「りゅうじぃ〜、ねぇ〜、つまんない男ぉ〜?」
「おまえって、俺呼ぶとき必ずなんかひでえこと付け足すのな……なんだ、大河?」
「なんかな〜いのぉ〜? も〜て〜な〜し〜な〜さ〜い〜よぉ〜」
「いでででっっ! おまっ、足の親指で巧みに肋骨狙うよやめろよ!? ……そうなあ、
 トランプでもすっか?」
「トランプぅ〜? ……暇ここに極まれり、ね。ま、いいか、そういやあんたとは
 やったこと無いし! やってやろうじゃないの!」
「おう、ようやく起き上がったか……ってまた寝っころがるのかよ!?」
「で、なに? なにすんの? ババ抜き?」
「ババ抜き二人はキツいだろ。そうだなあ、ブラックジャックとかどうだ?」
「おっ、いいわねえ。どこを切開するといいのかしらねえ、あんたの馬鹿を治すには。
 やっぱり頭骨?」
「頭の骨のことを言ってるんならそりゃ『ずこつ』じゃねえ、『とうこつ』だ。
 馬鹿に教えられるおまえはなんなんだ大河……てか、つまり、一言でいうとおまえ、
 トランプのブラックジャック知らねえな?」
「そうなのよさ!」
「だからそれマンガの方だろ……じゃあ、ポーカーは? ……いや、アホヅラ作るな、
 ぽ〜か〜とか俺にどうしろってんだ。おまえせっかく綺麗なんだからやめろよな。
 ……なんでそっぽ向くんだよ?」
「うるっさい。気にすんな。とっととトランプしろ」
「俺一人でどうしろってんだよ。おまえとするんだろ。いいからこっち向けよ」
「……」
「なんで顔赤くなってんだよ……ははあ。ま、気にすんなよ」
「きっ、気になんかしてないもん。……あんたの言うことなんか」
「まあ、そうだな。いろんな手があるからな。覚えてないと話にならねえし」
「い、いろんな手があるの? ほ、ほ、他のとかだと、どんな? び、美人とか?
 か、可愛い、とか? ひゃあっ、恥ずかしっ! もう、このシベリアンオンナスキー犬!」
「すまん、おまえが何を言っているのか、俺にはさっぱりわからねえ」
「えっ、何? も、もっと違う方向なわけ? なんだろ……なんだろ……」
「な、なんだなんだ、どうしたおまえ!? 鼻息荒くてトランプ飛ぶだろうが!?」
「うっさいっ!! 言うんじゃないよ!? ぜ、絶対あててみせるんだから……
 基本はいい感じの方向よね……素敵? なんか違う感じ……元気? つまんないわ、
 そんなの……繊細? なんか嬉しくない……うーん、ううーん、ううんうううううん……っ!
 ああっ! もうっ! くやしいけど降参よ! 降参してやるわこの視姦犬めがっ!」
「おう、わりと早かったな降参……」
「うっさいっての。で、何? 何なの? あんたの目には一体私はどう映っているわけ?」
「はあ? なんだ? 俺の目には……おまえが、どう映っている、か、だって?」
「すっとぼけんじゃないよこのスットコドッコ・イメクラ野郎! はっ、やばい!
 今のナシ! いい印象いい印象、えっと……ねぇ〜ン、竜児ぃ〜ンっ♪」
「うはあ!?」
「あんたってさぁあ? 私のことぉ、えっと……どぉんなふうにぃ、思ってるのぉ? ……えいっ☆」
「ぐはあっ!? う、ウインク……!」
「ねえぇんっ、ンもう……じらさないでよぉこのイケズぅうううンっ、教えてぇ?」
「……い、今か?」
「そぉ、い、ま! さっきのはぁ、ナシでぇ、ねっ☆」
「はっ、はあああ……い、今は……」
「っんうンっ、今はぁ?」
「今は……とりあえず……」
「んもうぅ、じ・ら・さ・な・い・でっ☆」
「とりあえず、キモい」
「ぅんんんだとごるぁああああっっっ!? ひとに生き恥晒させてさんざじらしまくった挙句に
 『とりあえず、キモい』たぁなにごとだてンめええええええ――――――――――っっっ!!」



「ひいいいいいぃぃぃぃ――――――――――ぃひいひぃひっっっ!?
