大河と二人で写った写真を胸に今日も高校生活を謳歌する。話せる人数も少しは増えたし、今も春田と能登の三人で雑談中だ。
二人の話はくだらないことばかりだが俺はそれなりに楽しんでいる。

「良いなぁ、高須は。逢坂に毎日お茶を用意してもらってるし、何かあれば『高須君!』だしな」

「そうか?お前らだってお茶を貰ってじゃねぇか」
「なんか高須のついでにって感じだけどな」

「そんなことないだろ、それにお前が『逢坂はみんなに平等』だって俺に言ったじゃないか」

「俺も高っちゃんが羨ましいよ、大河ちゃんや奈々子様と仲良くできてさ」

俺と大河の噂は日々膨らんで行く一方だった。人の噂もナンタラと、沈静化するのをジッと待っているがその気配がしない。
どうしたもんかな…

「そうだ!高須、合コンしようぜ!合コン」

「ハァ?合コン?」

「良いねー!能登っち。やろうよ合コン!」

お前らは慣れたかもしれないが、まだ俺を恐怖の対象にしてる奴は学校にもたくさん居るんだ。
それなのに知らない連中だったら尚更だろ。

「俺が行っても相手を怖がらせるだけだぞ、多分」
「そんなことないさ!それに今回は高須の協力が絶対に必要なんだ」

「俺の?俺が合コンに協力できることなんて無いぞ」
「あるんだなぁ、これが。高須は逢坂や香椎と仲良いだろ、だから2人に頼んでさ」

「待て!クラスメートを呼んで合コンなのか?それはただ遊びに行くだけじゃないのか?」

「いや!合コンなんだよ、高須」

「そうなのか?俺は全然そうゆうこと知らないからな… 合コンなのか…」
「だけど、香椎とはそんなに親しくないぞ」

「嘘つけ!偶に2人っきりで話してるじゃないか」
「知らん」

「高っちゃ〜ん、合コンしようよ〜。もしかしたら運命の彼女に会えるかもしれないよ?」

「何を夢見る乙女みたいなこと言ってんだ」

「失礼だな、高っちゃんは。俺って恋愛は真面目に考えるタイプなんだよ」
「悪かったよ、春田。お前の考え方は立派だ」
「じゃあな」

「ちょっと!待ってくれ高須!」



「こうなったら実力行使だ、香椎!高須が何か話しがあるって!」
「能登!お前!」

能登の一言で香椎がこちらに向かって来る。本当に香椎とはスーパーで会ったら話すだけで、そんなに親しくないんだ。

確かに一度だけお茶に誘われたが、でもあれは香椎がお礼がしたいからって言ったからだ。
それに俺は未だに何のお礼なのか分からない。理由を聞く為にお茶につき合ったのに、香椎は最後まで教えてくれなかったしな。

でもどうすんだよ… 俺が『合コンしようぜ!』とか言わないといけないのか?
待てまて、俺は合コンなんて望んでない。真相を話して香椎にはお引き取り願うか。

「あのな、香椎」

意外なことに、香椎は俺の言葉に振り向きもせず歩みを続けた。

「なに?能登君、合コンしたいの?」

「えっ?!」
「だって名前と合コンって交互に連呼されたらね」
「聞こえてた?」

「そりゃ聞こえるでしょ、教室であんなに大きな声で話してたら」
「すいません…」

「合コンはあれだけど、放課後にお茶するくらいなら良いよ」
「本当ですか!」

「うん良いよ、みんなで」
「なんだ、そうゆうことか…」
「私は麻耶を誘うから、高須君も逢坂さんや櫛枝さんも誘えば?」

「あぁ、誘ってみるよ」

「それじゃ、放課後ね」

何でお前はそんなに満足げな顔で勝ち誇ってんだ能登。結局、合コンはできなかったじゃないか。

「まぁ当初の予定とは違うが、まずまずの結果だな」
「そうなのか?」

「そうなんだよ、高須!」
「だからお前も早く逢坂と櫛枝を誘ってこい!」



大河と櫛枝をお茶に誘うのか… 缶コーヒーを買うだけで怒られるのに、ショップのお茶に誘うなんて出来るのか?
また怒られるかな、大河に… ファミレスのドリンクバーなら怒られないか?

