高須家のリビングで手乗りタイガーが凶暴な声を上げ始めた。
「せーなーかーがー!かーゆーいー!」
時は真夏。風通しを良くするために、竜児が開け放した窓から蚊が入り、大河をさしたらしい。

「ねえ、竜児っ!!」
クルリ。背中をかけ、とばかりに大河は竜児に背中をむける。ちっこい大河では、かゆい所に手がとどかないようだ。
「おう」
大河の背中をかいてやろう、と竜児は大河の背後によっていく。

「駄犬!!このあたり、このあたり!」
大河の短い腕がさししめすあたりを、カリカリとかいてやる。
「バカ駄犬っ。そこじゃなくて!もっと、こっちっ!」
「ここか?」
「ちーがーう!!」
竜児の手がなかなか大河のかいてほしい所にヒットしない。
大河がクルリと振り向き、凶暴な眼で竜児を見る。
「もっとひだりっ」
「ここ?」
「そう!そう!」
やっとヒット。
「竜児―、きもちいいー」
大河は安心しきった笑顔を見せて喜んでいる。

よかった、よかった、きもちいか、そうか、そうか。
竜児もグルーミングをしているサルのような、おだやかな気持ちになる。
テレビではのんびりバラエティー番組が流れ、テーブルの上には良く冷えた麦茶。
まったりすぎる夏の午後だ。

ガリッ。「いたっ」大河が小さく声をあげる。
俺としたことがボーッとしていて、つい大河の背中に爪をたててしまったようだ。
「大河?大丈夫か?」
「うん・・・。あの、ちょっと血でたかも。竜児たしかめてよ。」
「おう、ごめんな。」

いそいで、大河の服をめくって、傷を確かめる。大河の着ているヒラヒラブラウスの背中をまくりあげる。何の気なしに。

「どう、竜児、怪我してる?」
「あっ・・・、ああ・・」

何の気なしにまくりあげたブラウス。ってか、背中!大河の背中!
眼にしみるように真っ白な背中は、俺の爪のせいでちょっと血がにじんでいた。その上にピンクのブラがのぞいていた。

ちかっていうが、俺は大河を女として意識したことはない。
俺にはれっきとした好きな人がおり、その人以外俺には女じゃないから。
でも、大河さん。これは反則じゃなかろうか。思わず息子が反応するのは、もはや俺のせいではない、と思いたい

「ってか、俺つめたてちゃったみたい。血でてる、ゴメン!」
急いでブラウスを元に戻す。あせる。

「そっか、ありがとね竜児。ところでさー、私北村君とー」
俺の動揺に何一つ気づかず、大河は北村と付き合ったら何がしたいのと己の恋愛妄想を繰り広げはじめた。うんうん相槌をうちながら聞く俺の心の中を何一つしらないで。





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