今の生活になってから時が経ち、竜児もまたいろいろな変化に気づいた。
大河が転校した後、下級生の間では今「手乗りタイガー」はもはや伝説の扱いになりつつあり、以前ならヤンキー扱いで恐れられていた竜児も、意外と人気者になった。
しかも、大河の存在を知らない1年生は結構告白してくる。まあ、当然断るしかないのだけども。
あと、元2-Cの連中がやたら能登と木原をプッシュするようになった。
主に北村や春田、そして香椎が中心ではあったが。どこか微妙な雰囲気の二人のやり取りを見ていると、どこか初々しく懐かしい。まあ、そんなことをいえば「お前が言うな」と一蹴されるだろうが。

高校生活最後の夏休み。
去年に続いて、伊豆半島の川嶋家の別荘に行った。
竜児、北村、亜美、実乃梨、今年はそこに能登、春田、木原、香椎、そして一時帰国していた兄貴(すみれ)と、去年にましてにぎやかだった。
しかし、大河は来なかった。まあ当然だろう。向こうからは飛行機で片道2時間、割引込みでも飛行機代は馬鹿にならない。
それに東京に来れば、あの「くそオヤジ」にとっつかまる可能性もなくはない。見つかれば有無を言わさず引き戻されるだろう。
そして、大河の中にある、あの決意。おそらく今竜児と会えば、大河のことだ、また甘えてしまうに違いない。
「タイガーのやつ『しばらくは親元でがんばる』って言ってたもんね。ま、しょうがないか。」
と、少し憂いを帯びた表情を見せる亜美が言った。

これだけの面子がそろうと、話題はおのずと大河のことになってくる。
さすがだよ明智君、キミたちだからこそあれだけの距離があっても続くのよ、と実乃梨。
しばらくいない間にすごい事になってるな、まさかお前らがな・・・。と笑うのは兄貴。傍らの北村が、いやいや、運命の二人ですよ。と大真面目な顔で言う。
ほんとすげーよなー、たかっちゃんすげーよー、と春田。
高須君とタイガーちゃんの事見習ったほうがいいかもね、とボソッと言うのは香椎。そして、その言葉に思わず赤面する能登と木原。

そのみんなの声に、これだけの人に支えられているという実感を抱いた。失恋大明神だけが恋の応援団ではなかったのだ。
竜虎は並び立つもの、だからいつか必ず・・・とは言ったが、不安にならない事もない。

大丈夫、これだけの支えがあれば、この先もがんばれる。


―――――――――


2学期に入り、大橋高校では早速文化祭の準備が始まった。
竜児のクラスは「幸せの手乗りタイガー伝説」なんて芝居をやった。
去年の文化祭後の実話にだいぶ脚色を付けたものだったが、そこはさすがの劇団春田、3回の公演はすべて超満員だった。
当の竜児は裏方に徹したが、なかなかによく出来たものだとは思った。ただ、竜児から話を聞かされた大河はお気に召さないようだったが。
そして生徒会の選挙には『不幸の黒猫』こと富家幸太が会長に、兄貴の妹・さくらも書記に立候補。
もちろん二人とも当選し、「北村会長と兄貴に次ぐ大物カップル」としてもてはやされるようになった。
そしてそれらを過ぎると、3年生は一気に受験モードに突入した。