「あのさ、今日の放課後にみんなでお茶に行くことになったんだけど…」

「行ってきたら?」

「あらあら、高須君は友達と出掛けるのもお伺いを立てないといけないのかい?大河も凄いねぇ」

「そんなことないよ!」
「もう、そんなことで私に聞きに来なくていいよ〜」
止めてくれ櫛枝!これから怒られるかもしれないのに先に怒らせないでくれ。

「違うんだ!2人にも来て欲しいんだ!」

「何だ、そうゆうことか。でも私は今日も部活経由バイトなんだ、ごめんよ高須君」

「そうか、それは残念だな。大河は良いかな?」
「良いよ」

良かった〜 能登、俺の使命は果たしたぞ。
あぁホッとした〜 これで肩の荷が降りた。今のは普段の大河、怒られずに済んだ。

「あら、奥様!『大河』ですってよ!」
《くぅしえだぁー!!!》
「櫛枝!!大河から話しは聞いてるだろ、それに奥様って誰だよ!」

「ごめん、ごめん。つい、2人を見てたら私の本能が勝手に発動しちゃった」

「本能で奥様って何だよ… 櫛枝、あんまり変な物ばっかり見たり読んだりしない方が良いぞ」

「そうだよ、みのりん。みのりんはせっかく可愛いんだから、変な事ばっかりしなければ良いのに」
「……しどいよ!2人してぇ〜!」ガタン! タッタッタッ…

『しどいよ』? …あぁ『酷いよ』ってことか、やっぱり櫛枝は変わってるな…
ルックスは本当に良いのにな、MOTTAINAI。

「大河、追っかけなくてよいのか?」

「うん、大丈夫だと思う。いつものことだから、そのうち戻って来るよ」

「そうか、大河も大変なんだな」
「うん、偶にみのりんが理解できないの。でもみのりんのこと好きだし、何をしても憎めないんだよねぇ」

「そうだな、櫛枝は嫌いになれないな」
「うん!」


+×+


「えっ?男子と一緒にお茶?」
「うん、高須君と能登君と春田君、あと逢坂さんと櫛枝さんも来るかな」

「……北村君は?」

「どうかな?でも高須君が誘って来るかもね」

「う〜ん……」

北村君は来るか分からないのか… 来なかったら行く意味ないしなぁ、でも来るかもしれないしなぁ…

「とりあえず行ってみない?嫌だったらすぐ帰れば良いし。ネッ、麻耶」

「そうだね、奈々子1人を行かせるのもアレだしね」
「ありがとう。みんな先にファミレスで待ってるって」

ファミレスに向いながらも頭の中は北村君のことでいっぱい、来るかな北村君。

「ねぇ麻耶、そんな考え事しながら歩いてたら危ないよ」

「ごめん!危ないよね、気をつけなくちゃね」

そうだよね、私が考えても結果は替わらないもんね。北村君もう着いてるかな…
ちがぁーう!他のこと、他のこと考えなくちゃ。

「麻耶、危ないって!」
「あぁ!ごめんなさい」

「また、北村君のこと考えるの?本当に好きだよねぇ」
「そんなことないよ!」

「本当に?」

もう北村君のこと考えちゃダメ!とにかく考えごとするからダメなのよ。
そうだよ!奈々子が一緒なんだから奈々子と話せば良いんだよ!奈々子と… 奈々子?
そういえば奈々子の好みって聞いたことないな…

「ねぇ奈々子はどんな人がタイプなの?」
「タイプって男の人の?」
「そうだよ、そのタイプ!いつも私のことばっかりで奈々子の好みとか聞いたことないし」

「…そうだな、優しい人が良いかな。少し鈍感な人でも良いから、ずっと私だけを見てくれる人」
「私の家って親が離婚してるじゃない」

「…うん」

「だから憧れるのよ、共に添い遂げるってことに」
「そうなんだ…」

まいったな、軽い気持ちで聞いたんだけどな… 奈々子がこんなに真剣に答えてくれるなんて。
でも奈々子が好きになる人って、実際にはどんな人なんだろ。


+×+


逢坂さんたら当然のように高須君の隣に座るのね、やっぱりその位置が落ち着くのかしら。

「悪いな香椎、それに木原もつき合わせて。時間は大丈夫なのか?」

「私は奈々子と寄り道するつもりだったから平気」
「私も大丈夫だよ、それに高須君とお茶するのも久しぶりだし」

「なにそれ奈々子!」
「気になる?麻耶」

「気になる!その話に興味津々だよ!」

「オイオイ香椎。誤解されぞ、その言い方は。1度だけじゃないか、香椎とお茶したのは」

「そんなに強く否定しないでよ。傷つくなぁ、もぅ」
「スマン、でもあの時の『お礼がしたい』って何だ?」
「あの頃はスーパーで見掛けるくらいで、香椎と話したことなんて無かったよな?」

