「ねえ竜児、さっきからチマチマと何してるのよ?」
「見りゃわかるだろ、梅の実のヘタを取ってるんだよ。
 どうせ暇なんだし、手伝ってくれないか?」
「めんどくさいから嫌。
 そうじゃなくて、何でそんなことしてるのかってこと」
「何でって……梅干しに梅酒に梅シロップ、この時期の常識じゃねえか」
「少なくとも普通の高校生の常識じゃないことは確かね。
 大体梅干しなんてわざわざ作らなくても、そこらへんで売ってるじゃない」
「売ってるのは変に調味料で味付けされたり減塩だったりするから嫌なんだよ。
 やっぱり梅干しってのは昔ながらの塩と赤紫蘇だけで漬けたやつじゃねえとな」
「ふ〜ん……そんなもんなんだ」
「おう。ところで大河、そのことでちょっと頼みがあるんだが……」
「何よ、あくまでご主人様に手伝わせようっての?この駄犬」
「そうじゃなくてだな……梅干しを天日干しするときに、おまえんちのベランダを貸してほしいんだよ。
 うちはこの通りまともに日が差さなくなっちまったから」
「梅干しって……干すものなの?」
「だから『梅干し』っていうんだろうが」




  〜一年後〜


「ねえ竜児、今年も梅干しとか作るんでしょ?手伝うわよ」
「おう、助かるが……やけに積極的だな?」
「そ、そんなことないわよ」
「まあいいか。それじゃ今年は大河の好きな梅シロップを多めに作るかな」

「……しまった」
「何よ、突然」
「いや、いつもの感覚で梅干し漬けちまったが……考えたら今年は天日干しできる場所がねえ。
 しかたがねえから梅漬けだけで我慢するしかないか……」
「それなら、うちのベランダ使う?こんどのマンションも日当たりいいわよ」
「いや、いくら恋人の家でもいきなり『梅干し干させて下さい』とか頼むわけにはいかねえだろ、常識的に」
「それなら、干すまでにはまだ時間あるんだし、それまでに竜児が頼めるぐらいまでママ達と仲良くなればいいのよ!
 上手くすれば、それで早く結婚できるようになるかもしれないし……」
「まさか……最初からそれが狙いか?」
「な、なんのことかしら?」






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