『ねえ、偶には息抜きに行かない。』

高校3年の夏休み。
みんながこれからの人生を左右する受験に向けて慌ただしく過ごしていた。
みのりんも部活に一区切りがついて、今はスポーツ少女から勉学少女になっていた。
今日も竜児とみのりんの3人で図書館で受験対策に勤しみ、その帰り道。

「お母さんの田舎に行くんだけどさ、一緒に行かない。」

「凄い田舎なんだけど、緑がいっぱいで静かな所だから過ごし易いんだ」

竜児は難しい顔をして悩み始めた、真面目な人だから仕方ないか。

私は行きたい、受験勉学にも少し疲れた。
一番の理由は竜児と過ごせる時間。勉強に家事に弟の世話
とお互いに忙しく、二人過ごせる時間は限られていた。
偶には昔に戻って竜児と24時間を共に過ごしたい。

「じゃあ、考えといて」明日も図書館に行く事を約束してみのりんは走り去った。

旅行か、行きたいけどな。
櫛枝と別れた帰り道、大河の手を取り歩きながら考えていた。
受験生だしな、でも久しぶりに大河と一緒に過ごせるしな。
頭の中で天秤が右へ左へと揺れていた。


竜児はまだ悩んでるみたい、本当に真面目なんだから。
仕方ない、最近覚えたアレを使うか。


突然、強く手を引かれた。
大河は周りを確認しながら人気のない公園へと向かう。
公園に入るとぐるりと周りを確認し、俺の胸に顔をうずめ、背中へと手を廻した。

「どうしたんだ」

左手を背中へ右手で頭を撫でると大河は胸の中で顔をぐりぐりと動かし、顔を上げた。
俺を見上げたその顔は目は潤ませ頬は赤く染めている。

「……行きたい」

「私、旅行に行きたい。竜児と一緒に行きたい」

反則だろ、それは。

でもそうだよな。高校最後の夏だし、恋人として初めて過ごす夏でもある。
思い出の一つも欲しいよな大河。

「俺も大河と一緒に行きたい。」

「それに夏の思い出も欲しいな、恋人として初めて過ごす夏の思い出」

そう言って竜児は優しいキスをくれた。

フッフッフッ、やっぱり落ちたか。
やっぱり竜児は私にメロメロなのねぇ〜。

『この夏が一生忘れられない夏になるように』と願って竜児を抱きしめた腕に力を入れた。




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