「やっぱり分からないの?」
「あれから考えたけどサッパリだ」

「じゃあ、今日はヒントをあげる。ヒントは子供の頃、それも小さい頃よ」
「そんな昔のことか、思い出すのは無理かもな」

「そんなこと言わないで少しは考えてよ」

「あぁ、頑張ってみるよ」

高須君と奈々子に何があったんだろ?
でも逢坂さんと高須君はつきあってるんじゃないのかな?
逢坂さん、奈々子の話しを楽しそうに聞いてるし、う〜ん… 私には分からないことばかりだな。

「んっ?木原。飲み物が空だけど何か飲むか?」

「えっ?!いいよ、自分で取りに行くから」

「遠慮するな、何が良いんだ?」
「じゃあ、アイスティーを」
「ストレートで良いのか?」
「うん」

でも一番分からないのは高須君だな。思ってたより話し易いし、それに周りに気ばっかり使ってるしな。
あれじゃ『ヤンキー高須』じゃなくて『気づかい高須君』だよ。
もう少し話してみようかな、北村君のこと聞きたいし。



「お待たせ、アイスティーだったよな」

「うん、ありがとう。…ねぇ高須君、今日は北村君は来ないの?」

「あぁ、誘ったけどアイツは部活だし生徒会もあるからな」
「そうなんだ…」

「残念だったね、麻耶」
「奈々子?!」

「そんなに焦ったらバレバレだよ、麻耶。お気に入りなんだよねぇ、北村君のこと」
「奈々子!!」

「へぇ、そうなんだ。それは悪いことしたな、次は北村も必ず連れてくるからな、木原」

「…ありがとう、高須君」

その頃、隣の二人掛けの席では……

「…なぁ能登っち、もう帰って良いかな」
「あぁ帰ろうか、春田」

+×+
香椎さんと木原さん、今までほとんど話したこと無かったけど良い人たちだったな。
今日はいろんなお話しもできたし、これからは学校でも仲良くできるよね。
でも北村君のことを話す木原さん可愛いかったな、恋をするとみんな可愛い女の子になるんだなぁ。

「大河、今日は遅くなったし晩飯は簡単なもので良いよな?」

「うん、やっちゃんも時間ないだろし良いよ」
「でも竜児は香椎さんの言ってたこと全然覚えてないの?」

「覚えてないな、それに小さな頃の記憶なんてあんまり残ってないからな」
「そう、でも思い出さないと香椎さんが可哀想だよ」
「そう言われてもなぁ…」
「やっちゃんに聞いてみたなら?」