――――――

11月半ば、金曜夜のジョニーズ。
能登「いやー、勉強も結構しんどくなってきたな…。そこそこ点数取れたからいいけど」
春田「進路決めたらなんか勉強する気なくなって来たな〜」
竜児「何が『決めたら』だよ。親父さんの仕事継ぐだけじゃねーか」
能登「そうだぞ。っていうか元々勉強する気なんか無いだろ」
春田「のののん♪(←けいおん!的な意味で)おれは〜芸大に行って〜楽しいキャンパスライフをエンジョイするんだ〜」
二人「………(彼女さんの影響か…)」
春田「そういえばさー、北村大先生アメリカ行くってマジなのー?」
竜児「本人がそういってるんだからそうなんだろ。ま、大方元会長絡みなんだろうけどな。」
能登「若干ストーカー気質な所があるからな…。でもあの意気込みは覚悟入ってるよな。今日もHR終わってからそっこー帰ったもんな」
竜児「会長が宇宙に行くってんだから、北村も宇宙でもどこでも行くつもりなんだろうな。本気で好きじゃなきゃできねーよ」
春田「たかっちゃんはどうなのー?たいが〜のことすっげー気になるんだけど」
能登「たしかにな。今熊本にいるんだっけ?いつ東京に戻るとか聞いてるのか?ってか一緒に暮らすの?」
竜児「いや、決まってない。聞くにも聞きづらいし…」
能登「そうだよな。事情が事情なわけだし」
ちゃんと聞いたわけではないが、大河の父はいまだ東京近辺に息を潜めてるらしい。
資産は差し押さえ、父の自宅の電話は止められ、ケータイも母娘で着信拒否にしたため、現在は音信不通だとか。
大河たちの居場所も教えてないので、いろんなつてをたどって探しているらしい。
実際、竜児の元にも来たのだが、「どこに行ったかもわからないし、知ってたとしてあなたに教える気は欠片も無いから帰ってくれ」と一蹴した。
手元に金があれば探偵でも雇ってただろうが、ほぼ無一文の彼なら、そろそろ諦めるしかないだろう。
ほとぼりが醒めれば戻ってくるはず。そうすれば、また二人、いや三人で過ごせる日が来るだろう。


――――――――――――――――――


一方、大河の方も、それとなく進路の話題が出てきていた。
大河「そういえば、進路もう決まっとーと?」
涼子「うち医療関係目指してるけん、東京の方の医科大に進むつもりたい」
ゆかり「…大河、今なんて聞こえよっと?」
大河「玉の輿目指すけん、東京でよか男捕まえるたい」
春菜「さっすが大河、涼子語の翻訳ば宇宙一たい」
涼子「ばっ!そろいもそろってなんば言いよっとね?うちはこれでも」
大河「はいはい、涼子はちかっぱもてとるばい。で、ゆかりは?」
ゆかり「福岡出て商業系の専門校行くたい。とりあえず簿記検定くらいはとっとっと思うとね」
春菜「うちも美容院継ぐけん、福岡の美容専門なんとかってとこに決めたばい。大河はどうすっと?」
大河「なかなか決まんにゃあ。ほんとは東京戻りたいばってん、親の都合考えるとそげんやおいかんと、たいが悩んどるばい」
春菜「そりゃしょんなか。でも、彼氏も東京で待っとっと?なったけ早よ帰った方がよかね」
大河「うーん…」
そう、こっちに来ても、進路の悩みは変わらず付いてきた。
とりあえず高校は卒業するつもりだが、今まで何も考えてなかったために窮地に立たされている状態だ。
まあ「竜児のお嫁さんになるっ☆」ってのも一つの道だが、まあそれはゴールでありすぐ可能というわけでは無かろう。
涼子「大河がたいが悩んどるとはのう。さては自分、彼氏と早よぼぼしとうて」
ゆかり「涼子、よう昼間から言いよるばい。付き合いだしたばかりじゃけん、そげんこつしとる訳…」
大河「………///」
ゆかり「え…、そこで黙る…?」
春菜「……まさか」
…………そう、そうです。そのまさかなんです。
逢坂大河18歳、人生最大の悩みどころ。この微妙な空気を、どうやって切り抜けよう。



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↓オリキャラの設定
涼子…イメージ的にはインドアなみのりん。
ゆかり…とりあえず、名前の元ネタは福岡といえば…な某声優(熊本だけど)。涼子がボケならつっこみのつもり。
春菜…ポジション的には奈々子様…と思ったけど違うか。

ちなみに、熊本弁では
・たいが(たいぎゃ)→とても、かなり
・なったけ→できるだけ
・ぼぼ→要するにギシアン


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