フロリダ州第六の都市オーランド。
以前はケネディ宇宙センターの恩恵により航空宇宙都市として栄えていた都市だが、土地の大売り出しをした際に人気の無い湿地をウォルト・ディズニーが大量に買いWDWを建設。一気に観光都市へと化けた。
数多の遊園地やテーマパークを有しているだけでなく、ゴルフ場やテニス場、それらを目当てに来る観光客の為の高級リゾートホテルが林立し、少し離れれば大型のショッピングモールもある。
また、手付かずの自然も多く、自然保護区域に指定されている場所やテクニカルダイビングの出来る泉も随所に見受けられる。
世界最大のリゾート・タウンと呼ばれるに実に相応しい力があるのだ。
さらに、前述に出て来たWDWは年間入場者数世界一位を不動の物にし続けている世界最大規模のテーマパークだ。
竜児達は今、そんな世界最大規模のテーマパークの全景を上空から眺めていた。
「このフライトは有料なんですか?」
自分を納得させる決め手となったあの札束を思い出した竜児が、そんな事を口走る。
それは少々空気を読まない発言であった為、隣に座る大河に思い切り睨まれたが、言ってしまったものは仕方ないと謝罪や訂正の言葉は発しなかった。
「そうだ。普通に考えれば有料だ。というか、そうしてくれないと心が晴れん。だがな…」
北村に甘える時を除くなら、何時いかなる時も強気に満ちている狩野の瞳がパイロットの方を見つめて弱々しく垂れる。
「スミスが恩返しだと言って折れないんだ」
今、北村が金を受け取ってもらう為というちょっぴり変な交渉をしているのだが、相手はのらりくらりと避け、逆に別の話題に持って行こうとしている。だが、それに甘んじて引っ張られる程北村は勘の悪い男では無く、均衡した状況になっている。
「あんた、何したのよ」
赤軍か青軍のどちらかが折れるまで景色を見るだけとなってしまい、近いけど遠い存在となってしまったWDW。
そんな現実に苛立った大河が、狩野に高圧的に尋ねる。
「特別な事はしてないさ。ただ、妻子に別れを告げられて自棄になって犯罪に走ろうとしたところを止めてやっただけだ」
がくっと竜児達の姿勢が崩れる。
かなり小さい規模の話みたいに言ったが、つまり人生を台なしにする準備段階で目を醒まさせてやったのだ。よっぽど人情の冷めた人で無ければ、大恩に感じる事は克明だ。
下手すれば北村がそうであったように惚れてしまう。
いや、実際惚れているのかもしれない。
昨日竜児が聞いたあの集団は、狩野をトップとした宇宙に夢を追う人達の集まりだったもの。いつの間にか多様な人達の集まりに変わり、ボランティアから講演まで幅広く行う組合に成長していたと本人は言っていた。
きっと、そのいつの間にかの間にスミスに行ったような義を示す行動や仁を魅せる活動を行い、そのリーダーシップも合わさって次々と人を惹き付けていったのだろう。
「……あー、北村。ちょっと俺に任せてくれねぇか?」
パイロットとは他人な訳で、部外者が金が絡む事に首を突っ込むのは失礼だとは判っていたが、狩野の話を聞いて考えが変わった。
「交渉をか?まぁ、別に構わないぞ。
Sumith, he want to talk with you, OK?(スミス。彼が君と話したいそうだが、良いか?)」
「...OK.」
北村もスミスもその返答は了承。
竜児の口許が妖しく吊り上がる。



「Thank, Mr. Sumith.Well, the talks.Don't you want to recieve that's money?(有難うございます、スミスさん。それで、話ですが、貴方はあのお金を受け取りたくないんですよね?)」
「Yeah.Ah, shall you assist me?(勿論さ。…もしかして、援護してくれるのかい?)」
竜児の腹中を察したスミスの目が大きく開かれる。
二人の親友と紹介された男が、裏切ってまで自分に付く事が余程信じられないのだろう。
「Yes.But there is condition.(その通りです。ただし、条件が在ります)」
「Condition?What?(条件?)」