「オォ!そうだな、泰子が何か知ってるかもな」

でも、俺が覚えてないことを泰子が覚えてくれてるんだろうか。



「覚えてるよ〜 香椎奈々子ちゃん、奈々ちゃんでしょ?」

意外にも泰子の記憶力は俺より良かったようだ、流石は客商売してるだけあるな。

「竜ちゃん覚えてないの?」
「あぁ」

「やっちゃん、香椎さん今は同じクラスなの」
「えぇ!!」

何でそんなに驚くんだよ?ただでさえ俺は覚えてないんだ、何か緊張してくるじゃないか。

「やっちゃん今日は早くお店に行くんだった!それじゃあ、行ってきまーす」

「オイ、泰子!ちょっと待て」
「嘘をつくな、早く行くにしてもまだ早すぎるはずだ。それにそんな態度をされたら気になるぞ」

逃げようとした泰子を捕まえると、大河をチラチラと見ている。
大河に何か関係することなのか?それに何でそんなに動揺してるんだよ。

「やっちゃん、どうしたの?」
「何を知ってるんだ、気になるぞ」

困ったな〜 大河ちゃんの前でこんな話しをして良いのかなぁ。
それに竜ちゃんは、もう大河ちゃんに好きって言ったのかな?それなら話しても大丈夫だと思うんだけどなぁ。

「教えてくれよ、泰子」

「分かったよ、竜ちゃんがそんなに言うなら話すよ。でもね」

話すこと了承すると、泰子は体の向きを変えた。

「この話は竜ちゃんの小さな時の話しなんだからね」
「えっ?あっ、うん」

何で大河に話してるんだよ、俺に話せよ。



「じゃあ話すよ」
「あぁ、話してくれ」

「奈々ちゃんはね、竜ちゃんのお嫁さんになるって言ってたの」
「…本当か?でも何で」

「何かね、奈々ちゃんがイジメられてるの、竜ちゃんが助けてくれて好きになったんだって」

「そうなのか?でも何で俺は全く覚えてないんだ?」
「竜ちゃんは、奈々ちゃんってゆうか女の子に全然興味なかったみたいだし」

確かに言われてみれば、子供の頃に女の子と遊んだ記憶が無いな…
でも好きって言ってくれる女の子のことも覚えて無いなんて、俺って人として問題があるじゃないか。

「でもね!小さい頃の話だしねぇ〜」

ちゃんと話せたかな?大丈夫かな?大河ちゃん傷ついたりしてないかな?

「カッコ良いね、竜児。イジメられてるの女の子を助けてあげるなんて」

大丈夫かな?…大河ちゃんは自分の気持ちを隠すの上手いからなぁ、心配だな。

「そうか?ありがとう」

「でも覚えてないのは酷いと思うなぁ。だって竜児のお嫁さんになりたいって言ってくれたんだよ」
「そうだよな、明日でも香椎には謝るよ」

「うん、それが良いよ」

「…じゃあ、やっちゃんは仕事に行くね」

「もうそんな時間か、悪かったな飯の準備出来なくて」
「お店で食べるから良いよ、行ってきまーす」

「いってらっしゃい」

「さて、俺たちも飯の準備するか」

「うん、じゃあ私は洗濯するね」



今でも竜児のこと好きなのかな?
それでもし、竜児と香椎さんが恋人なったら私はどうすれば良いんだろ。
やっぱり彼氏の家にクラスメートの女の子が居たら嫌だよね、そしたら私はここに居ちゃダメだ。

でもイヤだよそんなの… 本当の家族になりたいなぁ、そしたらこんなこと考えなくても良いのに。

「大河、出来たぞ」
「は〜い」

竜児はいつも変わらないないな、香椎さんみたいな美人にあんなこと言われて嬉しくないのかな?意識とかしないのかな?

「……やっぱり、嬉しかった?」
「何が?」

「香椎さんにあんなこと言われて… 香椎さんあんなに美人なんだし」

「あぁ、そのことか。まぁ嬉しくないと言ったら嘘になる」

嬉しいのか… バカなこと聞いちゃった。
当然のことだよ、あんな綺麗な人に好きって言われたら嬉しいよね。

「…そうだよね、嬉しいよね。良かったね、竜児!」
「お前は何か勘違いしてないか?所詮は子供の頃の話しだぞ」
「確かに香椎は美人だとは思うけど、それ以上の感情は俺は持ってないぞ」
「そうなの?」

「あぁ、そうだ。それに香椎だって俺なんかに興味ないと思うぞ」

う〜ん、そうなのかな?イマイチ分かんないだよなぁ、好きとか嫌いとかって。
でも香椎さんのことを何とも思わないって、竜児はどんな女の子が好きなんだろう?

そういえば周りにはみのりんや香椎さんや木原さん、元気な子・綺麗な子・可愛い子が居るのに竜児はそんな素振りを見せないな、どうゆうこと?



「何をそんなに難しい顔して考えてるんだ?」
「えっ?」

「何を考えてるんだって聞いてるんだ」

「あぁ、あのね。竜児はどんな女の子が好きなのかなぁって」
「だってさ、周りには可愛い子ばかりが居るのに竜児は好きとか言わないよね?」
「どんな子が好きなの?」

「どんな子って言われても……」
「どんな子なの?」

「笑顔が可愛い子かな…タイガみたいな」

「何みたいな?」
「イヤッ?!何でもない」
「教えてよぉ!何って言ったの?」
「ダメだ!教えない」

「教えてよぉ」

こんな感じで毎日を過ごせるなら楽しいのになぁ、でもいつまで続けられるんだろ……
私を選んでくれないかな… そして私を…

「………お嫁さんにしてくれないかなぁ」

「お前はいま何て言った?」
「えっ?私が何か言った?ウソ!!聞こえた?」

「イヤ、よく聞こえなかった」
「ホントに?良かったぁ」

聞こえてなかったか…
聞かれても良かったんだけどな、そしたら竜児は何て言ってくれただろ?
竜児が私のこと好きになってくれたら、家族のままで居られるのにな。

でも香椎さんみたいな美人でも何とも思わない人が、私みたいなちんちくりんを好きなることないか。

竜児はどんな人を好きになるんだろ、その時が竜児とのお別れになるんだろうな。

 +×+×+

昨日はいろいろな事を考え過ぎてあまり眠れなかったな。
香椎のこと謝れば良いとして、大河のことがな…
聞こえてないふりをしたが確かに『お嫁さんにしてくれないかな』って聞こえたよな… 
俺の?それとも俺以外の誰か?アァァ気になる!。
でも弁当の用意しないとな、日頃と違ったら大河も心配するだろうしな。

