「俺と付き合ってください!」

気弱な男子Aの一世一代の大告白。

「俺、お前の事…その、す、好きかも」

明るく交友的なイケメン男子Cの少し照れながらの告白。

「愛してます!」

夢ある思春期に何を間違ったのか、女の身でありながら想いを告げる少女D。
それらに彼女は決まってこう答えた。

「あんたの気持ちは判ったわ。で、うちのお父さんより家事上手く出来んの?」

それに胸を張ってイエスと答え、散って行った者のなんと多き事か。



彼女の名は高須竜河、16歳。断りを入れておくが、決してお父さんと結婚したい
願望持ちの実父愛者ではない。
高須家の長女として産まれてこの方16年。見つめ続けた両親の背中はくっついて
いるか重なっているかだけ。
キスなんて朝だけで平均6回。
内訳は、おはように2+α回。ご馳走様で1+α回。ちょっとした空き時間に2
+α回。行ってきますで1+α回となっている。
そんなラブラブな両親の間に自分は娘とでしか入れない事は、文字を読めるよう
になったぐらいから判っている。
彼女にとって父親とは、男を測る目安なのだ。ただ、目安と言うには少し高すぎ
るのだけど。

「お前は人に好かれるより、まず誰かを好くことから始めろ」

父親は、傷心の男子を量産する竜河に対してよくそう言う。
その台詞も最近聞き飽きて来たので、ちょっと仕返しをしてやった。
そして、その結果がこれだ。
眼の前に突き付けられた木刀に視界の端で揺れるFカップ。そして、白くなって
沈む父親。
激情と歓喜と絶望が同時に入り交じる食卓なんて、高須家ぐらいなものだ。






「絶対に呼びなさい。下らない犬だったら、お母さんがそいつの首折るけどね」

殺気が半端ない。直接向けられた訳じゃないのに、戦慄を覚えてしまう。

「や〜ん、ルカちゃんたら〜。このこの〜」

温度差が激しい。というか、胸を当てないで欲しい。虚しくなるから。胸をつん
つんしないで欲しい。悲しくなるから。

「お、おう。い、良い事じゃねぇか。祝ってやらねぇとな。そうだ、今日は赤い
飯と鳥のにっころがしとかに味噌のポタージュにしよう。ハハッ、ハハハ」

そして一番怖いのがこちらである。虚空を見つめたままぼそぼそと搾り出された
言葉に生気は無く、発言も常軌を逸っしている。

「と、と、と、とととり、とりっ、ととりとりっ」

三代目インコちゃんが竜児の発言の一部分を聞き取り、同類の肉が調理される怒
りと恐怖に顔を引き攣らせ、呪文のように『と』と『り』を連呼する。

「嘘よ嘘!彼氏がいるなんて嘘なの!だから、んな反応しないでよ!」

狂喜入り交じる空気に耐え切れなくなり、ついつい自白してしまった。
濃縮された空気がゆっくりと洗浄されてゆく。

「わ、わかってたわよそのぐらい」

母は意地を張っている。

「え〜、楽しくな〜い」

おば…やっちゃんは不服そうだ。

「……。」

父は安堵から力が抜けたのか、床に伏せて動かない。

「と、とりっ、とりっとりっ」

インコちゃんは変わっていない。
目まぐるしく変わる家族達に意識せず顔に笑みが燈る。
こんなにも楽しく騒がしく幸せな家庭を竜河は他には知らない。
たまに喧嘩もするが、総じてこの家族が本心から好きなんだと改めて認識したの
だ。
そう、幸せだ。
ハッと目を見開く。家、幸せ、好き、という単語が竜河の頭の中に有る人物の顔
を過ぎらせたからだ。
過ぎっただけで上気する自分の顔にさらに気付かされる。父を目安にしているの
は、本命がいることを隠しておきたいだけなのではないかと。

「と、富家君なら…い、良いかも……」

竜河が、自分が零した発言で空気がピシリと固まった事に気付くのは無事に妄想から帰還してからで
ある。





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