 こっ、こっここここ殺さないでくれええええ――――――――っっっ!!」
「………………とりあえず、折る」
「具体的な感じがもっと嫌ああああっっっ!?」
「……」
「ひっ、知らねえ動き!?」
「……ぅ」
「ま、ま、待ってくれ、大河!! 言わせてくれ! 俺に! 俺がっ!!」
「問答無用っ!! 骨と一緒にキサマの心も折るっ! ほどよく5ケ所ちょちょいとねえっっっ!?」
「っおまえを普段どう思ってるか言わせてくれえええええ――――――っっっ!!」
「……あ、それ、聞きたいかも」
「たっ……たっ、たたた助かった……2度目……助かった……」
「ね、竜児っ、早く教えてよ! もうっ、なに17才の性欲過多のヨボ犬みたいにハァハァ息なんか
 切らしてんの? さっきなんかあったわけ?」
「さ、さすがの、俺も、つっこめねえ……っは、はあ……」
「……やっぱり一本くらい折っとく?」
「やっぱわかってんじゃねえかこの野郎!? いや、失言でした。ほんとどうもすいませんでした。
 許してください大河さん、いや大河さま、いや大河さまさんちゃん」
「よくてよ。さ、聞かせなさいよ」
「おう。その前に、命がけついでに、ひとつ訊きたいことがあるんだが……
 大河、おまえは何で、俺がおまえをどう思っているのか聞きたくなったんだ?
 馬鹿に教えると思って答えてくれ」
「えっ!? そ、そりゃあ、ほら、あんたが、私のことを、きっ、ききき綺麗だ、
 なんて言うから……」
「……で、他の印象も知りたいと?」
「そ、そう……だってあんた、他にもいろんな褒める手があるんだぜむひひっ、
 なんて言うから……」
「むひひっ、はねえだろ……なんだって? 褒める、手……それかあああ、手かあああああ……?」
「な、なによ。頭なんか抱えちゃって。大丈夫よ、今回は頭骨割るのは勘弁してあげるから」
「そう、『とうこつ』、良く出来ました……じゃねえよ、おまえ……俺は、
 ポーカーの手がいろいろある、って言ったんだよ。手、ってのはつまり……そうな、
 勝ち方、ってことだ」
「え? ……えっ、嘘っ!? あ、あんたポーカーの手だなんて言ってない! 言ってなかったよ!」
「その通りだ。俺は、『手はいろいろある』みたいな言い方をしちまった。
 『ポーカーの』を、省略したはずだ。それで、綺麗だって俺に言われた直後のおまえは、
 ポーカーのかわりに、そこに『褒め方の』を読み込んだ、ってわけだ。
 これが、まあ、その後に続いた滅茶苦茶の、原因、てか真相ってわけだ……はあ……」
「げ……生き恥さらしたこっちはため息も出ないっての……で? あんたはどっちが悪いって
 言いたいわけ。あんた? 私? ……それとも遺憾な事故だ、とか言うわけ」
「俺が悪い」
「そっ! えっ……?」
「まあ、多少は事故ってとこもある。でもまあ、俺が言葉を省略したのが原因だ。俺が悪い。
 ……ごめんな、大河。恥ずかしい思い、させて」
「っ! ……あ、そ、そうよっ! あんたが悪い! の、よ……わ、わかってんなら……
 いいの……ゆ、許す。……なによ、あんたの優しい微笑みとかマジキモい。
 どっかですずめが大量死するわ。折るよ?」
「折るのは勘弁な……でだ、俺はおまえのこと、綺麗だと思ってる」
「ひゃ……! な、な、なによそれっ!? なんなのいきなりっ!? そ、そ、それに、
 そんなこと、し、ししし知ってるってば! きっ、聞いたし! 何度も言わなくていい!」
「美人だな、とも思ってる」
「ひゃあっ!」
「美人てか、まあ、おまえは……美少女だよ、すごく」
「ひゃあっ! ひゃあっ! な、ななな、なに? どっ、どうして」
「可愛い、とも思ってる。すごく」
「はひゃっ! な、ななななんでっ!?」
「なんでって、おまえ、可愛いもんは可愛いんだよ。理由はねえ」
「きひゃあっ! ち、ちちちがうの! な、なんでそんなこといきなり言うのよっ!?」



「いきなりじゃないだろ。ほかの褒め方知りたかったんだろ、おまえ? だからだよ。
 褒め方、っていうか……まあ、たんなる俺の感想だけどな、おまえについての」
「は、は、恥ずかしいっ! そんなの、も、もっと、恥ずかしいじゃないっ!」
「おう、大河、そんなに座布団ぐしゃぐしゃっと抱きしめるな。駄目になるだろ?」
「うるっさいっ! こっ、こうでもしてないと、は、恥ずかしくって、私が駄目なの!
