「あいす〜♪あいす〜を〜あ〜いす〜♪……あら?
 ねえ竜児、コレ何?」
「おう、何だ?」
「ほらこのラップの包み。日付け入れてあって幾つかあるやつ」
「ああ、それなら卵白貯金だ」
「らんぱく……って、卵の白身?」
「おう。料理で卵黄だけ使った時、余った卵白はこうやって冷凍してプールしておくんだ」
「……なんか、セコい」
「セコいとか言うな。食べられるものを捨てるなんてMOTTAINAIじゃねえか」
「だって白身でしょ?そんなものどうするのよ。白身だけの卵焼き?
 私そんなの嫌だからね。あんたが責任もって食べなさいよこのセコ犬」
「……お前なあ……」




 翌日の昼休み。
「いやー、食った食った。エネルギーチャージ完!了!」
「みのりんってばホントに豪快にお弁当食べるよね」
「おいおい、大河にそれを言われたくないぜ〜」
「あー、櫛枝」
 『何許可無く話に割り込んでるのよ』……そんな大河の視線を無視して、竜児は二つ手にしている包みの片方を実乃梨に渡す。 
「よかったら、これ食べてみてくれないか?」
「……おれっちかね?大河じゃなくて?」
「おう、試作品なんでいろんな人の感想が聞きてえんだよ」
「ふむ、そういうことなら……」
 開いた包みの中身は、淡い黄色の
「マシュマロ?」
「ああ、味付けの糖液にはちみつきんかんを混ぜてみた」
「なるほどなるほど」
 言いながら実乃梨は一つつまんで口の中に放り込む。
 目をつぶってもぐもぐもぐ……ごっくん。
「うー!まー!いー!ぞーぉぉぉぉぉっ!」
 かっ!と目を見開いて、口からレーザーでも吐くような勢いで絶叫。
 そのまま二個三個と頬張り、
「いやー、こいつはグッジョブだぜ高須君!なんて言うか……すっげー……すっげーうめー!」
「お、おう、気に入ってもらえて何よりだ」
 と、竜児の袖がくいくいと引っ張られる。
 そちらを見れば無言で掌を突き出している大河。
 その意味する所は明白で、即ち『とっとと私の分をよこしなさいよこのグズ犬』
 だが竜児は
「大河の分ならねえぞ」
「……え?」
 大河のみならず実乃梨まできょとんとしている中、竜児は言葉を続ける。
「いいか大河。マシュマロってのは大雑把に言うと卵白をメレンゲにして味付けしてゼラチンで固めたもんだ。
 その卵白をセコい・嫌だと言ったお前にこいつを食う資格はねえ」
「ぐっ……」
「でもまあ俺も鬼じゃねえ。きちんとゴメンナサイ出来たなら、こいつをやってもいい」
 言いながら、残った一つの包みを大河の目の前でブラブラと。
「……犬のくせに、主人に頭を下げさせようってわけ?」
「勘違いするな。お前が謝るべきは俺じゃねえ、卵白だ」
「らっ……!」
「大体大河はもっと食材に対する感謝の念というものをだな……」
 ぶん!
 竜児の言葉を遮って大河の右手が振われる。が、竜児が包みを引っ込めたためにそれは空を斬る。
 ぶん!ぶん!ぶん!
 二度三度と襲い来る虎の爪を、しかし竜児は寸前でかわす。
「……」
「……」
 無言で睨み合う竜虎。
 竜児は大河が届かぬように包みを頭上に掲げ、
 大河は隙あらば竜児に飛びかからんと身を構え。
 と、不意に大河が視線を外し、
「あ、ばかちーがコサックダンスしてる」
「何!?」
 竜児が思わず気を逸らした瞬間にジャンプ一発、包みは見事に大河の手に。 
 にんまりと笑う大河に慌てる竜児。
「こら、待て大河!返せ!」
「ふふん♪駄犬が何か吼えてるわねぇ〜」 


「タイガーが逃げきるのに100円」
「じゃあ俺は高須が返り討ちに会うに100円」
 クラスメイトの賭けの対象などになりつつ、教室をドタバタと駆け回る大河と竜児。
「なに、あの二人またじゃれあってるわけ?」
「おお、あーみん。マシュマロ食べるかね?」
「んー、それじゃ一つ……あら、これ美味しいわね」


「ねえ竜児」
「……なんだよ」
「マシュマロ美味しかった。
 ……また作ってくれる?」
「おう、また卵白が貯まったらな」






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