「ハイッいきんで!もう少しですからねぇー」
「あああああああーっっ!!ハァ……ハァ……」
「大丈夫か大河?頑張れ!」
分娩室に入り既に2時間。元々小柄な大河は――予想されていた事だが――難産であった。
こんな時に当たり前の事しか言えない自分が情けない。しかしここはどうしようもない。
自分に唯一出来ること。それは大河の手を握ってやることだけだった。
「はいっいきましょう!次で終わらせますよ!」
「大河!俺がついてるからな!頑張れ!」
「あぁぁぁぁああああうぅぅぅおりゃああああああああっっ!!!」
「もう少し!あとちょっと!」
その瞬間、大河の雰囲気が変わったように見えた。
次の瞬間。有り得ない、としか言いようの無い力が手に篭る。
「りゅうじっっ!!こいつがっっ!!あたしとあんたの子だああああああああっっっっ!!!」
ミシミシと骨が軋む音がする。激痛が体を襲う。
でも。大河はそんなものは比にならない痛みを耐えているんだ。それに比べればこんな痛み――屁でもねぇぜ。
「大河!頑張れ!!」
精一杯の笑顔で声援を送る。頑張れ。頑張れ!
「おおおるあぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
「はいっ……生まれましたよ!」
「はあっ……はあっ……」
「大河……」
大河の荒々しい呼吸だけが分娩室を支配する。
1秒、2秒……永遠のように長く感じる。
オ……オギャッ……オギャアアアアアーーーー
「「泣いた!」」
「はいっ!元気な男の子ですよ!ほらお父さん!こことここを持って!」
お父さん……そうか……。
「大河……見えるか?俺達の子だ!」
「ああ……見える……見えるよ竜児!」
この世に生まれた愛の結晶。大切に大切に育てていこう。
その名前は――――
みなさんの想像にお任せします。
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