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「おう、なんだぁ?俺の飯に文句があるってのか」

普段と違う大河に、竜児もいきなりの低い声。たった3秒で一気に臨戦態勢になった二人は、どちらとも無く、ずいと立ち上がった。いい気になってうわさ話をしていた連中は、今や息をするのも忘れて二人を見ている。

「なによ、あたしに逆らおうっての?」
「けっ、でかいツラしやがって。女だからって手加減してやってんのがわかんねえのか」

エスカレートする二人を見ていた2年生が思わず「すげ、手乗りタイガー対ヤンキー高須か」と、笑ったのが運の尽きだった。

「ああああああぁ????」

と声を上げた竜児が目を眇めてその男子を見る。思わず尻でずり下がる2年生。

「おう、高見の見物のつもりか。お前2年だろ。名前言ってみろ」

すごまれて声も出ない男子。ギャラリーも、コントロールを失った状況に、助けを出すことすら出来ない。

「ちょっと、竜児。喧嘩の相手間違えてんじゃない?ギャラリーなんかほっときゃいいのよ。あんたつぶした後に全部殺せば目撃者もいないし一石二鳥よ」

鳥肌を立ててギャラリーが言葉の意味を噛みしめている頃合いに、はかったように大河が振り向く。あちこちでひっと声が上がる。

「お前ら見てんじゃねぇぞ!」

竜児が大声を張り上げたのが引き金となった。慌てて弁当箱をひっつかんだ生徒達が声も出せずに逃げ始めた。屋上は一瞬でパニック。我先にと逃げる生徒はものの15秒で姿を消した。残るは竜児と大河の二人のみ。

「さ、飯、飯!」
「あー、お腹すいた!」

再び座り込んだ二人は、何事もなかったように弁当に手をつける。

「結構効き目あるな」
「あんた怖すぎるのよ、その目」
「お前のほうが怖がられてたぞ」
「いやぁ、あんたの目には負けるわ。女子泣いてたわよ」
「そうか?」

実乃梨が大河に貸してくれた漫画を、二人して夜遅くまで読みふけったのが昨日の晩のこと。「喧嘩したふり」なんて見え見えの作戦が通じるかよ!と竜児はつっこんだのだが、いざ自分たちがやってみるとびっくりするほど効果があった。

「あんた、あの漫画机に置きっぱなしじゃない?やっちゃんに見せない方がいいわよ。えぐいし」
「大丈夫だろ。てか、ああいう柄の悪い顔つきの絵、泰子は結構好きだぞ」
「……………そう…」
「……………お前、今なんか失礼な事考えたろ!弁当返せ!」
「知らないわよ!」

せっかくのいい天気。せっかく嘘の喧嘩までして二人っきりになれたのに、つまらない喧嘩ばかり。クラスメートが関わらないのは実に賢明である。二人がいくらなんと言おうと、付き合っていないと言おうと、見て見ぬ振りを通す方がいい。関わらない方がいい。
だって、言うではないか。

夫婦げんかは犬も食わない、と。



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