「竜ちゃん、おはよう」

「泰子!何で起きてるんだ?それとも寝てないのか?」

「うん、起きてた。竜ちゃんに話したいことあったから」



「竜ちゃんは大河ちゃんのこと好きなんでしょ?」
「朝っぱらから何を言ってんだよ」

「だって大河ちゃんが居たら聞けないしさぁ」

「まぁ確かに聞けないな、でも朝からする話しでもないだろ」

「そんなことない!大切な事だから、やっちゃんは寝ないで待ってたの!」
「竜ちゃんは大河ちゃんに、ちゃんと『好き』って言ったの?」

何で朝から母親に自分の恋愛について語らないといけないんだ。

「朝飯は喰うか?喰うなら用意するぞ」

「ちゃんと答えて!大河ちゃん、昨日の話しを聞いて不安になってると思うよ」
「あれは子供の時の話じゃないか、だから大丈夫さ」

「好きって言ってるなら大丈夫だと思うけど、言ってないなら不安になると思うよ」
「大河ちゃんに好きって言ったの?」

「……まだだよ、まだ言ってねぇよ」

「まだなんだ…… だったら昨日の話しを聞いて不安になってると思うよ」

不安になったから大河はあんなこと言ったのか?
でもそんな風には見えなかったしな…… 分かんねぇ。
こんなこと朝から考えてたら、俺の方が不安になってきたぞ。

「それに早く好きって伝えないと、大河ちゃんを誰かに取られるよ」

「…そうか?」

「そうだよ!大河ちゃんはあんなに可愛いくて良い子なんだから」

「そうだよな… 泰子にこんな話しをするのも変だけどさ、本当は怖いんだよ」

「何が怖いの?」

「大河に自分の気持ちを伝えるのが」

「何で竜ちゃんは怖いの?」
「たった一言、大河ちゃんに『好き』って言うだけで今よりずっと楽しい毎日が始まるんだよ」

「始まらなかったらどうするんだよ。大河に告白して全部が終わりかもしれないじゃないか、この家族だって」

「終わりじゃないよ。もし大河ちゃんが竜ちゃんの気持ちを受け入れてくれなくても、それから始まる何かがあるよ」

物は言い様だな、そんなことになったら俺はしばらく立ち直れないぞ

「例えだよ、今のは例え話!大河ちゃんは竜ちゃんの気持ちを知ったら、きっと喜んでくれるよ」

「だから早く大河ちゃんに『好き』って言ってあげてね」
「あぁ」

大丈夫かな?余計なことしちゃったかな?でも2人を見てると心配になるしなぁ。
竜ちゃんは奥手だし、大河ちゃんは自分の気持ちを正直に話してくれないしな。
2人が自分の気持ちを伝え合ったら全部がハッピーになるのになぁ。



+×+


逢坂さん、朝から元気ないな。昨日の帰りに高須君と何かあったのかしら…… 私のことで?

自惚れかな、昨日の二人を見てもう分かったはずなのに。
あの二人の絆はきっと本物、私の入る隙間なんて無かった。私だけじゃない、きっと誰もあの二人の邪魔なんて出来ないはず。
逢坂さんの笑顔には私にそう確信させる何かがあった。
その笑顔を奪った原因が私かもしれないし、ほっとけないよね。

「逢坂さん、大丈夫?体調悪いの?」
「香椎さん… うぅん、そんなことないよ、大丈夫」

無理してるなぁ、健気とゆうか本当に女から見ても可愛いわね。
やっぱりこうゆうのが男の子の心をくすぐるのかな。

「昨日話した私と高須君のこと、逢坂さんに教えようか?」
「えっ?!…私が聞いて良いの?」

何を驚いてるんだろ?
高須君が思い出して話したのかな?