スミスの眉間に皺が寄る。その顔には疑念はもう見えなかったが、どうも、代償としてとんでも無い物を突き付けられると思っているらしい。
確かに、北村や狩野といった意思も強ければ頭も切れ、会話を自分の好みの流れに持っていくことも相手を黙らせる事も上手い人達の交渉成功は並では叶わないだろう。
だが、この二人を含めた癖の強い連中と一緒に学園生活を営んで来た竜児の経験値は既にノーマルを越えている。そこに二人の性格を把握している実態が加われば、ターミネーターがM4を持っているようなものだ。
竜児はスミスの耳元で条件について少々の焦らしを加えながら実に細かく話した。
「Can you do it?(出来ますか?)」
「No problem!!(お安い御用だ!)」
交渉成立。竜児とスミスはお互いに信験を受け取る為であるような熱い握手をした。
「おっ!高須!もしかしてやったのか?」
良い笑顔の男達の熱い握手を見た北村が当然の誤解をして、竜児に期待の目を向ける。
その目に竜児は答えそのもののような爽やかな笑顔で答える。
「無理だった!で、時に北村、お前と会長の関係なんだが…」
尋ねられた北村の表情が険しくなる。
自分達の愛を疑われた。それも、親友にだ。これは彼にとって許しがたい侮辱となる。
「ちょちょ、最後まで聞けって」
「じゃぁ、何て言おうとしたんだ?それよりお前、無理だったってどういう――
「いやさ、惚気るのは構わないんだよなって言おうとしたんだ。愛の詰まった話を聞きたいなぁ、っと思ってさ」
ちらっと横目で北村の様子を見る。
北村は先程の怒りを微塵も感じさせない程、喜びに満ち満ちた顔をしていた。
「聞きたいか!そうか、聞きたいんだな!」
「おっ、おう……」
食らい付くと思って振った話だが、些か食らい付きが良すぎる。想像していたカンパチ級ではなく、さらに格上のカジキ級の引きに一瞬当初の目的とは別の方向に流されそうになる。
だが、それを北村がマシンガンを発射するコンマ数秒前に思い出し、慌てて北村を止める。
「話す前に、ちょっぴり大河に伝えることがあるから待ってくれ」
「おっ、愛の囁きか!良いね!良いねぇ!」
テンションUPにより、質の悪いおっさん化した北村に愛想笑いを向けてから、暇そうに外を眺める大河の耳にそっと指令を入れる。
「えっ!む、無理だよ!できないって!」
「大丈夫だ。会長はああ見えて、ガールズトーク好きな筈だ。じゃなきゃ、ダブルデートなんか提案しねぇよ。ほら」
とんと大河の肩を押してやる。そうすれば、大河は何とかしてくれると思っての行為だ。
「え、えと…その…あ、ああ」
「ん?どうした逢坂。私に何か用か?」
「あの、その、えと、えと…き、北村君との交わいはどどどどーですか!?」
恋人の頑張りを暖かく見守ってあげようと意気込んでいた竜児の笑顔に亀裂が入る。
何故、いきなりそんな高いハードルを突き付けるのだろう。普通は生活はどうですかとか、大学は楽しいですか等の俗に言う世間話から入っていき、恋の話に持ち込んでいくのではないのか。
勘の鋭い狩野の事だ。普段と違う何かに気付いて、怪しんで来るだろう。
作戦終了の笛を竜児が吹こうとしたその瞬間。奇跡が起きた。
「逢坂……お前なら私のガールズな心中を解してくれると思ってた!ええと、なんだ、裕作とのS○Xの話だっけか?うわー、何話すんだ。どう話したらガールズっぽい?なぁ、逢坂。どうだ、どっから話せば良い?」
恥じらい無く、寧ろ少々興奮した様子で放送禁止用語を発する狩野を竜児は見た。
何処がガールズやねんっ!とは思ったものの、このまま行けば見事に目論み通りとなる。なので、この狩野の相手は少々酷かもしれないが大河に全てを任せ、自分は北村と向き合った。
「用は済んだのか!?」
未だにテンションだだ上がり中な北村に竜児は軽く頷いてみせる。
「よし!じゃぁ話そう!さぁ話そう!」
北村と狩野のそれぞれのマシンガンが炸裂する中、ヘリはゆっくりと下降していった。





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