・あいあい傘なんて

「雨だね……」
「雨だな……」
「傘、一本だね……」
「ほら。どうせ奪う気だったんだろ? おまえ使え。俺は走るからさ」
「……おまえ使え! 私が走るっ!」
「ちょっ、待てって!」
「っ!? 気安く触んじゃないよ痴漢犬……っ! どうしたの竜児? 頭押さえて、痛いの……?」
「いや。思い出したんだ。……俺、小学生の時さ、帰りに雨に降られて。やっぱ傘、無くてさ。
 そしたら同じクラスの女の子が、入れたげようか、って言ってくれてさ。嬉しかった」
「う、うん……よかったね……?」
「ところがさ、すぐにその子、『あいあい傘になるからやっぱやだ。じゃあね』って、行っちまった」
「げ……」
「喜んだ分、すげえ悲しくなってさ。別に、好きでもなんでもない子だった。けど、嬉しくて
 ……悲しくて。あいあい傘って、その時初めて知ったんだ。後で、くだらねえって、思った。
 もっと大事なこと、あるだろ? って……なぁ、大河」
「……うん」
「傘、一緒に入っていこう」
「……うん、わかった。さあ行こう竜児! その傘を開くがいいっ! そして入れ!」
「おう! って入るのはおまえだよ……」
「行くぞ! あいあい傘なんかくそくらえだ!」
「っそうだ! 誤解する奴なんかくそくらえだ!」





・夕食後

 ごろごろごろ……
「ひ〜ま〜だ〜ね〜え〜……っと」
「っ!? おまえひっつくなよ、腰熱いっ」
「はーお腹あったか……冷やすと痛くなるんだもん、あっためないと」
「おう、そうか……なら仕方ねえけどよ……」
「そーそー。仕方ない仕方ない。飼い主の体調管理は犬の仕事!」
「逆だろそれ……なあ、大河。腹巻きとかいるか?」
「はあ? 何それだっさ。いらない」
「腹冷えないぞ? あったかいぞ?」
「いらないってば」
「おしゃれなやつ作ってやるからさ。ダサくないようにさ」
「いらないって言ってるでしょ!?」
「なんでキレんだよ!? せっかく俺が作ってやるって」
「うっさい黙れ。ずっと私の腹巻きしてろ……馬鹿犬」





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