「もしかして高須君が思い出して、もう聞いちゃった?」
「うぅん、聞いてないよ。それに昨日の帰りに聞いたら覚えてないって言ってたし」

「そう、じゃあ話すね」
「幼稚園の時にいつも私に意地悪する男の子が居てさ、ブランコで遊んでたらその男の子が意地悪するの」
「そしたら凄い怖い顔して近づいて来る男の子が居て、意地悪してた子は泣きながら逃げちゃって」
「私は助けに来てくれた!と思ってその男の子のことが好きになったの」

「それが高須君だったの?」
「正解!高須君だったのよ」

「そうなんだ、素敵な話しだね。すごく良い思い出だと思うよ」

「ありがとう。でも続きがあるの」
「後で聞いたらね、高須君はブランコで遊びたかっただけで助けてくれた訳じゃなかったの」

「えっ?」

「ブランコに向かって歩いて来ただけ、おかしいでしょ!」

「???」

……そうか、逢坂さんは高須君のこと怖がってないから意味が分からないか。



「とにかくね、私の勘違いだったの。でもあれが私の初恋だったんだけどなぁ」
「初恋… 香椎さんは高須君のこと好きなの?」

「違うよ!!あくまで初恋、子供の頃の話しだから。…安心した?」

「安心?」

「……とにかく、今は高須君のこと友達としか思ってないから」
「それに逢坂さんが素敵って言ってくれる、私の初恋を覚えてない人に興味ない」

「そうなんだ」

「そうよ、それにね… 私は人から奪うって行為が好きじゃないから」

「あの… 香椎さんの言葉の意味が分からないだけど」
「ゴメン!変なこと言っちゃって。ガンバってね、逢坂さん」

どうゆうこと?香椎さんの言葉の意味が分からない、う〜ん…… 分かんないことばっかり。

初恋か… 憧れちゃうな、香椎さんも初恋は竜児か。
もし2人がつき合ったら… 結構お似合いのカップルと思うな。でも香椎は今は友達って言ってたし、無いか。
竜児の彼女… 竜児に彼女が出来たら… 私は傍に居たらいけないんだろうな。


+×+


香椎にはどんな顔して話せば良いのか…とりあえず行くか。

「あの、香椎」
「高須君。少しは思い出した?」

「あぁ、思い出したとゆうか、親から聞いた」

「へぇ… あぁ!もしかしてお母さん?」
「あぁ、母親に聞いた。香椎は覚えてるのか?」

「うん、覚えてる。優しいお母さんだったよね」

泰子のことまで覚えてるのか。何か俺だけ覚えて無いって、人でなしみたいだな。

「話を聞いた感想は?」

「えぇと… 凄く光栄です」
「ありがとう。でも昔のことだからね、気にしないで」

「悪かったな、こんな話しを忘れて。もう正直に話すけど、話しを聞いても全く思い出さないんだ」
「そうだろうね、高須君は全然わたしに興味を示してくれなかったから」
「今も昔も変わらないよね、高須君は」

「そうか?」

「うん!ずっと鈍感なまま」
「鈍感?」

「そう、高須君は昔から鈍感で私に気づいてくれない…」

「…ゴメン」
「謝らないでよ!なんか私が惨めじゃない。それより、逢坂さんには告白は済んでるの?」

「…何のことだ」

「済んでないのか… 高須君!そんなことじゃ逢坂さんのこと誰かに盗られるよ!」
「大丈夫だよ。心配してくれるのは有り難いが本当に大丈夫なんだ」

「何でよ?その根拠はどこから来るの」

本当のことを話すわけにもいかないしな…
何も言わないのも心配してくれてる香椎に悪いしな。

「根拠は無い!でも、大丈夫だ」

「何よそれ、本当に知らないよ!誰かに持ってかれても」
「じゃあね!!」

謝りに来たのに怒らせてしまったな… 今朝も泰子に同じこと言われたし。
みんなは焦り過ぎなんだよ。こうゆうことは時間を掛けて、じっくりとお互いの気持ちを育てて行くんだ。
それに大河はいつでも俺の傍に居るからな、心配ないさ。


