【出会ったばかりの頃】
夕食時。いつものように竜児が食事を持ってくるのを待つ大河。
「竜児〜、メシまだ〜?」
「そんなに早く食べたいなら少しは手伝え!」
「うるさい!犬の分際で生意気な!」
この発言に少しイラッときた竜児。仕返しにちょっと意地悪をしてやる。
「ったく、こんな調子だったら北村にも嫌われるぞ」
「ハッ!」
「つまり、お前も少しは思いやりってもんを…
 そうしないと、いつまでたっても北村とお前は…」
「グスッ」
「って、おい! 何泣いてんだよ!」
「何よ!何よ何よ!全部私が悪いって言うの?
 あんたは私と北村君との仲を取り持ってくれるって約束したでしょ?それなのに…」
「分かった、分かったから、もう泣くな! 俺が悪かった!」
結局夕食後の大河は、自分のお皿を流しに持っていき、そのまま竜児の家を後にした。



【そして冬】
同じく夕食時。
「竜児、ご飯まだ?」
「ほら、あとはテーブルに運ぶだけだ
 …って、今日はいっしょに運んでくれるのか?ありがとな」
「ふん、ありがたく思いなさい、駄犬」
大河なりのこの気遣いに応えようとして、竜児は大河が喜びそうな事を言った。
「そう言えば最近お前、北村と普通に話せるようになったな」
「へ?」
「今日の昼休みなんかお前たち、すごく楽しそうに話してたじゃないか。
 そう言えば、前に北村もお前のことをすごくいい女友達だって言っていたぞ。
 ほんとに良かったな。お前達が仲良くしているのを見ると俺もうれしいぞ」
「グスッ」
「え?大河? な、なぜ泣く! 俺何も…」
「うるさい!何よ何よ!私の気も知らないで!私は…私は…」
その後、口をきかなくなった大河は、自分の皿を片づけることもなく、
ただ横になって不貞寝してしまった。
竜児が大河の泣いた理由を知るのはもう少し先の話である。 





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