悶える。
な…なんとカオスな状況なんだ。
周囲の目が余計に痛い!

「うそうそうそ!あんたほんとの本当にあの竜児なの!?…えっ?じゃあ何?…って事は…お…お風呂とか…寝るのとか…話した事とか…ぜ…全部竜児と………いぃぃぃいやぁぁぁぁぁぁぁ〜〜!」

あぁ…また壊れた。
誰か止めて…。





「たたたた大河!すまん!だっ…騙すつもりはなかったんだ!ただタイミングを逃したと言うか…だから、な。と…取り敢えず落ち着け。」
そう。ここは商店街。
公衆の面前落ち着いてもらわなければ困る。
ただでさえ土下座やら奇声やらで目立ちまくってんだから。

「落ち着けだぁ〜?こ…こここれが落ち着いていられるかぁぁぁ!」
ぁぁぁ。頼むから後で罵声でも殴る蹴るでもなんでも引き受けるから今は…
「ほっほっほっ。元気がいいね。お嬢さん。」
「…んだと!ごるらぁ!」
普段滑舌悪いくせにこうゆう巻き舌は得意なんだなこいつは…って爺さんよ。本当マジ空気読んで下さい。タイミング悪いです。

***


あの後近くにあったドーナツを速攻で買いに行き大河の口に無理矢理押し込めて、なんとか少し落ち着かせる事ができた。

「ほっほっ。高須君とやら、どうもあのジュースのせいでいろいろ大変だったみたいだね。」
「いや…ほんとマジで大変でした…」
「…ちっ!」モグモグ
大河さん舌打ちやめて…
「で、戻る方法だけど。高須君好きな子はいるかい?」
「えっ!?」
「!!」
この爺さん何をいきなり色気話しを振ってくんだ?
大河も隣で驚いてる。
「いや…あの…」
「いるわよ…」
えっ!?大河…?
「竜児にはちゃんと好きな子がいる!!」
答えたのは大河だった。「おまっ何言って…」
「ふむ。よし!で、改めて戻る方法だが,その高須君が本当に好きな子から接吻…つまりキスして貰えれば戻ると思うよ。」
「えっ!?」
「はっ!?」
「「…キスぅ〜!?」」



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