  +×+×+


「おはよー!逢坂さん」
「あっ、おはよう…」

「ねぇ、1回でイイからさー遊びに行こうよー」

困ったなぁ、この人は何度断っても来るしな。
それにこの人が来るようになって竜児は機嫌が悪いみたいだし。

「じゃあ考えておいてねー」
「…ハイ」

やっと帰ったか!何だあのチャライのは。最近、大河の周りをウロチョロしやがって。

「どうすんのさ」
「何をだよ、櫛枝」

「惚けないでよ!大河のこと放っておくつもり!」
「大河が困っていたら助けるさ!」

「困ってるじゃない!いま現実に」
「それに大河を守るのは、もう私の役目じゃないからね」

俺だって大河が頼ってくれたら助けるさ、でも大河は俺に何も言ってくれないんだ。

「高須君以外に誰が居るのよ!このまま何もしなかったら、私は絶対に許さないからね」

「…大河と話してくる」

頼ってくれよ大河、お前の一言で俺は何だってするさ。
だからお前の本当の言葉を俺に聞かせてくれよ。

「逢坂、ちょっといいか」

怒ってる、きっと原因は私だろうな。廊下を歩く間も一度も私を見てくれない。

「大河、俺が断ってやろうか?」
「何を?」

「お前、あの男の誘いに困ってるんだろ?」

「そんなことない!それに嫌なら自分で断れるよ。竜児は心配性だな」

話してくれないか……

「……そうか、でも偶には俺を頼ってくれよ」

頼って良いの?
でも私は何でも自分で出来るようになりたいの。
そしたら竜児も私を一人の女の子として見てくれるでしょ?選んでくれるかもしれないでしょ?私を…

「ありがとう、でも竜児に頼ってばっかりだと悪いから」
「そんなことない!俺は大河に頼って欲しいんだ!」

嬉しいけど、怖いの。もし竜児に好きな人ができた時に後悔しそうだから。
今を頑張れば未来に繋がるかもしれないし、駄目になっても諦めがつく。だから、いま私が出来ることはやっておきたい。



「今はそれで良いけど… でもさ、竜児に好きな人が出来たら私って邪魔になると思うよ」

わたし何を言ってんだろ…

「絶対にそんなことないって、俺たちは家族じゃないか」

「家族だから悩んでるの!!」
「……ごめんなさい、もう授業始まるから戻ろ」

何であんなこと言っちゃったんだろ…
後悔も諦めもまだしちゃダメ!今は断らなくちゃ。
あの人にハッキリ断りを言って、そして竜児に私の気持ちを正直に伝えよう。


+×+


「途中まででも良いからさ、一緒に帰ろうよ」

もう誘わないように断らなくちゃ。

「…あの、ちょっと良いですか」

大河は荷物をまとめてあの男と教室を出ていってしまった。
結局、俺は役立たずのヘタレか… 俺は何をやってるんだろうな。

「高須君。大河、行っちゃたよ」
「だから何だよ?」

「私はそれで良いのかって聞いてるの」

「……どうなんだろな」
「何を言ってんの……」

「このヘタレがぁぁー!!!!!」

櫛枝の怒号と共に椅子や机を巻き込んで俺の身体は吹っ飛んだ。
怒りがまだ治まらないのか、拳を握り締めた櫛枝は倒れた机を蹴飛ばしならが近づいて来る。

「お前は馬鹿か!!好きな子1人も守れないでそれでも男か!この鈍感野郎!!!」

慌てて北村が止めに入るが勢いは止まらない。

「止めろ、櫛枝!」

「離せ!!コイツは殴りでもしなきゃ分かんないんだよ!」
「落ち着け!!」

「テメェは大切な人も守れない馬鹿野郎だ!お前は大河のことが好きなんだろ!!!」
「笑顔の大河が好きなんだろ!お前があの笑顔を奪ったら誰が取り戻せるんだよ!!」

「…………」

「逃げんじゃねぇよ!!」

「逃げるんじゃない ………取り戻しに行くんだ」

走り出した俺の背中にクラスメートたちが何か言っていたが耳には届かない。
今は一秒でも早く、大河を俺の腕の中に取り戻すんだ。



「ねぇ、お茶くらい行こうよ」
この人ちょっとも話しを聞いてくれないな…
気を使って教室を出たのに昇降口まで来たら意味ないじゃない、却って目立ってるよ。

「わたし困ります、一緒には行けません」

「そんなこと言わないでさあ」
「触らな!はぁぅ?!」

触れられる!と思って後ろに下がると背中から抱き締められた。
嫌な感じはしない。

「竜児?」

顔は見えないけど間違いない、この感じは竜児だ

「何だよ!高須、離せよ!」

私を片腕に、そして男の人の腕を片手で受け止めてる。まるで映画のシーンみたい… 
でも竜児はなぜ来てくれたの?私はこのまま素直に喜んで良いの?