 お、おか、おかしくなりそうなの! ていうかなに!? あんたこそなによっ!
 そ、そそそんなこっぱずかしいことばっか言って! なっ、なのにあんたってば、
 しれっと顔色ひとつ変えないだなんて! あんたのがおかしいよ! くやしい……っ!」
「おう、そうか。恥ずかしがるはずなのか、俺は。そうか、そうかもな。まあ、なんてか、
 いたって平常心だ。たぶんあれだ、死線をくぐりぬけたせいなんじゃねえかな」
「そ、そんなのって……ずるいよ! くっ、くやしいくやしいくやしいっ! くやしいのっ!」
「おう……じゃあ、まあ、こんなところでやめとくか」
「えっ……ま、まだあるの……?」
「ある。聞きたいか?……それはうなずいてるのか? うなずいてるな? 聞きたいんだな?
 ……そうだなあ、お人形さんみたいだな、とはよく思う。おまえはちっこくて可愛いから」
「はう……っ」
「なんだその手は……座布団か? 座布団追加か? 仕方ねえ……ほれ。俺のも持ってけ。
 あーまたそんな、ぎゅっとかしやがって。……あとはな、まあ、おまえのナリもあるんだが、
 童話に出てくるお姫様みたいだ、なんてよく思ってる。……おまえ大丈夫か?」
「はあっ、はあっ……だ、だいじょぶ、なの……よ、さ……あとは?」
「あと、か……あとはな」
「あ、あと、は?」
「ドジ、だな、おまえは」
「ひゃあ……えっ?」
「そこはひゃあじゃねえだろ、ドジ……あとは、怒りんぼで、口が悪くて、泣き虫だ、おまえは」
「……な、なによっ! いいわよ、私の中身の話は! どうせ良いとこないもん!
 私知ってるもん! わざわざ鈍くさドンブリ野郎のあんたの口からなんてねえ!?
 あ、あんたの! あんたの……あんたの口からなんて、聞きたく、ない、もん……っ」
「まあそう怒るな。おい……泣くなよ、大河。ちゃんと続きがあるんだ」
「ひっく……な、なによっ……?」
「おまえはすごいドジで……だから、放っておけねえ、って思う」
「っ!」
「……あ、これ、ずいぶん前に聞かせたかもしれないな……あの春に、一度」
「竜児……っ」
「その顔も、可愛いぞ、大河……聞いたのは、要らないんだったよな? 俺もたいがいドジだな。
 おまえのこと言えねえ」
「い、嫌だよ……要らなくなんか、ない。要るの、何度でも……何度でも! 何度でも聞きたいの!」
「大河……」
「竜児……お願い。何度でも、いいから……聞かせて、欲しいの……」
「そうか、わかった。あとは――そう、おまえは……怒りんぼで、ひでえことばかり言うけど、
 でも……そうだな、難しいな。なんて言ったらいいのかな……」
「い、言って! 竜児、言って……っ」
「……一緒にいたい、って、思うんだ、それでも。俺は、おまえと一緒に、ずっと」
「っ! うぐ……っ」
「なあ、お願いだから泣くなよ、大河……泣かせるために言ってるんじゃねえんだ。やめちまうぞ?」
「駄目っ! っく、ま、まだ、さいごの、泣き虫、残ってるもん……言って!」
「……俺は、おまえが泣くと、駄目なんだ。今だって辛い。おまえの涙を止めたくてたまらなくなる。
 おまえを元気にしたくて……おまえの笑顔が欲しくて、たまらなくなるんだよ。
 俺はおまえの涙を止めるためにいるんだ、大河。……なのに、馬鹿だな、俺は。こんなに……
 こんなに、おまえを泣かせちまって……そうだ、大河」
「な、なによう……っ」
「トランプ、するか?」
「しないわよっ!! ……もうっ、竜児の、バカ……」


***おしまい***





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