「大河」
「…はい」

「俺は大河のことが好きだ、お前はどうなんだ」

「もちろん好きだよ!」

「悪いがそうゆうことだ、俺の彼女に近づかないでくれ」

「何だよそれ、最初に言えよな。ヤンキー高須の女じゃな、逢坂もそんなのが良いなんて意外だよ」
「…帰るぞ、大河」

私の手を引っ張って歩き出す。でも握った手は優して、私への気遣いが嬉しかった。

「ゴメンね、竜児。私の為に嫌な想いさせて」

手を引いて歩く竜児は何も応えてくれない、前だけを見て歩き続ける。

「……ウソでも嬉しかったよ、私を助けに来てくれて」

私の精一杯な強がりに一度足を止め、繋いだ手を強く握り締めてくれた。

「嘘じゃない」

振り向きもせず一言だけ告げて、また歩き始める。

そんなこと言ったら私は信じちゃうよ。
嘘じゃないの?本気だったの?もう私は隠さなくても良いの?私が竜児を好きになったこと。


+×+


家に帰り着くまで大河に何も話さなかった。
失敗はしたくない、絶対に他人の来ない静かな所でもう一度、俺の気持ちを伝えたかったから。

「大河、聞いてくれ」

「うん。でも手は離して良いじゃないかな?」

「まだ離したくないんだ、話しが終わるまでは」
「わかった」

「俺は大河のことが好きだ。ずっと前から… イヤ、初めて逢った時から大河のことが好きだ」
「だから、俺とつきあってくれ」

「つきあう?」

「……嫌なのか?俺の彼女になるのは」
「嫌じゃないよ!」

「じゃあ、俺の彼女になってくれるんだな」

「…うん」
「そうか、ありがとう」

俺の想いは伝わり、大河はそれを受け入れてくれたか。
心配してくれてたし、ちゃんと話しとくか。

「泰子!聞いてるんだろ」

部屋を見ても泰子は居ない、聞かれるのを覚悟して話したんだがな。どこに行ったんだ、泰子は。

「竜児、冷蔵庫にやっちゃんからの伝言が貼ってある」

『今日は早く出てお店の子とご飯食べま〜す。泰子』

「じゃあ、今日の晩飯は二人分で良いな」
「うん、二人だけだね!」

二人きりか… 普通なら何か期待してしまうとこだが、まだ俺には不安に思うことがある。
さっきの告白で一瞬大河は戸惑ったよな?あれは何だったんたろう… でも俺ってつくづく臆病だよな。

「大河、さっきは何か戸惑ってなかったか?」

う〜ん… 竜児に話して良いのかな?
本当はつきあうって、よく分かんないだよね。何がどうなったら、つきあってることになるんだろ?
話したくないなぁ、私が恋愛音痴と思われるのもイヤだし。



「う〜ん…」
「大河、大河!」

「えっ?」
「どうしたんだ、そんなに嫌なのか?」

「そんなことないよ!!竜児と一緒に居られるのは、すっごい嬉しいの」

「だったら、何をそんなに考えてるんだ?」

「あのね… つきあうって何なのか分からないの…」
「でもね!竜児とはずっと一緒に居たいんだよ!」

「それで良いじゃないか、俺もずっと大河と一緒に居たい」
「お互いの気持ちが同じなんだからつきあってるって説明じゃ駄目か?」

そうか、2人の気持ちが一緒だからつきあうのか…… う〜ん、何か私の想うこととは違うような…

「まだ考えてるのか?何がそんなに気になるんだ?」
「私の考えとゆうか、目的?とゆうか…」

「目的?大河は何かを望んでるってことか?」

「そう!それだ!私が望んでることと、竜児の言ってることは違うの」

この期に及んでそんなことを言うか、大河よ。
『ゴメン、勘違いだった』って大河ならサラッと言いそうだしな、今更振られるんじゃないだろうな?

「…大河は何を望むんだ」
「話すけど笑わないでよ?」
「笑わない」

「絶対だよ!約束する?」
「約束する、絶対に笑わない!」

「私ね… 竜児のお嫁さんになりたいの。そしたら、ずっと一緒に居られるでしょ?」

「本気か?」
「私は本気だよ!それとも…… やっぱり私じゃダメなの?」
「全くそんなことはない!!寧ろ、俺と結婚して下さい!!!」

「うん、良いよ!これからも私のこと大切にしてね、竜児!」


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